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新人職人がSSを書いてみる 34ページ目 [無断転載禁止]©2ch.net
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0001通常の名無しさんの3倍垢版2017/07/11(火) 22:59:05.15ID:2NKWfveH0
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。

現在当板の常駐荒らし「モリーゾ」の粘着被害に遭っております。
テンプレ無視や偽スレ立て、自演による自賛行為、職人さんのなりすまし、投下作を恣意的に改ざん、
外部作のコピペ、無関係なレスなど、更なる迷惑行為が続いております。

よって職人氏には荒らしのなりすまし回避のため、コテ及びトリップをつけることをお勧めします。
(成りすました場合 本物は コテ◆トリップ であるのが コテ◇トリップとなり一目瞭然です)

SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
新人職人がSSを書いてみる 33ページ目
http://echo.2ch.net/test/read.cgi/shar/1459687172/

まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
http://arte.wikiwiki.jp/

新人スレアップローダー
http://ux.getuploader.com/shinjin/ 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:669e095291445c5e5f700f06dfd84fd2)
0087通常の名無しさんの3倍垢版2017/08/18(金) 12:53:37.94ID:tSosec1jO
更新乙であります。
援軍到着のくだりは「エリア88」のキムとセラの救出作戦を思い出しました。
あのシーン大好きなんですよ、なので艦これ知らない私でも
情景がありありと見えて良かったです。

二人乗り…今回は余裕なかったけど次回はぜひ
余裕の状態で当たってる当ててんのよの
ニヤニヤ展開を←下衆w
0088通常の名無しさんの3倍垢版2017/08/18(金) 20:19:05.63ID:+GduaNAt0
乙です
シンは何かしら訳知りな立ち位置なのな

>>87
相変わらず渋い趣味のお待ちで
0090ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:31:49.22ID:DDhAtvrz0
お二方感想ありがとうございます。
自分はエリア88は未視聴ですが、ピンチからの大逆転の描写はちゃんと伝えられたようでなによりです。
二人乗りはまたいつかやりたいです。
今回は訳知りなシンのお話です。

>>89
自分は自力更新です。でも、最初は誰かに掲載して頂いてました。
そういえばそのお礼をまだ言えてなかったので、今更ですが、どなたかわかりませんが掲載してくれてありがとうございました。

今回はかなりの難産でした。ようやく書けたので投下します。
0091ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:33:10.22ID:DDhAtvrz0
――艦これSEED 響応の星海――


「失礼しました。――・・・・・・ふぅ」
「・・・・・・どうだった?」
「・・・・・・お前、今まで待ってたのかよ?」
「悪い? だって、気になるじゃない」

11月7日の11時。
あの佐世保防衛戦から三日後、その昼下がりのこと。
無秩序にボサボサツンツンした濡羽色の髪に、妖しい光を湛えた紅の瞳が特徴的な青年、シン・アスカは眉間に皺をよせたまま固まった。呉鎮守府の執務室から恭しく退出したら、そこで天津風とバッタリ出くわしたからだ。
お互いが大なり小なりのしかめっ面。そして互いが「ああ、いつもの顔だな」と認識するだけの、一秒間の沈黙。
別に嫌悪感とかがあるわけではないが、かといって和やかに挨拶するほどの間柄ではない微妙な距離感が、二人の間にあった。大抵、二人が会う時はこの沈黙がまず先頭に来る。
そして、先に行動するのは決まって天津風だ。
腕を組んで壁にもたれかかっていたツーサイドアップの少女はツカツカと歩み寄ってきて、かと思えば青年の袖をつまんでそのまま、いずこかへと歩き始める。なんだなんだとシンはされるがまま、その後をついて行く。
出会って以来、これが二人の関係だった。

「たかだか三十分ぐらいよ、問題ないわ。・・・・・・で、どうなのよ」
「・・・・・・とりあえず、動けるのは早くて二週間後ぐらいだと。しかも最低二人は護衛つけろって」
「あら、意外と早かったのね」
「そうか?」
「そうよ」

二人の出会いは、まぁ、そう褒められたものではなかった。
不幸な事故、不幸な行き違いがあった。口論に至るほどのものではないが、ちょっと気まずい、そういった出来事。それで二人揃って尖ってて素直になれない性格なこともあり、ほんの少しの確執が今でも残っている。
とりあえず、お互いにしばらく距離を取っておこうかなーと思うぐらいの出来事があったのだ。ある人物はそれを「ありゃあ典型的なラブコメの導入編だったね。いやぁ、見事にコッテコテな」と笑いながら評したが、
当人達は至って真面目であった。
だが神の悪戯か、悪魔の罠か。
周囲の者達からは「喧嘩するほど云々」と捉えられたのか、天津風がシンのお世話係兼監視役に任命されたのだった。そこでもまた一悶着あったのだが、それもまた別のお話。
兎も角、それから少女がぐいぐい引っ張り、青年が渋々ついて行くという図式ができあがったのだった。
しかし二人はまったくもって気づいてはいない。
その距離が以前より少し、近づいていることに。

「あっちもこっちも、まだゴタゴタしてるもの。それを二週間で、しかも少人数の護衛だけでなんとかしてくれるって、相当便宜を図ってくれてるじゃないの」
「俺一人で行けばいいじゃないか。アイツも俺に会いたがってるっていうし」
0092ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:35:03.92ID:DDhAtvrz0
「必要なのよ。自覚ないんでしょうけど、アナタはVIPなんだから」
「VIPね」
「だから私はこうして戻ってきたんだし、ちょっとぐらいの不自由は我慢なさいな」
「やっぱりお前も付いてくるのか? 佐世保行き」

佐世保行き。
つまり、シンがキラに会いに行くにはどうすればいいのか、というのがこの話題の焦点だった。
事の発端は、昨日の夕方に呉に帰還した艦娘達からの報告。
異世界人であるシン・アスカの知り合いのキラ・ヤマトが佐世保にいたというビッグニュースを、当の天津風が持ち帰ってきたのだ。「聞いていた話とちょっと相貌が異なっていた」らしいが、とにかく五体満足で生存し、
どころか艦娘達と一緒になって戦っていたのだという。
俄には信じがたいことだったが、寧ろ自分の耳を疑ったが、これにはシンは素直に喜んだ。
自分のやったことは無駄じゃなかったと、密かに瞳を潤ませもした。
そこで、こりゃ早く会わねばとシンが呉の提督に直談判したのが、つい今さっきのことだったのだ。

「当然でしょ。なによ、文句あるの?」
「ないって。むしろ、こうなったらトコトン頼らせてもらう」
「ふ、ふん・・・・・・!」

件の防衛戦に参加した呉の艦娘は12人。その内の天津風含む5人は予定通りに昨日帰還して、残り7人は臨時防衛隊として佐世保鎮守府に長期滞在することになっている。
これは鹿屋も同様だ。流石にこのご時世に12人もの戦力を長期間他に回すほどの余裕はなく、けれど助けるだけ助けて後はほったらかしというのも有り得ないので、これが最大の譲歩案だった。
呉と鹿屋からの7人と、佐世保復帰組だけでも、体勢が整うまでの専守防衛なら事足りるであろうという計算だ。
その出向防衛組の滞在期間は二週間。
つまり、そいつらが帰って来るまでは、シンの佐世保行きはお預けということになる。
深海棲艦との戦争は若干人類側が優勢とはいえ、やはり戦力はカツカツなのだ。
異世界人とはいえシン一人の為に呉の戦力は減らせない。佐世保で一戦力となっているキラが動くなんてことも論外。それが佐世保と呉の提督が有線通信を用いて協議した末の、結論だった。
二週間。
短いようで長いなと、シンは溜息をつく。

「・・・・・・なぁ。そういえばさっきから、どこに向かってるんだ? 俺、メシ食いたいンだけど」

ところで、天津風はこれから何処かへ出かけるのか、白いロングワンピースに黒のカーディガンを羽織った私服姿だった。縁起の良い紅白カラーのマフラーを腕にひっかけて、どこかお嬢様然とした出で立ちだ。
こうなると本当にただの綺麗な女の子といったものだが、勿論彼女は立派な艦娘である。
艤装を解除して、艦娘としての超常的能力の大半を封印した非戦闘モードの彼女――因みに、艦娘としては艤装を装備している状態こそが自然体である――だが、それでも通常の人間とは比べものにならない身体能力を備え
ている。遺伝子調整を施して生まれたコーディネイターでありザフトのトップエリートだったシンだが、所詮は普通の人間、彼女に袖を掴まれては振り解くことは出来なかった。もとよりする気はないが。
しかしだからといって、このままでいいわけもなく。
0093ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:37:05.77ID:DDhAtvrz0
代わりにシンは抗議の声を上げる。ついでに腹の虫も声を上げた。
そろそろ空腹も限界で、提督と話し終わったし食堂に行こうと思ったところで少女に捕まったのだ。いい加減解放して欲しい。食事は何よりの癒やしなのである。
それをなんの権利があって、この小娘は邪魔するのか。
方向からして食堂とは正反対の、エントランスのようだが。お出かけするなら勝手にどうぞ。

「それね、残念だけど今日は食堂やってないのよ」
「は?」
「ちょっとしたトラブルがあってね。復旧は明日の昼頃って」
「マジ? ・・・・・・え、マジで? 売店は・・・・・・てか、それでもなんかあるだろ? 賄いのとか」
「マジよ。酒保とかも今から行っても間に合わないわ。軽食争奪戦は私達の不戦敗ね」
「なんだよ、それ・・・・・・!?」

待ってほしい。
なんの冗談だ、それは。
シンの顔が絶望一色に染まる。
この呉にやって来てからというものの、食事は全てここの食堂でお世話になっていたのだ。今までずっと外出を許可されなかった――というか、実質軟禁状態のシンにとって、食堂のタダ飯は命綱である。
もはや世界の全てと言っても過言ではない。
それで、そもそも異世界人であるが故に無一文なので利用したことはないが、酒保もダメと。サンドイッチとかも全滅と。
え? 三食抜き? そりゃその気になれば耐えられるけどさ、飢えちゃうよ俺? 
となれば、それはつまり世界の終わりではなかろうか。
いやまてはやまるな。
冷静に考えればここは軍の施設、こういう事態を想定してカップメンや缶詰といった備蓄はあるだろうが、天津風曰くそういったものは出撃した艦娘に優先的に回されるらしい。
今日明日の食事は各個人でなんとかしないといけないと。
ならば、どうする? 繰り返すがシンは無一文だ。一応VIPらしいがその身分は一体如何程のものだろうと、彼は頭を捻る。上の連中はちゃんと考えてくれてるのだろうか? 正直、怪しいところだが・・・・・・上の連中、うえ、うえか・・・・・・
俄に腹の虫が、なんか食わせろと大合唱し始める。「飢え」という一文字で一杯になった頭は上手く回らなくなる。どうすればいいのか皆目見当もつかなくなった。
なんにせよ、今すぐ何かを腹に詰め込まなきゃどうにもならない。もう待ってなどいられなかった。
そんな哀れな男を助けるのは、やはりお世話係兼監視役の少女、天津風。

「だから外食するわよ。ついでに服も買わないとね。外出許可は取ってあげたから、折角だし街も案内したげる・・・・・・私の奢りよ、感謝なさい?」
「・・・・・・誠にアリガトーございます天津風サマ」
「よろしい♪」

こうしてシン・アスカは、初めて呉の街に繰り出すことになったのだった。
0095ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:39:34.29ID:DDhAtvrz0
《第7話:紅き瞳を導きし、新たなる風》



どうやら保護者と一緒なら外出許可が下りるらしい。
エントランスで待ち合わせしていたらしいもう一人の少女と合流した天津風一行は、まず服屋に立ち寄った。
買い求めるはシンの私服である。
なにせ今の彼は、全身真っ赤なザフト赤服一着しか持っていないのだ。厳密に言えばパイロットスーツもあるのだが、アレは服としてはカウントしないだろう。
一応、提督から譲ってもらった部屋着と作業着もあることにはあるが、それも借り物なうえに外出には適さない。いい加減に自前の服を揃える必要があった。なにせ赤服は目立つ。この世界ではどう控えめに見ても、何かのコスプレのようだった。
鎮守府の門から出てきた青年は、当然とばかりに世間の皆様の視線を一身に集めることと相成った。
こう言ってはなんだが、艦娘の戦闘用ユニフォームもなかなか奇抜で特異で非現実的というかソレ着てて恥ずかしくないのと疑問に思うものばかりなのだが、ぶっちゃけそれと同レベルなのだ、赤服は。
当の艦娘達はもうそんな奇異の目には慣れたし気にしない――こればかりはどうしようもないらしい。
是も非もなく、生まれた時からその服とセットだったのだ――が、今や世間では「浮き世離れした格好=艦娘」という誤解極まる図式が成り立っている。
そんじょそこらのアニメ漫画より、艦娘のほうが影響力のある世の中である。人類の希望だからね、仕方ないね。普通に学生服や和服な娘も多いんですけどね。
まぁそんなわけで、今のシンは年甲斐なく艦娘っぽいコスプレしてる残念なイケメンとして見られているのだ!
せめて誰かにコートか何かを借りるべきだった。
C.E. ではトップエリートの証だった赤服がそのように見られるというまさかの屈辱にシンの頭は沸騰寸前になるが、そこは旧ザフトが誇るスーパーエース、なけなしの自制心でぐっと堪えた。
うん。これ、なんて羞恥プレイ?

「くそぅ・・・・・・いつか見返してやる」
「誰によ」
「さぁ?」

そんなわけで、シンは普通の服を手に入れた。
嗚呼、素晴らしきかな普通。普通であることの幸福感は、きっとかけがえのないものだろう。
黒のジャケットに臙脂のシャツ、これにジーンズとブーツとでカジュアルコーディネイトされたコーディネイターは、どこからどう見ても立派な一般人である。
その他にも赤系統の服を数着入手して、部屋着共々だいぶ選択肢が増えた。しかも結構格安で。なんでも艦娘なら割引されるらしい。というか、艦娘達の給料ってどうなってるんだろう。
なにはともあれ。
これで、第一目標は達成された。

「シンさーん。これなんかどうでしょう?」
0096ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:41:04.34ID:DDhAtvrz0
「マフラーか。確かに・・・・・・サンキューなプリンツ」
「Gern geschehen! シンさんって何でも似合いますね。コーディネイトし甲斐がありますよー」

された、の、だが。
おさげにした黄金色の髪と、翡翠色の瞳を持つ少女、プリンツ・オイゲンが嬉々として次々と新しい服を持ってき始めた。フリルいっぱいのミニスカートをひらひらさせて、あれよこれよと店内を忙しく巡る。
なにやら乙女心に火がついたらしい。
彼女はドイツ生まれドイツ育ちのアドミラル・ヒッパー級三番艦重巡洋艦の艦娘。約三年前に日本国に出向してきて、天津風と同じ支援部隊に配属、その縁で彼女らはよく一緒にショッピングしたりするとか。
余談だが、呉鎮守府は彼女のような海外からの出向艦を多数受け入れており、多国籍艦隊を中心に運用している世界でも珍しい存在なんだとか。佐世保に臨時防衛隊として向かったドイツ出身のビスマルクや
グラーフ・ツェッペリン、イタリア出身のザラとポーラはその一角だ。他にもイギリスやアメリカから来ている者もいるという。
西太平洋戦線は世界中から重要視されており、呉はその前線基地として機能している為、海外からも精鋭が送り込まれてくるという理屈だ。
さて。
そんな精鋭の一人であるプリンツとシンは今回初めて会話することになったのだが、実は、彼女は彼のしかめっ面を恐れていた一人だったりする。
鬼の形相とまではいかないが、かつて「独りでにすっ飛ぶ抜き身のナイフ」とまで囁かれた青年の眼光は、多少丸くなったとはいえ少女達をビビらすには充分過ぎるものだった。
尤も、悩み多き青年が突如置かれた異世界の、軟禁同然の生活環境で「リラックスして肩の力を抜きなさい」というほうが無茶なので、ずっとしかめっ面であったのは仕方のないことなのだが。
つまるところ、この世界の人間からしたらシンは「異世界の軍人で、巨大なロボットに乗って人間同士の戦争を生業としてきた目つきの悪い青年」といった感じに映るわけで。
そりゃ誰だってビビる。たとえ大の大人であっても、歴戦の艦娘であっても。誰も彼もがシンを遠巻きに眺めるだけだった。
実際、さっきエントランスでよろしくと声を掛けられた彼女は、それはそれはわかりやすくビクゥッと身体を硬直させたものだ。内心ただならぬショックを受けたシンであったが、天津風が仲介することでなんとか
挨拶を済ませることができた。
そこまで来ればもう一息。彼は人付き合いが苦手なタイプではない。
初めての外出でリラックスできたことも大きいのだろう。移動しながら会話を重ねるにつれて「なんだ顔が怖いだけでなかなかフランクな人じゃないの」と誤解を解くことに成功し、
ついで「笑った顔は意外と可愛い」という心外な評価を得たシンは、なんとかプリンツの信頼を勝ち取るまでに至ったのだった。

「このしかめっ面さえなければねぇ」
「そうですよ。とても整った顔立ちしてるんですから、笑わなきゃ損ですって」
「そ、そうか・・・・・・?」
「あっ、天津風! これも良いかも! ・・・・・・ほぉ、ほぉほぉ、なるほどねぇー」
「プリンツ。これもイケると思わない? いい風きてるわ、この組み合わせは試す価値ありそうね」
「・・・・・・なぁ二人とも。いい加減・・・・・・」
0097ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:43:51.74ID:DDhAtvrz0
天津風とプリンツ・オイゲン。
それなりにシンと仲良くなった二人の情熱は、よりヒートアップしていく。
女の子と一緒の買い物である。目的は済ませたからハイじゃあ次、とはいかないのだ。こういう時、男の立場は限りなく低い。
彼女らに「ちょっとだけ」と着せ替え人形にされるのは、もはや必然でさえあった。最初こそ悪い気はしなかったものの、流石に半時間もマネキン代わりにされると・・・・・・
とっかえひっかえ。シンはこれ以上ないぐらいに早着替えを要求された。
加速度的に、その両腕に紙袋がぶら下げられていく。男モノだけでこれだ、女モノのコーナーに行ったらどうなるんだろう。
シンは額に嫌な汗を流しつつ、同時にある懸念を抱いた。
さて、彼女達は覚えているだろうか、と。
この外出の主役はランチであるということを。
そろそろ、いやマジで、限界なんだけど。目が回り始めてきたんだけど。
まさかこのショッピングだけで、あと何十分も続くなんてことは・・・・・・
お二方、楽しむのも結構ですがね?

「・・・・・・あ」
「〜〜ッ!」
「そ、そろそろ行きましょうか?」
「そ、そうですね! お腹すきましたし!」

だが安心してほしい。
「それ」はなにも、シンだけの問題ではなかったようだ。
きゅるる〜、という可愛らしい音が、三人の腹から同時に発せられる。結構、店内に派手に響いた。主観的に。
それを合図に、三人はそそくさと服屋を後にしたのだった。
0099ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:47:02.89ID:DDhAtvrz0




「お待たせ致しました。かずきカレーセットと、あきらカレーセット、みなしろシチューセットです。ごゆっくりどうぞ」
「おお、きたきた」

天津風が「かずきカレー」、プリンツが「あきらカレー」、そしてシンが「みなしろシチュー」だ。これに「かずきサラダ」と「みかどケーキ」が人数分。なかなかに素敵なランチが頂けそうだった。
喫茶・シャングリラ。
海辺に面したアットホームな雰囲気の店で、メニューには作った人の名前がつくというちょっと不思議なルールがある。
また、店内には何故か大きなカジキの置物があって、それらが普通の喫茶店とは一味違う独特な空気感を醸し出していた。なんでも、呉の艦娘達に人気な店なんだとか。
甘ったるい声のウェイトレスさんが下がると、三人は待ってましたと匙を握った。

「いただきます」

声を揃えて、大ぶりなスプーンで一口。

「! ・・・・・・これは、美味い」
「でしょでしょ! 今日のあきらカレーは辛口南国風みたいだけど、これもおいしー! Lecker!!」
「かずきカレーは――うん、シンプルにビーフカレーね。やっぱり流石、マスターは」
「え、なに。同じ名前で違うことあるのかよ?」
「それがお楽しみなのよ。前のかずきは甘口チキンカレー。それでいて全部美味しいんだから」

なんとまぁ、本当に独特な喫茶店のようだ。よっぽどの腕と自信が無ければこうはいかない。
シンが頼んだシチューもこれまた絶品で、苦手な貝柱とキノコが入っていたのだがペロリと平らげることができた。小娘達の手前、勇気を出して食べてみて良かったと心から思うシンであった。
こんなに美味いものを食べたのは久しぶりだ。
そうして、それぞれメインを堪能して、ケーキに舌鼓を打って。

「はいこれ、サービス。いつも来てくれるから・・・・・・好きだろ?」
「あ、マスター・・・・・・ありがとうございます。いただきます」
「メロン味! Danke、マスターさん♪」
「・・・・・・ども」

途中、マスターが飴玉をプレゼントしてくれたり、

「彼氏さん?」
「違います」
0100ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:49:07.48ID:DDhAtvrz0
「即答かよ。いいけどさ」
「そうなの? おかしーなぁ」

ウェイトレスさんにからかわれたり、

「先輩大変です! 一航戦が・・・・・・一航戦が呉駅から接近中って!」
「なんだと!? バカな、早過ぎる!」
「ヴァッフェ・ラーデン(第一種警戒態勢)始動! 翔子、カレー増産急げ!!」
「わざわざ横須賀から・・・・・・!? こうしちゃいられないわ。プリンツ、シン、手伝うわよ!!」
「りょ、了解!」
「え、俺も!?」

なんか襲来してくるらしい計二名の団体様をもてなす為に、何故か厨房に立つことになったりもしたが・・・・・・意外と喫茶店で働くのもアリかもしれないとシンは密かに思う。うん、C.E. に帰れたら軍なんか辞めてやろう。
まぁ、なんか色々あった。

「ごちそうさまでしたー」
「あの二人は一体なんだったんだ・・・・・・」
「ただのフードファイターよ。気にしないで、私は気にしない。・・・・・・じゃあ、次にいくとしますか」

そんなこんなで満腹になって喫茶店を出た三人は、天津風が言っていた通りに呉の街を観光することになった。
二人の少女に引っ張られ、やれやれとついて行く青年の顔からは、いつの間にか皺は無くなっていた。
まだまだお昼時。すっきり晴れ渡った高い空の下、活気溢れる町並みをのんびりと征く。
ショッピングモールに突入して、女モノの服を物色して。
本屋に入って、世界情勢に関する雑誌や漫画本を買って。
ゲームセンターに行って、プリンツがジャンル問わず無双を誇って。
屋台で購入したクレープで、危うく間接キスしそうになって天津風が慌てて。
そこらの少年少女の青春模様と同じような休日を満喫する。
いつしか三人で、一緒になって笑い合って。
そうした行為のなにもかもが、シンにとっては初めての体験だった。

(ルナと一緒にこうして街を歩くことも、なかったっけな)


その体験は、否が応にも青年の過去を刺激する。


思えば。
シン・アスカという男は、いつも閉じた世界にいた。
あの運命の日、14歳の初夏。天涯孤独の身となったオーブ解放作戦まではずっと家族に、妹にべったりだった。
勿論クラスメイトと遊んだりはしたが、それも男友達とスポーツをするかゲームをするかといった感じで。あの時は家族の存在こそが世界の全てで、それ以外はいらないとさえ思っていた。
0101ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:51:20.60ID:DDhAtvrz0
それから独りで宇宙に上がり、「己にもナニかを護れる力を」とザフトに入隊してからは自ら独りでいることが多く、もう戻らない、家族と過ごした幸せな日々に想いを馳せてばかりだった。
猪突猛進に、直情的に、考えなしのまま力を求めた。
それでも何人か友人はできたが、いつも腹の中に渦巻く怒りが、彼らと自分の間に明確な線を引いていた。彼らに遊びに誘われても、どこかが醒めていた。なんでお前らはそんな暢気なんだと。
チームメイトで相棒のレイ・ザ・バレルにも、後に恋人になったルナマリア・ホークにも。また戦争が始まるまでは本音をぶつけた合ったことさえもなかった。
彼は決して、人付き合いが苦手なタイプではない。けれど自身の悲惨な過去が、他人との接点を拒んでいた。他人を軽んじていた。今にしてみれば、なんて冷たいヤツだろう。
かつて「独りでにすっ飛ぶ抜き身のナイフ」とまで囁かれた狂犬は、誰にも心を赦していなかった。

(戦争になってからは、どんどん余裕もなくなって。なにも見えなくなって)

シンはいつも閉じていた。
アーモリー・ワンでの騒動を機に始まったユニウス戦役では少しは仲間達と打ち解け、正面から臆面無くモノを言い合える上司にも出会ったのだが、しかし自分の心が限界を迎えるほうが早かった。
状況はちっぽけな少年の許容値を軽々と超えた。
信じていたものに裏切られ。
護りたいものは守れず。
大切な人を殺して、あるいは殺しかけて。
何度も、何度も。
望む世界があった筈なのに、無自覚に周囲に流されてしまっていつの間にか望むモノをすり替えられて。
募るばかりの怒りと困惑に、ただただ支配された。なにも考えられず、示されるまま力を振るうしかなかった。
戦争だからと、平和の為だからと、お前らが悪いと、最後まで走り続けた。
己にもナニかを護れる力を。その想いばかりを暴走させて。
もう、どこまでも閉じるしかなかった。

(欲しかった世界、力。俺は結局、誰も見ていなかった癖に、見ようとしなかった癖に、何を為せると思ってたんだろう)

だから、与えられた力で己の心と過去を護ろうと、目と耳を塞いで戦った自分が。
最後に、開いた未来を求める彼らに敗北したのは、必然であったのかもしれない。
その後。戦争に負けて、唯一自分のそばに残ってくれたルナに支えられ救われたシンだったが、けれど新地球統合政府の為に戦う日々の中では、二人の時間というものもなかなか取ることが出来なかった。
だから、こんな風に誰かと街を歩くことなんてなかったのだ。
そんな過去が、青年の首筋をちくちくと刺激した。
そんな人間が、今この時、二人の少女と笑い合ってるなんて、どんな因果だろう。

「――ふぅー」
「お疲れ様。コーヒー、ブラックで良かったかしら」
「サンキュ。・・・・・・にしたって、買いすぎだろ」
0102通常の名無しさんの3倍垢版2017/09/14(木) 04:53:32.04ID:F/9FvV3M0
連投回避
0103ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:53:59.92ID:DDhAtvrz0
「あら、女の子はこれぐらい普通よ」
「そうかよ」

太陽が西に傾きかけてきた頃。
一行は臨海公園で一休みすることにした。整備が行き届いたベンチに座り、三人揃って缶コーヒーを啜る。流石に歩きぱなっし喋りぱなっしで疲れたのか、暫し無言のまま蒼くさざめく海を眺める。
眺めてシンは、今度はこの二人と歩いたこれまでの道筋を思い返す。
たった四時間と少しだけだが、確かに沢山の出来事があった。どれもこれもが大切な思い出になると断言できるような、濃密な時間。
その尊さを知ってから初めて享受できた、普通の人間としての平和。
そう。


この街は、本当に平和そのものだった。


戦時下とはいえ、人類共通の敵を相手にしていることもあるのだろう。
幼き自分が力を得て、戦ってでも欲しかった優しくて暖かい世界が、ここにはあった。

「受け入れられてるんだな」
「そうね。ありがたいことにね」

おもむろにシンは紅の瞳を細めて、力なく呟いた。

「極端な人もたまにいるけど、私達はここで生きていくことができてるわ。普通の女の子としても」
「ここだけじゃないですよ。皆さん、どこに行ってもよくしてくれます」
「そうか・・・・・・」

それはただの感想、独り言のつもりだったが、それぞれ思うところがあったのだろう。天津風とプリンツはしみじみと頷いて応える。ミルクたっぷりのコーヒーを口に含み、その眼差しを遠く水平線へと向ける。
彼女達もまた、自分達という存在が「どういうモノ」かを十全に理解しているのだ。
青年が何故そんな感想に至ったのかをも察して、静かに次の言葉を待つ風情で

「――っ」

そうと感じ取れたから、だからこそ、シンは溢れ出てくる感情を押し込めることができなくなった。
言葉を聞いて貰いたくて、たまらなくなる。
ただの独り言のつもりが告白となって、勝手に青年の心情を少女達に伝達する。

「俺には、眩しすぎる」
0104ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:56:05.49ID:DDhAtvrz0
歩いてみてわかった。
この街の人々は平和に感謝し、そして艦娘という存在を受け入れているということが。
共存。
共栄。
この二つの単語が根付いているということが。

「なんで――」
「?」
「――なんで、俺は。俺達は。こんな世界にいられなかったんだろう」
「・・・・・・」

シンの言葉に、二人は困ったように顔を見合わせた。
彼女達は艦娘。
人間と同じような姿形をしているが、根本的に異なる生命体だ。遺伝子改造の有無とか、そんな次元の話ではなく、存在の在り方そのものに絶対的な違いがある。
誰がどう唱えたところで艦娘と深海棲艦はヒトデナシの化物である。
人間は窺知しがたいモノを、己とは違うモノを、わからぬモノを拒み遠ざけようとする生き物だ。異質は不安を呼んで、やがて憎しみとなって対立することも沢山ある。
人は容易く敵になることを、容易く手のひらを返すことを、シンは戦争を終えてから知った。
人同士が殺し合う戦争がなくても、それが平和と、平穏とイコールになることはない。
争いは何処にだってあって、たとえ夫婦だろうが家族だろうが、わかりあえずに、けど無関心ではいられずに牙を剥くことは珍しくない。
同じ人間同士なのにあらゆる分野で状況で、故あれば争わずにいられない。容易くその手に銃をとる。
他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。
部族間戦争、国家間戦争、種族間戦争、夫婦喧嘩、兄弟喧嘩、いじめ、利害、契約、命令、怒り、憎しみ。
ただの人間同士でこれだ。
だからC.E. では、コーディネイターとナチュラルが宇宙に上がってまで戦争をした。取り返しのつかない大き過ぎる人種間対立の果てに、総人口は最盛期の3割以下までに減った。
人類史上最大最悪の殺し合い。嫉妬と羨望、傲慢と優越感の極み。コーディネイターとナチュラルは、所詮遺伝子を弄ったか否かの違いしかないのに、互いが互いを窺知しがたいモノと、己とは違うモノと、
わからぬモノとして扱った。互いが欲しがった世界が、力が、良かれと思って起こした行動が、世界を容易く引き裂いた。
互いがちゃんと真っ正面から受け入れ合うようになったのは、二度の大戦を経て新地球統合政府が発足してからのことだった。ようやくの、余りにも遅い和解だった。

「あんなハズじゃなかった。あんな世界が欲しくって戦ったんじゃない。俺も、みんなも、大切な誰かと静かに暮らせる世界が欲しかっただけなのに、平和を願って争うんだ」

なのにここに争いはなく、両者は善き隣人として受け入れ合っている。
街を歩けば誰もが笑顔で迎えてくれた。
服屋で、喫茶店で、ショッピングモールで、本屋で、ゲームセンターで、屋台で。
0105ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:58:04.07ID:DDhAtvrz0
少女達が艦娘だと気づけば、お疲れ様とか、いつもありがとうとか、頑張ってねとか。そういった暖かい言葉が当たり前のように降り注ぐ。
何故?
人間と艦娘は、コーディネイターとナチュラルの比ではないぐらいに違う存在なのに。
神格化されているわけではない。畏怖されているわけではない。迫害されているわけではない。
深海棲艦という強大な人類の敵がいるからといって、それは余りにも不思議だった。
これでは、まるで。


「まるで、人間の出来そのものが違うみたいじゃないか」


「それは・・・・・・」
「選んだ道を後悔してるわけじゃないけどな・・・・・・。けどやっぱり、こんな世界を見てるとそう思うよ、俺は」

それっきり、シンは瞳と口を固く閉ざして俯いた。
しばし波の音だけが空間を支配する。三人は黙りこくって、すっかり空になった缶を弄ぶ。シンはどうしてこんな泣き言めいたことを言ってしまったのかと後悔して缶をグシャリと握り潰し、天津風とプリンツはシンの言葉を反復するように淵をなぞった。
沈黙が重い。
想いが重い。

「・・・・・・」

天津風はその想いにどう応えるか、決めあぐねていた。
この青年が人間同士の戦争に参加していたのは、表面上のみだが知っていた。その言葉に込められていると感じた、計り知れないほどの悔恨の念と憧憬の念は間違いようもなく本物なのだろう。

(きっと自分の世界を、人間を、好きになれていないのね)

この世界と比較して、自分達にはできないと感じてしまったのか。
言いたいこと、言えることは沢山あるが、さてどう切り出したらいいものか。
柄にも無く迷う。
そうして意味もなく青年の横顔を見詰めていると。
一陣の風が三人の間を吹き抜けた。
キリリと身が引き締まる冷たい風。
それに後押しされるように、ええいままよと天津風は意を決して、思考を言葉に乗せた。

「――結局、そこにいるヒト同士の気持ち次第なんじゃないかしら」
「え?」
「受け入れること、受け入れられること。アナタの世界には、それが欠けてたって思うのね?」
「・・・・・・ああ」
0106ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 05:00:11.67ID:DDhAtvrz0
「・・・・・・でもね。この世界も多分、アナタが思ってるような都合のいい、優しいだけの世界じゃないわ。みんなが私達を受け入れてくれたキッカケは、けして善意だけじゃない」
「・・・・・・どういうことだ?」
「政治的な思惑もあるってことですよ、シンさん」

今まで沈黙を保っていたプリンツが、天津風の言葉を引継ぐ。

「私達がちゃんと人類の意に沿うようにと。そういったオトナの事情があったのも確かなんです」
「なんだよ、それ。そんなの――!」
「私達が艦娘と呼ばれるようになった経緯はご存知ですか?」
「・・・・・・え、あ、ああ。知ってる。でもそれがどうしたんだよ」

その突然の質問に、シンは面食らった。本題とズレてないか? と訝るが、プリンツにまぁ聞いてと宥められる。
一体どういうつもりだ?
疑問に思うが、ひとまずシンは呉の提督が言っていたことを思い出す。
艦の娘と書いて「かんむす」。
彼女達を単なる兵器として扱いたくない派閥が提唱し、定着したその名称。

「最初にかんむすって聞いた時、どう思いました?」
「それは・・・・・・」
「正直に言っていいわ」
「・・・・・・、・・・・・・あー。ぶっちゃけ、なんだその巫山戯た名前って、思った。はぁ? 仮にも軍のモノの名前がそんなんでいいのかよって」
「あ、やっぱり? 実は私もそう思ったの」
「私もって・・・・・・なんなんだよ、そんな質問をいきなり」

にっこりと笑顔を浮かべるプリンツに続けて、天津風。

「その呼称と一緒にね、ある仮説が発表されたの。深海棲艦と艦娘を、人智を超えた存在を、まったくわからないなりに大衆に解りやすく定義付けた仮説が」
「それも提督から聞いた。防衛省のだろ?」
「そうよ」

命を産んだのが海であるのなら、心を産むのもまた海である。
人間の記憶や想いといった霊的エネルギーが海に集い、飽和し、カタチあるものとして顕現したのが彼女らである。
艦娘は人間の善意が、深海棲艦は人間の悪意が。それぞれ過去に沈んだ少女と艦、それに残留していた記憶と想いを媒介に誕生した新しい生命体なのだと。
そんな抽象的で勧善懲悪的で幻想的な仮説。
どうせわかりもしない真相などどうでもよい、わかりやすさと聞き心地の良さだけを追求した「人間の言葉」。
艦娘という固有名詞とソレは、瞬く間に世界中に広まった。
0107ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 05:02:06.14ID:DDhAtvrz0
「仮説というよりはプロパガンダのほうが近いかも」

全ては艦娘を人類の味方につける為の「言葉」だった。
是非とも、艦娘には戦って欲しい。人間同士で、艦娘と人類とで疑心暗鬼になっている場合じゃない。
艦娘は人類の味方である崇高な存在であることを民衆に、人類は一枚岩であることを艦娘に、それぞれ示さなければならない。
人間に不審の目で見られ、脱走や反逆を考えられたら堪らない。人間は信用ならないと、敵になったら最悪だ。
艦娘の精神構造も人間のソレと大差はないらしい。人間とは全く違う、人の手に負えない存在を懐柔する為には、まず世論操作が必要だった。
人間社会では当たり前の計算と計画があった。

「でもその妙ちきりんな名前とふんわりした仮説がね、私達を助けてくれたのも事実なの。それまで、みんなピリピリしてたから。人間が相手でも、艦娘同士でも」
「みんな雰囲気が柔らかくなったよねぇ。利用されてるってのは変わらないけど、まぁ悪くないかなって」

その政治的な目論見は成功した。
海を化物に支配された現状で、みながみな緊張状態だったなか、民衆が艦娘を受け入れる下地ができた。「私達は貴女達を歓迎します。だからどうか戦ってください」と、更なる軍拡をスムーズに進行させる用意ができた。
艦娘側も、人類に認めて欲しかったから、あえてそれに乗った。
ただそれもキッカケに過ぎなくて。
そしてそこで、誰もが予想しえなかった方向に状況が動いた。

「そしたらね、私アイドルになる! って言い出す艦娘とかが出てきてね」
「・・・・・・は? なんだそれ」
「おかしいでしょ? けどそれで本当に、私達は世間に受け入れられるようになった。同時に、彼女達によって戦い以外の選択肢も提示されて」
「今やトップアイドルだもんね那珂ちゃん達。最初は勢いとやる気だけで凄く苦労したらしいけど・・・・・・私もファーストライブ観たみたかったなぁ」
「あら、じゃあDVD貸すわよ。・・・・・・それは今は置いといて」

偶然テレビで見たアイドルに憧れ、自身もそうでありたいと願った少女を筆頭に、人類の思惑を超えて自ら人間社会に干渉し始める者が出てきたのだ。
認められたくて、自由になりたくて。刺激を求めたくて、満たされたくて。表現したくて、繋がりたくて。思い思いに、普通の人間と同じように戦争以外の道を模索する。
芸術の道を志したり、レーサーをやってみたり、グルメの旅をしてみたり、料理をしてみたり。艦娘の機嫌を損ねることを恐れた軍令部はそれを止めず、渋々とある程度の自由を容認することしかできず。
そんな艦娘に感化されて、それまで軍施設に引きこもっていた少女達もおっかなびっくり街に出るようになって。
そして遂に艦娘達は民間人と交流するようになり、やがて、みんなから愛される存在になることができた。


自分を知り、他人を知り、繋がり方を自分で考え感じる。
0109ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 05:03:12.30ID:DDhAtvrz0
己の記憶と信念に基づいて自ら戦うことを選び、けれど命じられるまま戦うしかなかった少女達が、一人の女の子として人類に受け入れられた瞬間だった。
人間社会と同じように、個人的な繋がりが大きな流れになった。

「結局何が言いたいっていうと、人間と精神構造が変わらない私達だから、社会的な隣人との付き合い方も同じなの」
「そういった一つ一つの思惑や思いが絡み合って、偶然、運良く善い方向に転がった結果が今。人は容易く敵にもなるけど、友達にもなれるのが人だから」

同じような展開があっても、何かが違えば実験動物扱いされてたか、三つ巴の戦いになっていたかもしれないと苦笑して締めくくった天津風。
その言葉に、シンは絶句する。
結局、そこにいるヒト同士の気持ち次第なのだと。隣人と敵になるか友達となるかは。
そんな当たり前のことを忘れていた。


C.E. でも、何かが違えばもっと早くから平和になってた――?


歴史にifはない。そんな仮定に意味はない。
けれど「そんな可能性もあったかもしれない」ということを考えられる思考回路そのものがすっかり抜け落ちていたことに、彼は今になって気づいた。
あの戦争はなるべくしたなった、必然のものだと思っていた。
個人の想いなど何にもならない、募った悪意と煽動者によって突き動かされたコーディネイターとナチュラルの敵対は、絶対に逃れられない運命だったのだと。
人間の在り方そのものが、それ以外の道を消していたのだと。
でも、違った? 結局のところ、状況を言い訳にして受け入れること、受け入れられることを自ら放棄していた?

「俺の世界の人間も、こうなれたかもしれない可能性があったのか?」
「都合のいい、優しいだけの世界なんてないもの。どこも政治的な思惑に満ちてて・・・・・・言葉で、状況で、人は簡単に大きな流れに飲み込まれて。
けど、受け入れること、受け入れられることはやっぱり当人同士の気持ちの持ちようでしかないのよ、きっと」
「だからそんな、自分の世界のことを悪く思わないであげてください。そんなの悲しすぎますよ」
「・・・・・・!!」

計算通りにいかない、儘ならない、何がどう転がるのかわからないのが世の中というものだから。
二つの世界といっても人間の精神構造はそう大差ないのだから。

「この世界も、アナタの世界も、ちょっとだけ何かが違っただけでしかないと思うの。だから・・・・・・そう、アナタの世界もそんな悲嘆することばかりじゃないって、人は過ちを繰り返すばかりじゃないって私は信じてるわ」
「いつかシンさんの世界も、この世界より平和になりますって。だって、シンさんが頑張ったから、地球もキラって人も助けられたんでしょう?」
0110ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 05:05:19.44ID:DDhAtvrz0
「・・・・・・そうか、そうだな」

あの戦争は本当に、どうしようもなく避けられない、仕方のないものだったのかもしれないけど。
だけどもうちょっと、あの世界の可能性を信じてみても良いのかもしれない。
そう。あんな世界だけど、それでも護る為に再びその手に剣をとったのは自分自身じゃないか。
少し、ほんの少しだけ、自分自身が開けたような気がした。

「ありがとな、天津風、プリンツ」

また明日、という言葉が何処かから聞こえてきた気がした。
それは幻聴だと知っていたが、懐かしいその声に思わず肩が震えた。

「いらないわよ礼なんて。アナタがあんまり情けないコト言うから、思ったことを言っただけなんだから」
「シンさん、とても沈んだ顔してましたから。放っておけませんよ」
「わかってるさ。でも、楽になった」
「そう。ならよかったわ」

素直な感謝の言葉が自然と出てきたことに自分でも驚きつつ、でもそれは良いことだと受け止める。
まったく、他人から見ればなんとてこともない平凡な一日だったというのに、なんだか昨日までの自分とはまるで別人になれたような気分で。
久しぶりにとても良い気分だ。

「さっ、難しい話はこれまで。夕飯の材料を買いに行くわよ!」
「作るのか?」
「キッチンが使えないから、今夜は庭でバーベキューパーティーらしいわ。外出するならついでに食材買ってきてって言われてるのよ」
「Wunderbar! ドイツ出身艦娘の腕の見せ所です!」

ぽんっと掌を合わせた天津風が立ち上がりながら言い、プリンツが瞳を輝かせて勢いよく飛び上がる。
早くも夕飯に思いを馳せているのか、二人とも本当に良い笑顔だ。
そうしていると本当、ただの歳相応の子どものように見えた。さっきまで人間についての持論を語っていた人物と同じとは思えなくて、そのギャップに思わず笑みが零れる。
今までずっと燻っていた自分がバカみたいだ。

(もう、らしくもなく思い悩むのは止めだ)

ここに転移してきてからずっと考えていた。
C.E. はちゃんと破滅を免れたのか、とか。
この世界でどうやって生きていけばいいのか、とか。
そういうのは、この世界の人間を信頼して、自分にできることをやりきってからにしよう。
そして、これもこの街を歩いてみてわかったことだが、やっぱり自分は行動してなきゃ気が済まない性分なのだ。鎮守府で大人しく誰かが持ってくる結果を待つだけの生活など、性に合わないのだ。
0111ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 05:07:08.75ID:DDhAtvrz0
だから行動しよう。
今の自分自身にできることをしよう。
自分一人でやるつもりでいたが、愛機のデスティニーを修理にみんなに協力してもらおう。そしてできるだけの準備をしてキラに会うのだ。
そうと決まれば、きっとやらなきゃならないことは沢山ある。

(二週間なんてあっという間だ)

長いようで短い二週間。
忙しくなるぞと、シンは気合いを新たに立ち上がる。

「バーベキューするなら、焼き芋も一緒にどうだ? たしか今が旬だろ?」
「ナイスアイディアね。いいじゃないの」
「レンタカー手配してきますね! 買いまくりますよー!」

そうして二人の少女と共に、青年は再び紅に染まりつつある呉の街を練り歩くことになったのだった。
0112ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 05:16:53.30ID:DDhAtvrz0
以上です。
ナイーブ回路全開のシンというものを上手く表現できてるといいんですが。

ところで、今回は自分のSSのイメージ画を描いてみました。
もし興味があったら見てみてください。こういうのOKですよね?
ttps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=64763737
0113通常の名無しさんの3倍垢版2017/09/15(金) 00:43:17.50ID:zrkPeqNx0
更新乙です、てか絵うまっ!
何気ない服のシワとか「描いてる人」を彷彿とさせますねぇ。

本編ですがシンそこ代われ・・・もといこの板らしからぬ甘々な展開ですなw
人類と艦娘と繋ぐ糸は、やはり深海棲艦という共通の敵があるのが大きいかと。
昔、中国の梁山泊が政府に反骨していながらも、国のために外敵と戦った
エピソードを思わせますね。

>>90
エリ8のエピソードは漫画版のほうです。指令のサキが単独でキムとセラを救出に行こうとして
部下の傭兵たちが次々と「散歩なら付き合うぜ」と合流、はいいんですが
ハンガーで整備員たちがドヤ顔で「全機装弾完了、いつでも散歩に出られます」て言った時の
サキ指令の呆れ顔がすごく笑えました。
0114通常の名無しさんの3倍垢版2017/09/15(金) 18:05:43.82ID:O5nOgpy/0
乙です
絵の後ろにいる黒いのは新型フリーダム?
しかし何故2次創作のシンはいつもモテモテなのか
0115彰悟 ◆9uHsbl4eHU 垢版2017/09/20(水) 14:37:23.27ID:ZVWxYBiY0
>>67
ご感想ありがとうございます。
最近てんてこまいで中々書けませんでしたが少し落ち着いてきました。

デスタンに関してはやり過ぎだったかも知れませんw
後で見返したら、闘いのモラル?のようなものに対して厳しく書きすぎちゃったw

もう少し今より緩くした方が戦法のバリエも広がりそうですし、射撃タイプによくありそうな敵の武器だけを狙い撃ちというのもできそうですし...
それくらいした方がマリナももっと強いイメージにできると思うので。

元々マリナみたいに大人しいけど健気な女性キャラが力一杯戦うのが好きでして
ファイトが似合わなそうな彼女が戦うギャップが好きだったりします。

合気道と弓術だけだと一見幅を広げられなさそうな気がしましたが(俺の力が足りないともw)
彼女にピッタリな競技とバトルスタイルだと信じてますw
ただ、これから武装の強化を予定していますので(他にもGガンで目を引くあの強化も...?)

個人的な語りになってしまいましたが、近い内に書けると思いますのでこれからの拝読をよろしくお願いします。
それでは。ノ
0117通常の名無しさんの3倍垢版2017/09/22(金) 11:29:45.71ID:LPYPlU8b0
こういう作者の語りってのもたまにはいいものだと思う
0118ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:37:03.13ID:1DSJ8VNR0
5ちゃんになって初めての投稿です。仕様が変わってなければいいですが。
>>113
ありがとうございます。絵は最近になって描き始めたのですけど、文共々もっと上手くなりたいと思ってます

>>114
新型機です。その内登場させる予定ですが・・・・・・何ヶ月後になることやら
0119ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:39:10.80ID:1DSJ8VNR0
――艦これSEED 響応の星海――


「んっ・・・・・・!」
「ほい【マッチング】クリアっと。どう響? 問題ない?」
「大丈夫、だね。むしろ前より調子が良いよ。Спасибо тебе всегда、明石先生」
「なんのなんの、お安いご用ってね。んじゃあ最終調整するから、もーちょいそのままでね」
「了解」

ザァ、ザァと、強い雨音に包まれた夕刻の佐世保鎮守府。
急ピッチで進められている鎮守府復興作業の中でも特に優先して人手が回され、その甲斐あってつい一昨日に再建できたばかりの工廠にて、二人の少女がおろしたてピカピカの艤装を整備していた。
これまたおろしたてピカピカのセーラー服を着込んだ響と、使い込まれたツナギをラフに着こなす紅梅色の髪の明石だ。互いに長い髪をポニーテールに結い上げて、組み上げたばかりの装備の隅々までを共に点検する。
共に、といっても二人してスパナやドライバーを手に精密機械と格闘するのではなく、作業するのは基本的に明石だけだ。響は背に装着した艤装に違和感などが無いか、口頭で教えるだけである。

「痒いところはございませんかー?」
「ふふ、まるで美容師さんみたいだね」
「似たようなもんでしょ。・・・・・・ん? ここちょっちキツいかな?」
「ちょっとだけ。でもこのぐらいなら自分で調整できるよ」

まぁ、言わなくても直ぐさま不具合を察知してくれるのが明石という少女なのだが。
彼女は工作艦という、艦船の補修・整備を行うための艦種に分類される艦娘で、【移動工廠】や【先生】といった二つ名で国中の艦娘達から慕われている存在だ。
横須賀軍令部に籍を置き、日本各地の軍施設を渡り歩いて艤装のメンテナンスやバージョンアップをしたり、直接戦場に赴いて艦娘達の応急修理をしたりすることが主な仕事で、
平時には軍専用通信販売サイトのオペレーターも兼任している。
加えて、艦娘・艤装の治療・修理を行う施設の建築と改善といった方面にも精通しており、つまり彼女は戦闘以外で日本国の戦線を支える裏方専門の職人艦娘なのである。
他にも明石のように軍令部に籍を置き、国中を飛び回る者は数名いるが、それは割愛させて頂く。
さて。
そんな、誰よりも艦娘に詳しいスペシャリストがこの佐世保鎮守府に滞在する期間は、10月中旬から12月いっぱいまでの約二ヶ月半を予定している。
丁度隕石が落下してきたタイミングであったことは佐世保にとってはまさに地獄に仏、僥倖だった。彼女がいたからこそ、半壊した鎮守府でも戦線を維持できたといっても何ら過言ではない。
ただし、文字通り休む暇もない一週間を戦い抜くことになった明石本人にとっては地獄以外の何物でもなかっただろうが。

「まぁまぁ。ようやっとのラストなんだからさ、折角だし最後まで任せなさいって。それにただでさえ君のはバカみたいにピーキーなんだから」
「バカみたいにとは失礼な・・・・・・否定はしないけど」
0120ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:41:15.07ID:1DSJ8VNR0
「師匠譲りの突撃仕様だかんね。今回も夕立のメンテには苦労させられたもんよ」
「それは・・・・・・お疲れ様。・・・・・・でもこれで、やっと終わりだね」

運良く、或いは運悪く佐世保入りしていた明石は死ぬほど頑張った。
先日まで出張していたトラック泊地やリンガ泊地といった最前線よりずっと安全な場所で、しかも基本的に損耗率の低い佐世保なら楽ができると思っていたのに、まさか最終防衛ラインで爆撃に怯えながら働くことになるとは。
しかもまさか、鎮守府の生命線である工廠が壊れるとは。
それでも弱音一つ吐かず、最終的には自ら黒島まで出向いて頑張った。
そんなこんなで影ながら防衛戦を勝利に導いた彼女は、しかし流石に限界が来て11月4日に倒れた。緊張の糸が切れて爆睡した。それは前線で戦い続けた少女達も同様だったが。
しかし彼女の戦いはまだまだ終わらない。
壊れたら直すまでがセットである。
その後束の間の休息を経て復活した明石は、まず艤装のパーツや燃料弾薬といった資源を手配しつつ、工廠再建の指揮をとることになった。
続々と搬入される物資を分別し、響達を始めとする「戦闘不能艦娘」に的確な指示を与え、みんなして初めてであった建築作業をスムーズに進行させた。
こんなこともあろうかと簡単に組み立てられるモジュール構造を設計し、あらかじめ日本各地の内陸部に用意させていたのが役に立った。
スペシャリストの名は伊達ではないのだ。
そして一昨日工廠が一応完成し、そのまま明石による艤装総点検がスタート。丸々二日かけて行われたその作業は、特注パーツの到着が遅れた響を最後に、11月10日の今この時をもってようやく終わろうとしていた。

「やー、流石に疲れた! いい機会だから全員オーバーホールするようにって命令も来たもんでさー、人使いが荒いったら。わたしは一人しかいないんだから仕方ないって分かってるんだけどね」
「それって、呉と鹿屋に行った娘も含めて?」

艤装の修理はなにも明石の専売特許ではない。
というか、仮に専売特許だとしたら明石が百人いたって手が足りない。故に常在戦場の身である艦娘達は、常日頃から自分の装備は自分で整備している。
機材と触媒さえ揃っていればちょっとした不具合なら簡単に直せるし、艤装の半分が崩壊するほどの損傷を負っても、時間さえかければ殆ど元通りに復元できる。そういったメカニックな知識と技術は、
少女達にとっては必須のモノだった。
工廠さえあれば、艦娘は自己メンテできるというわけである。
また、簡単なメンテなら普通の人間でも可能なので、各鎮守府には専門の整備スタッフが常駐し、少女らに代わって修理を受け持つ体制が整えられている。
国家資格を持つ優秀な人材であり、且つ普通の人間の女性のみで構成されたその後方支援部隊は、常に東奔西走な明石に次ぐ実力を備えており、それぞれの戦場を支えている。


しかし、そんな彼女達でも対処仕切れない事もある。
0121ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:43:05.30ID:1DSJ8VNR0
艤装はただの兵器・機械ではない。
艦艇の砲塔や艦首等を模したソレは、艦娘の躰と密接にリンクしている摩訶不思議な存在だ。
現人類が思い描く物理法則がまったく通用しない原理原則は、例えば、艦娘の意思一つで空間を超えて自動的に装着することや、砲弾が腹部や頭部に命中したとしてもダメージの殆どを艤装に引き受けさせることだって可能
にしてしまう。
つまり、ただ機械的な部分を弄るだけでは直せないファンタジックな機能が満載で、どころか漫然と修理を続けていくうちに艦娘の躰と艤装との間にズレが生じてしまうこともある、非常に厄介な代物なのである。
であれば、定期的に両者を馴染ませる必要があるわけで。
その作業を【マッチング】というが、これを得意とするのが明石というわけだ。ある意味、明石は国でたった一人の艦娘専用整体師ということになる。
艤装全体が壊れてしまったり、ガタが来てしまったり、新品に換装したりする時も同様で、これを怠ると最悪リンクしている艦娘の躰そのものに悪影響が出てしまうこともあり、彼女が国中を飛び回る最大の理由になっている。
これは余談だが、事情が少々異なるもののキラがここに来た際に動けなくなっていたのは、艤装となったストライクとの【マッチング】が上手くいってなかったからだ。
幸いあの時は簡単な処置をするだけで時間が解決してくれたが、大抵の場合は明石が付きっきりになって調整することとなる。

「そりゃもう丸々全員、48時間で38人分+α! これはボーナスがあって然るべきだよねぇ?」
「改めて、凄い人数だ・・・・・・。そんなのよくこなせたね」
「とりあえず間宮と伊良湖のスペシャルチケット一年分は当然として・・・・・・、・・・・・・ん? ああ、まぁ一人じゃ厳しかったろうけど、優秀な助っ人君がいたから」
「助っ人君?」
「そ。そろそろ戻ってくる頃合いだと思うけど・・・・・・っと、噂をすればなんとやら」

今回実施された佐世保の艤装総点検は、その【マッチング】を全員に施すことが主目的だったと言ってもいい。艦娘達が自力で修理、或いは新造した艤装を片っ端から整備して回ったのだ。
響の指摘した通り、一人でこなすのはどだい無理な作業量に思えたが、しかしどうやら手伝った人物がいるようだ。
もしかしてと、響はある一人の青年を思い浮かべた。
それと同時に、工廠奥の資材置き場の扉がスッと開いて。振り向くとそこにはやはり、少女が思った通りの人がいた。

「明石さん、三番と十番ありましたよ。それと家具の搬送はやっぱり明後日にずれ込むって連絡が」
「おー、ありがとキラ。丁度いいや、ちょっと手伝って」
「うん、わかった」

新品のツナギをキッチリ着込んだキラ・ヒビキ。
年季の入った工具箱を持ってやって来た彼は、この五日間殆ど顔を合わせることがなかった少女に気づくや否や、すっかり完治したらしき左手を挙げて微笑みかけてきて。

「やぁ、久しぶり。・・・・・・えぇと、プリヴィエート、響」
0123ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:47:23.43ID:1DSJ8VNR0
「あ・・・・・・Привет、キラ」

その不慣れなロシア語の挨拶がなんだかおかしくて、響もつい微笑んで流暢なロシア語の挨拶を返したのだった。



《第8話:繋がる力、繋がっていく道》
0124ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:50:08.72ID:1DSJ8VNR0
「ずっと先生の助手をやってたんだ?」
「うん。ちょっとスカウトされちゃって」

なんでも怪我が治ってからこっち、明石の指名でずっと補佐をしていたらしい。ボロボロのストライクの状態をチェックしようとしたところに通りがかった明石が見学したいと名乗り出てきて、その流れで行動を共にする
ようになったとのことだ。
なるほど姿を見なかったわけだと、宿舎の再建作業に従事していた少女は納得した。
大忙しな明石の助手をしてたとなれば、きっと工廠周辺に張り付いていたのだろう。仮設宿舎にも休憩所にもいなかったのはそういうことだったのだ。

「全然見かけなかったから、どうしたんだろうと思ってたよ」
「結構忙しかったから・・・・・・やってたことは雑用だけどね。業者さんと電話したり、部品を探したりとか。ここ二日は整備も手伝うようになったけど」
「先生曰く、優秀な助っ人君だって」
「買いかぶりだよ。ホント、大したことはしてないし」
「そう。・・・・・・ともあれ、大丈夫そうでなによりだ」

別に、自分から探した訳でも、会いたいと思ってた訳でもないが、なんとなく気にはなっていて。その元気そうな顔を見てどこかホッとした響だった。

「ほほーぅ?」
「・・・・・・なにさ?」
「いやぁなんでもないデスヨ」
「?」

なんか明石が意味深っぽくニマニマしているが・・・・・・なんだろう、ちょっと気味が悪い。
それに気づいていないのか、はたまた無視しているのか、いつもと変わらない穏やかな顔のままのキラを加えて調整作業は再開する。

「でもさーキラ、実際アンタなかなか見込みあるわ。ちゃんと修行すれば整備士としてやっていけるし、なんだったら弟子3号にしたいぐらい。――っと、四番と六番取って」
「どうぞ。明石さんそっちの十番を――どうも。・・・・・・そう言ってくれるのは嬉しいですけど、でも男ってのは問題じゃない? そりゃ僕としても整備士ってのは性に合うけどさ」
「女装すればいいじゃないの」
「そういう問題じゃ・・・・・・てか、嫌ですよそんなの」

二人は雑談しながらも流石の手際の良さでアレコレ弄り回していき、艤装の完成度をどんどん高めていく。
それは少女一人でやっていた時のものよりずっと上の次元で、自分の整備技術はまだまだ未熟であると痛感してはもっと励まねばなと内心決意を新たにする響だが、
同時に、たった数日しか艤装というものに触れていないのに明石に追随できているキラの腕にも舌を巻いた。
青いツナギの青年は手慣れた様子で工具を操っては、響のオーダーに順当に応えていく。本人は謙遜していたが、これなら本当に整備スタッフとしても生活できるかもしれない。
0125ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:52:06.16ID:1DSJ8VNR0
訊けば、自分の機体は自分で整備しなければやっていけない環境で培われた技術のようで、専門はソフトウェア関係だけどハードにも多少の覚えがあるそうだ。
偉い立場になっても整備を手伝ったりして、勘は鈍らせないようにしていたらしい。艤装もモビルスーツも基本は同じということか。
おかげで、今こうして明石の助手をしているのだから、世の中何が役に立つか分からないものだ。

「こんなもんかな?」
「こんなもんでしょ。よし、終わり!」

そんなこんなで整備はあっという間に終了。いつでも全力全開で戦闘できる万全の状態になって、更に言えば佐世保鎮守府の戦力も完全復活したことになる。

「хорошо。軽くて、出力も上がって・・・・・・これは良いな。力を感じる」
「剛性に抗堪性、駆動速度もよ。最初に断った通りに、試作の新型パーツを使わせてもらったわけだけど――うん、良い感じに仕上がったようでなにより」
「私が試作一号機ということだったね。思いっきり暴れてテストすればいいのかな」
「つっても劇的に変わったわけじゃないし、あくまで試作品なんだから。あんまブン回すと壊れるかもだから、ほどほどにね?」

いや、むしろパワーアップしたとまで言っていい。ほんのちょっとだけだが。

「ストライクの部品が使えるなんて意外だったけど・・・・・・できるもんなんだね」

そう。
今回、修理するにあたって響の艤装には【GAT -X105ストライク】に使用されていた特殊合金や超伝導技術等を多数、試験的に組み込んでいる。
これはストライクを修理する為に採取・解析したパーツ群を複製していた時に、明石が遊び心でサンプルの一つを艤装のフォーマットに落とし込んでみたら偶然発見した――いわば副産物的な新技術なのだが、
ある意味それはストライクの修理以上にこの世界にとって重要なものだ。なにせ、宇宙で活動できる巨大人型有人機動兵器モビルスーツを構成するパーツとなれば、上手く流用・実用化できれば艦娘の性能が
ぐんと向上すること間違いなしなのだ。
今まで数度に渡り近代化改修を施してきたもののベースが第二次世界大戦期の艦艇である以上、大幅なパワーアップをすることができなかった艦娘だが、異世界のロボット技術がそのまま使えるとなれば話は別だ。
棚からボタ餅的な展開ではあるが、これを逃す手はない。
そこで明石とキラは、空いた時間を使って艤装用の部品に新規開発にも挑戦し、幾つかの使えそうな小物を揃えることに成功した。
だがその試作品が形になった頃には既に、ほぼ全員が自分の艤装を組み上げ終えていた。ただ一人、特注パーツ――近接戦闘用に剛性を強化した錨――の到着が遅れて修理が後回しになっていた響を除いては。
故に、更なる力を望んでいた本人の了解もあって、彼女の艤装への導入に踏み切ることになった。

「でもやっぱり、今でも信じられないよ。そんな都合良く技術を使い回せるなんて」
0126ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:54:03.88ID:1DSJ8VNR0
「アレが純然な『普通の兵器』だったら流石のわたしもどうしようもないし、こうはならなかったけどねー。けど今はアイツもわたしら同様の不思議存在だから、なんかコンバートできちゃったのよ」
「僕共々、存在自体が変わっちゃってるからだね。艤装と同じように扱えるようになってなきゃ、修理だって絶対不可能だし」

この試みが上手くいってデータが蓄積すれば、あのストライクを媒介にすれば、いずれはフェイズシフト装甲やビームライフルといったものを艦娘全員に導入することだってできるかもしれない。
あの深海棲艦の【Titan】のように、ミサイルやスラスターを使うことだって。
深海棲艦にできて自分達にできないという道理はないのだ。
これからはC.E. の技術をいかに有効的に使うかが勝敗の鍵を握るだろうねぇと、明石は感慨深げに言った。

「なんか凄いことになっちゃってるんだね・・・・・・」

先の防衛戦で猛威を振るった【Titan】の力を、今度は自分達が使うかもしれないという近未来。
そんな予想図をどうにもイメージしきれない響は、ただ呆気にとられるしかなかった。ただ力が欲しくて安請け合いした依頼が、まさかそこまでの大事に繋がっていたなんてと思わず首を竦める。
あの巨人と戦って、キラと共闘して、ストライクに乗って、直接肌に感じた強大な力。その一端をもう己が身の内に取り込んでいることの重要性に、今になって圧倒された。
それって、とても大変なことだ。これまでの常識が全部ひっくり返る急展開で、この先どうなるんだろうという漠然とした不安感が胸中に渦巻く。予兆を感じてはいたものの、よもやこんなにも手の届く場所まで来ていたとは。

(あの力があれば、私は過去を乗り越えられる――? ・・・・・・いや、どうなんだろうな。そういう問題、なのかな。よくわからない・・・・・・)

例えば暁や雷、電が、高速で空を飛んだり鉄壁の防御力を得たりすることもありえるのだろうか。
例えば木曾や榛名が、荷電粒子砲や高誘導高速ミサイルを自在に操ることもありえるのだろうか。
そうなったら、自分達はどんな道を歩いていくことになるんだろう。自分は望んだ強さを手に入れられるのか。
わからない。
少なくとも、明石とキラが見ている未来は、自分にはまだ見えない。自分のことだけで精一杯だから、変わっていく明日がどのようなものか想像できない。
未だ弱い自分が世界を変え得るかもしれないことを、認めることができない。

(・・・・・・まぁそうなったらなったらで、その時に考えればいいさ)

だんだんと思考回路がネガティブになってきたなと自覚したところで、響はこれ以上考えることを止める。
正直、この話題にはついていけそうもなかった。
だから代わりに、いい機会だから、今まで気になっていたことを訊いてみることにする。

「――そういえばさ。ストライク、直せそうなのかい?」
0127通常の名無しさんの3倍垢版2017/10/07(土) 20:56:28.33ID:Qc4ggDli0
連投回避
0128ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:57:09.26ID:1DSJ8VNR0
それは工廠の奥にひっそりと、けれど確かな存在感をもって鎮座している、左腕とバックパックを失って穴だらけなモビルスーツのこと。
工廠に来て最初に目にした、今や自分の艤装を構成するパーツのルーツにもなった異世界の力のこと。
主人の身体は治っても、あの機体はずっと変わらずにボロボロのままで。一度操縦した身としては、アレが今後どうなるかは知っておきたいところだった。
二人の口ぶりからすると、なんとかなりそうな感じのようだが。

「そうだね、ようやく修理の目処が立ったってところかな」

キラはモノ言わぬ鉄灰色の機械人形を見上げながら応える。
この戦友となった青年にとって唯一無二の力は現状、兵器としては完全に死んでいる。なまじ人型だからかその姿はとても痛ましくて、目にする度にもっと上手く出来たのではないかという感傷が溢れてくる。
少なくとも、自分が冷静に立ち回っていれば左腕を失うことはなかったと、少女にはそう思えてならない。
しかし彼はそんなことを微塵も考えてなさそうな様子で、微笑みながら言葉を紡ぐ。

「君が協力してくれたおかげで分かったことも色々あるし、みんながストライクや【Titan】のパーツを集めてくれたりもしたからね。艤装用のパーツも代用品として使えるかもだし・・・・・・スペック低下は否めないけど」
「私はなにもしてないよ」
「試作品を使ってくれるじゃない。それだけでも結構重要なデータになるんだ。戦うことが僕の目的じゃないけど、いつかまた一緒に戦うこともあるんじゃないかな、きっと」

そう言ってやにわに、いつかのように頭を撫でてきた。ストライクがここまで壊れたのは君のせいなんかじゃないと言うように、優しくゆっくりと。
まるで心の内を見透かされたようで、少し恥ずかしくて。帽子越しなのが、なんだかもどかしくて。

「・・・・・・うん。役立てるなら、いいかな。・・・・・・なにか力になれることがあったら、手伝うよ。艤装を整備してくれたお礼に」
「ありがとう。その時はよろしくね」
「Ладно」

まるっきり子ども扱いされているのに、嫌ではなく。どころかひしめいていた不安感がすっかり霧散していくように思えた。
これもまた、あの時と同じだ。不思議だ。彼といると少し安心する。

「ほっほーぅ?」
「・・・・・・だから、なにさ?」
「いやいやぁなんでもないデスヨ」
「??」

そんでもってまた明石がニマニマしているが・・・・・・本当に、なんなんだろうか。

「明石先生、さっきから本当にどうしたんだい? なにか良いことでもあったの?」
0129ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:59:35.15ID:1DSJ8VNR0
「んー、そんなもんかな。・・・・・・それはそうと、そろそろ夕ご飯の時間でしょ。ちゃっちゃか後片づけしちゃおうか」
「もうそんな時間なのか」

心配になって訊いてみたものの、わざとらしく時計を指さす明石にうまいことはぐらかされた――ような気がする。
しかし彼女の指摘も尤もでつられて見てみれば、時計はキラの歓迎会を兼ねた食事会が始まる30分前を指しており、こんなところで油を売っている暇はないと思い知る。
明石のこと、ストライクのこと、気になることは尽きないが遅刻するわけにもいかない。移動に時間がかかるわけでもないが、最低5分前には集合していたほうがいいだろう。
というか、主役がこんな所でこんな時間まで何してるのさ。言われるまで忘れていた自分も大概だが。
片づけと聞いて離れてしまった彼の掌に若干の名残惜しさを感じて、そんな自分に少しの疑問を持ちながらも、響は忙しく動き始めた二人の背を追うように後片づけに参加することにした。

「工具は私がやるよ」
「あんがと。じゃあそこに纏めといてくれると助かるわー」

その後、響とキラが工廠を出るまで、何故だか明石はずっとニヤけっぱなしだった。
なんだろう、なにか悪いものでも食べたのかもしれない。後で薬でも持っていってあげよう。
0131ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:03:07.38ID:1DSJ8VNR0




天気予報によると明日の朝方まで続くらしい嵐は更にその勢いを増し、大粒の雨を新品の窓ガラスに激しく打ちつけてはガタガタバタバタと騒音をまき散らす。
真っ黒な海は荒れ狂い、おまけに遠くのほうではピカリと閃光が瞬くのが見えた。あれは多分、あと数時間もしない内に恐ろしい轟音を伴ってやってくる。
そしたら今夜はトランプ大会かなと、響は雷雨にめっきり弱い姉妹達を思い浮かべながら歩を進めた。正直自分も得意ではない――というか苦手なので、そうしてくれると非常にありがたい。
気が紛れればなんでもいいが、今日は初心に帰って大富豪でもしようか。そろそろ電に借りを返す頃合いだろう。

「こんなに降ってたんだ。気付かなかったな」
「工廠に中にずっといたんじゃ仕方ないよ」

艤装を格納庫に収めてポニーに結っていた髪をストレートに戻した響と、ツナギからザフト白服に衣装チェンジしたキラ。
二人で工廠と鎮守府とを繋ぐ連絡通路を経て、つい先程リニューアルオープンできたという食堂を目指してのんびり歩いていると、隣を歩くキラが顎に指を当てて呟いた。

「嵐だから深海棲艦も艦娘も海には出れないってのも、なんか可笑しな話だね。すごい力を持ってるのに、変なところで現実的っていうか」

素朴な疑問だが、確かに言われてみるとちょっと面白い制限だなと改めて思う。
超常の存在たる自分達。でもその実態は人間が思ってるよりはずっと非万能的で人間的で、どうしたって大自然には勝てないちっぽけな存在だということはもう常識となっている。
戦うには燃料弾薬が必要不可欠なこと、艤装はメンテナンスしなければいけないこと、自分達にも人間の三大欲求があること等といった常識。その変なところで現実的な制限が常識として広く認知されるまでは、
いろいろと苦労したもので。
超常的なのか人間的なのか、どっちだよって話だ。彼が可笑しいと思うのも良くわかる。
そういえば昔、こんな日に出撃してエラい目にあった娘がいた。

「どうしたって船がベースだから、難破することもあるよ。・・・・・・そう、最初期の頃には台風の日に無理矢理出撃した艦娘達が行方不明になった――なんて事件もあったね。艦娘ならいけるだろうって・・・・・・実際ダメだったわけだけど、あれは大変だった」
「そんなことが。その娘達は見つかったの?」
「無事にね。その時私も捜索隊の一つに参加してて、けど見つけたのは流されて難破した深海棲艦の大群。流石にびっくりしたよ。で、以降嵐の日は出撃禁止というか、安息日になったというわけさ」

根性入れて頑張ればどんな天候であろうと戦うことはできるが、やはり非常にリスキーなことに変わりはない。
アメリカの調査団の報告によると、深海棲艦も嵐が近くなると占拠した島々に引きこもるようになったことが確認されている。
0133ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:06:25.82ID:1DSJ8VNR0
敵も動けないのに自分達だけが難破する危険性を負っても、ただでさえカツカツな戦力が更に厳しくなるだけ。ならば休息に充てたほうがよっぽど有意義というもので、
大規模作戦等でない限り出撃は禁じられるようになった。
勿論出撃中に嵐に遭遇した際も同様で、そんな時はすぐさま最寄りの泊地に避難することが推奨されている。
要は事実上の停戦期間だ。もっとも互いに、勝機と見れば奇襲・強襲することもままあるし、長期的な戦略に組み込むこともあるが。

「へぇ、向こうも苦労してるんだ」
「おかげでこうして全員集まって食事会なんてこともできる。勿論警戒しながらだけど」

これから食堂で行われる食事会は――ついでに、その後に予定している全体会議も――つまり、こんな日でしか実施できない貴重な催しということだ。
ローテーションで常に誰かが海に出ているのが当たり前である鎮守府の日常では、こうして全員が集まること自体がとても珍しい。であればこの機会に会議や親睦会をするのは至極当然のことといえよう。
彼の歓迎会を兼ねた、佐世保鎮守府の復活を祝う食事会。これには人間の職員も出向防衛組も含め、今この鎮守府にいる全員が集まることになっている。ちなみに明石は少し遅れて参加するらしい。
食事会といえば、やはり厨房には瑞鳳もいるのだろうか。久々に姉妹揃って美味しいものが食べれるし、そう思うとだんだん楽しみになってきた。

「みんなで集まるのは4日以来だね。キラはもうみんなと顔は合わせたの?」

そこでふと、彼はどこまでここの人達と知り合ったのだろうと気になった。明石の助手をしていたとはいえ、もしかしたらこの集まりで初顔合わせになる人もいるのだろうか。
全体会議では佐世保鎮守府の今後の方針が決まるし、それに伴い艦隊が再編成されるかもという噂もある。なら皆と知り合っていればいるほど、その時間を有意義に過ごせるというもの。そこんところどうなんだろう。

「整備の時に一通り自己紹介はしたけど。でもまだちゃんとは覚えきれてないかな・・・・・・てか、似たような名前ばかりでさ」
「慣れないとそうなるね。・・・・・・多分、この後また改めて自己紹介することになるとは思うけど、それでなんとかなりそうかい?」

まいったと首筋に手をやっては、困ったように苦笑するキラ。その気持ちは分からんでもないと、響も着任当初を思い出しては同じように苦笑した。特に空母と駆逐艦は似たようなのが多い。
この鎮守府は38人だけしかいないが、共闘した人は兎も角、名前と顔を一致させて覚えきるには数日かかるだろう。
いや、場合によってはこれから全員一気に集合するのだから、無駄に混乱してしまうこともあるかもしれない。みんな個性的だからすぐ覚えられるとは思うが、万が一間違って覚えたらその後が大変だ。
例えば響の妹達、雷と電は間違えられる筆頭である。

「大丈夫だと思うけど、問題は漢字表記かな。会話だけなら兎も角、漢字の読み書きはちょっと・・・・・・整備してる時も苦労したよ。君の妹達とか」
「ああ、その問題があったか・・・・・・基本的に英語で生活してたって言ってたね、そういや」
0134ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:09:12.07ID:1DSJ8VNR0
「オーブ公用語・・・・・・いや、日本語はオーブの人と話し言葉でしか使わなかったから」

それはまた、結構重大な案件だ。
というか、異世界人なのに今日まで会話に不自由しなかったというのが既に奇跡か。下手をすればまったく言葉が通じない可能性もあったということ。これは本当に、運が良かったという他ない。
しかし読み書きできないというのは、これからの生活にかなり影響しそうだ。この施設は漢字表記ばかりなのだから、難易度はあらかじめ勉強してから来日した海外艦と同等かそれ以上かもしれない。
興味本位で訊いてみたら、意外と深刻な問題が発覚してしまった。

「コツとかないかな?」
「こればっかりはどうしようも。聞いた話だとビスマルクさん達も最初はそんな感じだったって」
「そうなんだ。じゃあ君達も外国の言葉とかに苦労するのかな? ・・・・・・そういえば今更だけどさ、なんで君って時々ロシア語混じりなの?」
「私の前身、船の【響】はロシアにいた時間のほうが長いからね、染みついてしまったのさ。油断するとつい・・・・・・変かな?」
「そんなことはないよ。いいと思う」
「Спасибо。まぁ、それで時々苦労することはあるね。木曾は未だに理解を示してくれないし――っと、話が逸れた。・・・・・・私達も昔、言語に限らず数学とか歴史とか、出撃してない時は勉強したよ。懐かしいな」
「そういうことなら僕も勉強しないとかなぁ・・・・・・。この世界のことだってまだよく知らないや」

でも勉強って嫌いなんだよなぁとぼやくキラに、努力あるのみだねと相槌を打つ。
そう、自分達が得た常識も、経験という名の勉強によって知ったことだ。
ヒトデナシであるものの頭脳を持つ人である以上、やはり勉学が基本。自分達のこと、この世界のことも含め、ちょっとずつ知ってもらうしかないと思う。
昔使っていた教科書を貸してあげるのもいいかもしれないと考えたところで、響は丁度近くに資料室があることに気付き、あることを思いついた。

「だから地道に・・・・・・と言いたいところだけど、これも運かな。ちょっとこっち来て」
「響?」

ちょっと寄り道で進路変更、相方を手招きしてスルリと室内へと入る。幸い施錠はされていなかった。
そこには海図や教本、過去の報告書といったものが収められており、奥には目当ての文机と筆記用具一式がある。きょろきょろと子どもみたいに室内を観察してるキラはほっといて、さっさと済ませてしまおう。
市販品のボールペンを手にとって、サラサラとまっさらな白紙に人名を書き連ねていく。もうすっかり書き慣れたものだが、これもやはり昔は苦労していたと懐かしくなった。
0135ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:11:05.44ID:1DSJ8VNR0
戦艦:金剛(こんごう)・比叡(ひえい)・榛名(はるな)・霧島(きりしま)
   扶桑(ふそう)・山城(やましろ)

空母:翔鶴(しょうかく)・瑞鶴(ずいかく)
   祥鳳(しょうほう)・瑞鳳(ずいほう)
   龍驤(りゅうじょう)

重巡:摩耶(まや)・鳥海(ちょうかい)
   鈴谷(すずや)・熊野(くまの)

軽巡:球磨(くま)・多摩(たま)・木曾(きそ)
   阿賀野(あがの)・能代(のしろ)・矢矧(やはぎ)・酒匂(さかわ)

駆逐:暁(あかつき)・響(ひびき)・雷(いかづち)・電(いなづま)
   白露(しらつゆ)・時雨(しぐれ)・村雨(むらさめ)・夕立(ゆうだち)・春雨(はるさめ)・五月雨(さみだれ)・海風(うみかぜ)・山風(やまかぜ)・江風(かわかぜ)・涼風(すずかぜ)

潜水:伊13(ひとみ)・伊14(いよ)


「これって、名簿?」
「あれば便利かなって。手書きで悪いけど・・・・・・余計なお世話だったかな」

数分かけて出来上がったものは、この佐世保鎮守府に所属する艦娘の一覧表だ。出向してきてる明石や呉・鹿屋の者は除いているが、最低限これだけ覚えれば暫くは問題ないだろう。
これから寝食を、戦場を共にするのだ。ちょっとずつと思ったがやはり、名前だけは早く覚えてほしいという想いはあった。
名はその存在を示すもので、とても大切なものだから。互いに名を呼び合えるから、今ここに生きていることを実感できる。
だから彼にだってちゃんと名前を呼んでほしいと思うのも自然なことで。

「ううん、とても助かるよ。ありがとう」

その為ならこれぐらい安いものだし、喜んでくれるのなら自分も嬉しいと思った。

「なら良かった。・・・・・・私達の名前は大抵、川とか山とかが由来で、それを意識すれば覚えやすいと思う。食事会も多分同型艦で固まって座ると思うし、それと照らし合わせるといいよ」
「・・・・・・響達は一文字で分かりやすくていいね。潜水艦の娘もこれでヒトミとイヨって言ってたけど、格好共々すごい異彩を放ってるなぁ」
「そこはそういうもんだって割り切るしかない。潜水艦を集中運用してる鹿屋とか、凄いよ」
「凄いんだ・・・・・・」
0136ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:13:06.80ID:1DSJ8VNR0
響は資料室の一角を指さして続ける。

「ここには私達が使ってた教科書とかもあるから・・・・・・気が向いたらここから持っていけばいいよ。基本的に閲覧と持ち出しは自由で、日本語学は瑞鳳が教え上手。教えてもらうといい」
「瑞鳳さんが? 迷惑にならないかな」
「榛名ほどじゃないけど世話好きだし平気だと思う」
「なにからなにまで、ホント、ありがとう」
「大したことじゃない。普通だよ。・・・・・・じゃあ、行こうか」

さぁ。
目的地はもう目と鼻の先で、今尚も改装工事まっただ中の医務室を通り過ぎたら食堂の正面扉が見えてくる。ちょっと寄り道したせいで、時間に余裕がなくなってきた。些か急がなければならないだろう。
紙切れ一枚の簡易的な名簿を渡して踵を返し、少し軽くなった足取りで資料室から出る。
その時だった。


「――あわわぁ!? 装備したまま来ちゃったっぽい〜!?」


廊下に出た二人の隣を、黒き疾風が駆け抜けた。
蛍光灯に照らされた金髪と、黒い制服を靡かせ疾る少女。その背には巨大な鋼鉄の兵装。
見間違いようがなく、その後ろ姿はうっかり者のものだった。

「わっ、夕立師匠!?」
「あー響久しぶりー! キラさんこんばんはー!! また後でっぽいー!!! あと師匠はや〜め〜て〜!!!!」

わたわたぱたぱたと可愛らしく、けどそれでも並みの人間よりも速く。
すれ違いざまの挨拶だけを残して、かつて見た勇猛なソレとは真逆な後ろ姿のまま、真っ白なマフラーを靡かせた夕立が曲がり角に消えた。
――と思ったら、ひょっこり角から顔だけを出して、

「ひーびーきー! 模擬戦、明後日やっていいってー! 準備お願いねー!!」
「わ、わかったー!!」

それだけ言って、今度こそ走り去る。まるで文字通り夕立のような勢いに、二人はポカンと見送ることしかできなかった。
しばらくして顔を見合わせてみれば、なんだかおかしくなって。あんなうっかりはなかなか見れるものじゃない。

「師匠・・・・・・艤装をつけたままここまで来ちゃったのかな」
「それはまた・・・・・・それにしても、師匠? 模擬戦って?」
0138ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:14:49.03ID:1DSJ8VNR0
するとキラが興味深げな様子で訊いてきた。
まぁ、その質問は当然だよねと、響は帽子の鍔をつまんで頷く。隠すようなことじゃないし、黙っていてもいずれは分かることだ。

「そのままの意味で、彼女が私に戦い方を教えてくれたんだよ。半年に一回、師弟対決だって模擬戦するんだ。・・・・・・まだ勝てたことないけどね」
「それって・・・・・・凄く強いんだ。一回も?」
「そう、一回も。でも今度こそ勝つ」

独特の語尾が特徴的で、平時は結構なドジッ娘なのだが、あれで佐世保の駆逐艦では最強の使い手で、【ソロモンの悪夢】や【狂犬】といった二つ名を持つ白露型駆逐艦の四番艦。それが夕立という艦娘だ。
手にした魚雷を直接相手に叩き込む高速格闘戦を得意とし、舞鶴の川内と江風とで培った戦闘技術は、戦艦すらも容易く撃沈する程の破壊力を発揮する。勿論、接近できればという但し書きはつくが。
しかしそれを問題にしないセンスがあるからこそ最強なのである。持久力がないのが玉に瑕だが、響の遙か上をいく火力と機動力は佐世保第一艦隊の切り込み隊長としてその名を轟かしている。
いずれ、響が超えなくちゃいけない相手だ。

「超えるべき壁、か。なんかいいなぁ、そういうの」
「そうかな?」
「そうだよ」

降って湧いてきた師匠との模擬戦。
これは新しい艤装を試すにはうってつけかもしれない。ちょっと反則臭いが、それくらい許してくれるだろう。いろいろと新しく戦略を練る必要があるなと、少女は拳を固めた。
けどまぁ、今は。

「急ごう。このままじゃ本当に遅れるかもだ」
「置いてっていいのかな」
「自己責任だね」
「わぁ、厳しい」

夕立のことはひとまず置いといて、いざ食事会へ。
キラの手をとって、響は食堂へと走ることにした。
美味しいものと新たな道標が、そこで待っている。
0139ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:17:35.01ID:1DSJ8VNR0
以上です。
暫く戦闘がない回が続いていきます。

>>115
自分も楽しみにしてます
0140通常の名無しさんの3倍垢版2017/10/08(日) 22:47:58.37ID:WPot6gFx0
投下乙です。
申し訳ないがちと辛口評価を。




ちょっと文章量のわりに話が進んでなさすぎな気が・・・
メンテして模擬戦の約束して食堂行くのにここまで詰め込むと正直お腹が膨れます。
もっとも今回の話に重要なワードや伏線があるならその限りではないので
今後の展開に注目ですね。
0141ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/08(日) 23:20:44.03ID:4F6X68Gh0
>>140
いえ、辛口評価こそが一番ありがたいです。

確かにちょっと贅肉が多いかも? と思っていたところで・・・・・・言われてみると、世界観を拡げようとして重要でない情報をつらつらと語りすぎてしまっている状態ですねこれは。
ダイエットする気持ちを忘れてました。ありがとうございます。
0142ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:11:41.71ID:zDocJJyd0
贅肉はなるだけ刮ぎ落とした! つもり! の精神で投下します。
どうでもいいですが風邪引いてました。皆さんはお気をつけて
0143ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:13:01.80ID:zDocJJyd0
――艦これSEED 響応の星海――


以前は医務室と同様、木組みの壁に天井と古めかしく和風な造りだった食堂は、その面影を一片たりとも感じさせないほどまでにリニューアルされていた。
抑えめで温かみのある照明に照らされた、レンガ造りで広々ゆったりとした空間には重厚感のある木製のテーブルが並び、そこかしこに観葉植物までも飾ってある。まるでテレビで見るお洒落なカフェテリアのようで、
ずっと厨房に籠もっていた瑞鳳はしばし、時を忘れてその金糸雀色の瞳を輝かせた。
前までの町の食堂然とした雰囲気も好きだったけど、これも素敵だなぁと思う。料理作りが趣味で、たまに食堂のおばちゃん達のお手伝いもする少女は、急にオムレツを作りたい欲求に襲われた。
しかしまぁ、それはまたの機会に。今は我慢の時。
時計を見れば、食事会の開始まであと5分を切っていた。

「・・・・・・っと、あれ。響たちは?」

参加者の殆どは既に食堂に集い、自由気ままに動き回りながらそこら中で雑談に花を咲かせていた。
今回は珍しく立食のビュッフェ形式のようで、艦娘達は中央に並べられていく出来たてアツアツの料理に釘付けになっていながらも、あえて遠ざかって意識しないようにしている様が見て取れる。
その一部を作った自分が言うのもなんだが、まるでお預けくらった子犬のようで少し微笑ましい。
でも、ざっと見たところ明石と夕立、響とキラの姿がなかった。
元々少し遅れる予定の明石は兎も角、あの三人はどうしたんだろう。瑞鳳は少し、会場内を歩いて探してみることにした。この時間にいないとなると遅刻してしまわないか心配になる。
別に遅刻のペナルティーはないとはいえ、一度気になると頭から離れなくなるもので。

「ちーっす瑞鳳(づほ)。誰かお探し?」
「鈴谷。や、探してるってほどじゃないけど、響と夕立とキラさんいないのかなーって」
「それなら来る途中で見たよ」

そうしてキョロキョロしていたのが目に余ったのだろう、いつものブレザーを羽織った翡翠色の髪の少女、鈴谷がいつもの軽いノリで声を掛けてきた。

「そうなの?」
「んーとね、なんか響とキラってば揃って資料室に入ってった。んでもって夕立ったら可笑しくてさぁ、入口手前まで艤装つけたまんま来てて、教えてやったら慌てて格納庫まで一直線。
・・・・・・鈴谷も今来たとこだから、もーちょいしたらじゃん?」
「わぁ、流石のうっかりっぷり。そういうことなら心配いらないのね、ありがと」
「いーってお礼なんて。・・・・・・にしても、言ってて思ったんだけど、なぜに資料室?」
「さぁ? でもあそこ時計なかった筈よね。大丈夫かなぁ」

噂では共に第二艦隊に配属されるらしい、フットワークが軽くてコミュニケーション能力も抜群な最上型航空巡洋艦三番艦。偶然ではあったが彼女の活躍により、あっけなく瑞鳳の心配の種は解消された。
しかし、同時に生まれた新たな疑問に、二人は頭を傾げることとなったのだった。
0145ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:13:57.06ID:zDocJJyd0
なんで今になってそんなところに? うーん、様子見てこようかな? なにをしているのか知らないけど、響ってわりと時間忘れっぽいし、キラさんもけっこーなのんびり屋さんみたいな感じだし。

「相変わらずの心配性だねぇ。大丈夫じゃん? 片方は本日の主役なんだしさ」
「あ、それもそっか」

この食事会はキラの歓迎会も兼ねている。なら流石に本人が遅れることはないだろうというのが、彼女の主張だった。言われてみればそうだ。それに瑞鳳も同調して、今度こそ胸をなで下ろそうとした。
すると、そんな心配性な少女をからかうようにして、

「ッハ、いや、待てよ。こう考えてみるのはどーだろう」
「?」

鈴谷はおどけた様子でニヤリと笑いながら言った。

「うら若き男女が人目のない資料室に・・・・・・それってもしかすると、もしかしたらなんて可能性もなきにしもあらずじゃん? 聞くところによると何故だか仲がいいらしいあの二人、何も起きないはずがなく・・・・・・ってね」
「・・・・・・」

思わず溜息が出た。
まったく、この冗談好きの恋愛偏重主義者ときたら、言うに事欠いて。
分かってて言ってるんだろうけど、そんなことばっかり言ってるから熊野に怒られるんだよ? いつも熊野の愚痴に付き合わされる私の身にもなってほしいと、少女は切に思った。
そして同時に。
いつもなら普通に笑い飛ばせるような冗談に、自分でも驚くぐらいの強烈な非現実感も抱いた。スッと、心の何処かが醒めた。

(あるわけないのよ、そんなこと)

実際にナニをどうしたかという問題ではなく、あの響がそんな類いの行動をするというイメージ自体が湧かない。どころか、ありえないと強く否定する自分がいた。

「・・・・・・えーと、そんな難しい顔しないでって冗談だって。だからその、真面目に受けられると困るっつーか、ボケ殺しは勘弁してくださいマジで」
「ツッコミが欲しいなら話題には気をつかおう?」
「ごめんて。・・・・・・でもさぁ実際ありえるかもじゃん? つーかみんな気にしなさすぎだけど、いつの間にか溶け込んじゃってるけど、鎮守府に出入りする男なんて提督以外初なんだよ? 
面白いことが起こらないはずがないよ状況的にお約束的に」

ちなみに提督はというとあれでちゃんとお嫁さんがいるし、まず軍令部から「才能有り、問題無し」と判断されて――時々の査察もクリアして――いるからこそ提督として鎮守府を運営することが赦されている。
0146ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:15:03.87ID:zDocJJyd0
「それはそうかもだけどぉ。でも・・・・・・」

鈴谷の言いたいこともわかる。
そりゃ初めて会った時から、あの二人なんか妙に仲がいいなーと思ってはいた。いや、馬が合っていると言うべきか。第二艦隊として合流する前から既に顔合わせしてた為か、
戦闘中でも移動中でも二人一緒でいることが多く、時には初めてとは思えないコンビネーションを発揮したこともあった。
あの二人は何故だか仲がいい。
その片割れが詳細不明とはいえ、他の人間とは明確に異なる【自分達と一緒に戦う男性】なのだから、パートナー次第では彼女の冗談が現実になる可能性もなくはない。
客観的にみれば惚れた腫れたと茶化したくなる状況なのかもしれない。
だから、そんなわけだから。鈴谷は軽い気持ちで、いつもの趣味の宜しくない冗談を言ったのかもしれない。
でも。
響に限ってそんなことあるわけがないと、瑞鳳は強く思ってしまうのだ。仮に少しでもそういうことができる娘なら、どんなにいいだろうと。


だって、あの娘はそういった余裕なんか少しも持てなくて、未だ進めずにいるのだから。あのクールでシニカルなペルソナの下には、私達でも溶かせない氷塊を抱いているのだから。


そんな事情を知っている数少ない者の一人としては、その冗談はあまりにも趣味が悪すぎた。
てか、そもそも鈴谷はなんでもそういう方向に持っていきたがりすぎ。このスケベ艦娘め。

「ていうか本能に忠実な鈴谷じゃないんだから、みんな慎みってのを持ってるんだから。いきなりそんなの有り得ないってば」
「む、失敬な。なんだよー人をケダモノみたいに」
「えぇー? だってこの前も熊野の誕生日に――あ。響たち来た」
「・・・・・・え、ちょ、なんでソレ知ってんの!? しかも、もって言った!?」

たまにはお灸を据えるのもいいだろうと思って、とっておきの切り札を切ってみた。その直後。
慌てふためいているケダモノの背後、人だかりの向こうに特徴的なツンツン頭が見えた。「なんとか間に合ったね」「おや、今回は立食式だったか。これは読みが外れたな」「名簿あるし、なんとかなるよきっと」という
会話も聞こえてきて、無事に二人がやって来たことを知る。
よかった、これで安心できるというものだ。引き続き、バレてないと思っていたらしい元お隣さんに現実を教えてあげることにする。ところで宿舎が再建したら部屋割りはどうなるんだろう。

「ま、まさか・・・・・・全部筒抜け?」
「うん、わりと。壁薄いのにあんな大声なんだもん」
0147ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:17:22.93ID:zDocJJyd0
自室でナニをするのも勝手だけど、もうちょっと隣人を気にしてほしい。もっと言うと、いつも熊野の惚気に付き合わされる私の身にもなってほしい。

「ノーーーー!! やだ・・・・・・マジ恥ずかしいって・・・・・・! つーか熊野なに言ってくれちゃってんのー!?」

そこまで言うと、耳まで真っ赤になった鈴谷は勢いよくしゃがみこんでしまった。
あら意外と可愛い反応・・・・・・じゃなくて、ちょっとからかいすぎたかも。ただの八つ当たりでしかなかったけど、今日はここら辺で勘弁してあげよう。これで少しは懲りてくれればいいのだが。
そう思い、やれやれと肩を竦めた時だった。

「――え」

鈴谷の背後の、ごった返していた人だかりが少しだけ散っていて。


響がうっすら笑みを浮かべて、青年の手を引いている姿が見えて。
まだありえないと思っていた、まだ遠いと思っていた様が見えて。


少女の脳裏に、先の冗談が鮮明に蘇って。
ある一つの可能性を、試みを思いついた。
その為には。



《第9話:ある意味ここがスタートライン》
0148ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:19:03.77ID:zDocJJyd0
<マイク音量大丈夫? ・・・・・・よし。白露秘書殿、どうぞ>
<ありがとー霧島さん。・・・・・・コホン。えー、それでは全員揃ったみたいなので! 長ったらしい挨拶は全面カットで!! 佐世保鎮守府の一応の復活と、キラさんが正式にウチに配属されたことを祝して――かんぱーい!!!!>
「かんぱーい!!!!!!」

その後。
夕立がもの凄いスピードで駆け込んできたのを皮切りに、特設ステージで仁王立ちになった司会係の白露の元気な声が食堂内に響き渡って、ついに食事会がスタートした。
ここ数日の質素な缶詰生活が嘘のような豪華絢爛な料理はもの凄いスピードで消化されていき、それはアルコール類も同様で、大小様々な空ボトルがどんどん量産されていく様にはいっそ爽快感すら覚える。
この勢いは多分、会議開始まで衰えることはないだろう。
ちょっと明日のお腹まわりが心配だ。
いつもの着座のコース形式ならもうちょっと落ち着きがあるのだが、最近ずっと苦しかった反動もあってか、誰も彼もが浮かれていた。でも心機一転で再出発するにはこれぐらいが丁度良いのかもしれない。
ちなみに、今回立食のビュッフェ形式になったのは、呉と鹿屋から来てくれた出向防衛組との交流を深める狙いもあるからだそうな。特に、ここ数日大活躍らしい呉のイタリア重巡姉妹、その妹ところにはかなりの人が
集まって大賑わいになっていた。

「えっへへ〜、このチキンもおいひぃ〜。あー、ワイン赤と白、もう1本おねがぁ〜い」
「すっげーなオイ底なしかよ。よっしゃ、この摩耶様もつきあうぜ。おーい金剛ー、お前も来ーい!! 久しぶりにカーニバルだ!!」
「村雨の姉貴〜、ありやしたぜ! 提督秘蔵のヴィンテージ!!」
「ナイスよ江風。はいはーい、ポーラさんこれ一緒に飲みましょ!」
「Grazie、Grazieですね〜。さっそくいってみ〜ましょ〜。んぐ・・・・・・ぅあ〜。いいですね〜暑くなってきた〜、もー服がすごい邪魔ぁ!!」
「うわ、なにこの人だかり――ってポーラぁ!? うそ、ちょっとぉ! なーにやってんのー!?」
「ぅへあ!? ザラ姉様!?」

・・・・・・見なかったことにしよう。なにあの脂肪の塊。ぜんせんうらやましくなんてない。

「みんな、よく食べるね。いつもこんな?」
「違うわよぅ。今日が特別なの、いろいろと。これもあなたが協力してくれたからだけど・・・・・・そういえばちゃんとお礼言えてなかったよね。ありがとう、キラさん」
「お礼を言うのは僕のほうだよ」

そうして皆が久しぶりに明るく楽しく騒いでるなか、瑞鳳はキラと二人っきりになっていた。

「・・・・・・それで、なにかな? 僕に話って」
「うん、ちょっとね。あなたに訊いてみたいことと、お願いしたいことがあるのよ」

なっていたというよりかは、その状況を作ったというべきか。
0150ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:19:56.21ID:zDocJJyd0
青年に対する質問攻めタイムがようやく落ち着いた頃を見計らって、響にちょっと借りるねと断ってから共に食堂の端っこに移動した。単刀直入に、一対一で。話したいことがあったからこその行動だった。
遅まきながらロゼのスパークリングで満たされたグラスをチリンと鳴らし合って、二人は正対する。思えば男性と二人っきりになるのは提督以外じゃ初めてだ。ぜんぜんそのつもりはないけど。

(・・・・・・つもりはない、けど。なんでこんなどきどきするのよぅ)
「?」

昨夜に艤装を整備してもらった時と変わらず、穏やかに微笑む青年。
まだ殆どの人にとっては、まだそうたいして親しくない男性。未だ詳細不明の異世界人。いきなり女性だらけの鎮守府に所属することになって、でもいつもノンビリのほほんとしていて、
いままでトラブルを起こすこともなく至って普通の好青年で通している男。
・・・・・・ふむ、改めて見てみると顔立ちはなかなか。どこか中性的で正直男性としては好みのタイプじゃないけど、その若さにそぐわない静謐な雰囲気は人を安心させる力があるように感じて、これはこれで。
元の世界じゃ結構偉い立場だったと聞くし、強いし、間違いなく優良物件ではある。
――って、なんで私が品定めみたいなことしてるの。もう、調子狂うなぁ。鈴谷が変なこと言うから変に意識しちゃうじゃない。
じっとり汗ばんできた掌を、ひっそり袴で拭う。
これはそう、緊張しているだけだ。ただ単に、自分に男性の免疫がないからこその緊張だと、これからの質問が自分にとって大事なものになるという気負いもあるからだと、少女は頭を振った。

「暁〜、響〜、コレ食べて食べて! わたしと電で作ったの。ど〜お?」
「肉じゃが! 二人で作ったの? やるじゃない!」
「うん、いいな。美味しいよ二人とも。・・・・・・木曾と鈴谷もどう? きっと気に入る」
「! ――ほう、響のお墨付きか。なら頂こう・・・・・・、・・・・・・なんだこれは、こんなに美味くていいのか!? 美味すぎる!!」
「・・・・・・え、このオーバーリアクションの後に食べるのってめっちゃハードル高いんですケド」
「鈴谷さんファイト、なのです」

遠くの方で、暁型の四人と木曾、そして鈴谷が肉じゃが一つで楽しくはしゃいでる声が、やけにハッキリ聞こえてきた。
そしてそれを最後に、周囲から音が遠ざかった。まるで世界には自分達しかいないと錯覚するような、そんな静寂の世界を意識して形作る。これからの一語一句をけっして聞き漏らさないよう、少女は集中する。
そう。ここからはシリアスに。
シリアスが私を呼んでいる。
そんな少女の気合いに気付いたのか、青年も真面目な顔になった。今だ、訊くにはこのタイミングしかない。これにどう応えるかによって、少女のこれからの行動指針が決定される――これはそういう質問だ。
空回りしそうな舌を必死に制御して、まっさきに本題を。

「――ええっと、ね? ぶっちゃけさ、あなた自身は、響のことどう思ってるのかなって」
0151ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:22:06.66ID:zDocJJyd0
・・・・・・にしては質問内容が些か緊張感に欠けるというか、恋愛モノの三流TVドラマみたいに青臭くて、しかも漠然とし過ぎていると瑞鳳は言ってから気づいた。
気付いて、頭を抱えた。
キラも苦笑して、場に和やかな空気が流れる。しまった、ぜんぜんシリアスっぽくない。それどころかこんなんじゃ意図の半分も伝えられてないではないか。そりゃ究極的には「どう思ってるか」が核心ではあるけども。

「これはまた漠然とした・・・・・・」
「うぅ、ごめんなさい今のナシで」
「とりあえず、可愛くて良い子だと思ってるよ。でも瑞鳳さんは訊きたいのって、そうじゃないでしょ? ・・・・・・そうだね、でもなんとなくだけど何が訊きたいのか、わかるような気がする」
「え、ホントに?」

わかってくれたのだろうか。
キラはしばし考え込むように、言葉を探すように俯いた。
心当たりがある、というのだろう。そういえばこの人は元の世界じゃ結構偉い立場だったという。何か似たような問題を知っているのかもしれない。世界広しといえど、
人間が抱えるような問題なんてのは限定されていると言ったのは、どこの誰だったろうか。
少しだけ沈黙が続く。
ちびちびとグラスを傾けて、口を開きかけては閉じての繰り返し。その顔は先までと打って変わって、それこそ戦闘中でもあるかのように真剣で。でもどこか迷っているような素振りで。
その横顔を見て、瑞鳳はゴクリと喉を鳴らした。
そうして彼のグラスが空になった頃。
しばしの黙考を経てキラは「多分だけどね」と前置いて言った。哀しそうに瞳を伏せ、言った。
それは、先の問いの核心に触れるものだった。


「響が。彼女が僕と一緒にいてくれる理由は、罪悪感が一番大きいんだろうなって。僕はそう思ってる」


――ああ。この人はちゃんと、思っていたよりもずっと、あの娘のことをよく見てくれているようだ。
瑞鳳はその言葉だけで、この人は信じてもいいと確信した。

「だから僕は・・・・・・受け入れて――支えてあげたいとも思ってるよ。あの娘はね、恩人だから。それが報いになるかはわからないけど・・・・・・こんな答えでいいかな?」
「・・・・・・うん、充分。ありがとうキラさん。気付いてくれてたんだ」
「流石にそこまで鈍くできてはいないよ。・・・・・・でも、そっか。勘違いじゃなかったんだね・・・・・・」

百点満点とまではいかないけど、期待以上。
認識を共有できていること以上に嬉しいことはない。勇気出して訊いてみてよかった、これならきっと上手くやっていける。この人なら、あるいは。
自分と同じように彼女を支えてあげたいと思ってくれている青年は、肩を落として言葉を紡ぐ。勘違いであって欲しかった、己の感覚をなぞるようにゆっくりと。ため込んでいた想いを吐き出すように。
0152ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:24:03.49ID:zDocJJyd0
「すごく優しくて、律儀で、けど脆くて。なんでも自分のせいだって思ってるような――なんとなく、そういう印象を受けるんだ。
罪悪感とか罪滅ぼしとかがずっと向けられてて・・・・・・無意識なんだろうけど、今日だってそんな感じでさ。それに響には突撃癖があるって前に木曾さんから聞いて、僕も実際に見た。だから」
「見てられない?」
「そう、見ちゃいられない。みんなの怪我もストライクのことも、多分本人が思ってる以上に気にしてるのがわかっちゃって、見てて辛い。彼女の在り方は危うすぎる。
気付いちゃったらほっとけないよ、あんなんじゃいつか・・・・・・」
「あれでも、すごくマシになってきるんだけどね・・・・・・」

応じて瑞鳳も改めて、響がどういう性格であったかを思い起こす。
そうだ。
近年はなりを潜めているけれど、響はそういう女の子だった。
自分を必要以上に追い詰めるタイプ。自信が持てなくて、なんでもネガティブに捉えてしまうタイプ。あのクールでシニカルなペルソナの下にある氷塊の正体はソレだ。
殆どの者が知らない彼女の闇は、彼女自身が思っているよりもずっと深い。
その片鱗は時々、トラウマというカタチで現れる。
仲間が危険となれば暴走して接近戦に傾倒してしまうアレ。生きたいのか死にたいのかも判らない特攻癖。船の【響】の経歴から考えれば何故そうなったかは大体察することができるけど、
他人が思うよりずっと悪化して凝り固まってしまったが故の、悪癖。
殆どの者は彼女の闇に気付かない。元々そういうものだと思っているから。弱さを晒すことが嫌いな響がそうなるように努力しているから。知っているのは、最初期から彼女のことを知っている者か、ずっと一緒にいる者だけ。
そして気付いたとしても、最奥まで踏み込めなくて、気遣いながら時間の解決を待つだけで。そんな日々があった。

「・・・・・・昔はもっと酷かったの。表面上は今とそんな変わらないけど、ずっと何かに怯えてて、ずっと一人で、なにをするにしてもすぐ謝って主張しなくて・・・・・・想像できないでしょ? 
今は気持ちに制限をかけてるようなものよ」
「気持ちを、制限・・・・・・。今の彼女になったのは、やっぱり・・・・・・」
「夕立のおかげでもあるし、言い方は悪いけど、せいでもあるかな。でもちょっと自信がついてからだいぶまともになれたのは事実だから、やっぱりおかげ。相変わらず、姉妹以外にはそう関わろうとはしないけど」

自分達が、あの娘の姉妹でさえも溶かせなかった氷塊。夕立を師事することで少しだけ柔らかくなった少女。人付き合いに臆病でナイーブな、強さだけを求めて余裕が持てないあの娘。
響は、トラウマを克服する為には強くなることが必要だと思っている。なまじ成果があったから、思い込んでる。
しかし瑞鳳には、それは彼女が強さを追い求め続ける限りは克服できないものだと思えててならないのだ。
直感だけど、自分が正しいとは思わないけど、彼女も認識が間違っているとも思う。それじゃ正解にたどり着けない。たどり着けないから、彼女はまた自分を責める。
もどかしい。
かつての自分は力になれなかった。彼女の弱さを知っていながら、彼女の望むものを与えることができなかった。ただ折れないように、支えてあげるのが精一杯で。それはとてももどかしく、悔しいことで。
0154ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:26:45.66ID:zDocJJyd0
だから。
だから、誰か他の人が。彼女が気取らなくていい相手が気付いてくれているなら。
響が信頼しているこの青年が、そのままの彼女を受け入れてくれるというのなら。
あるいは、彼女の問題を解決できるキッカケになるのではと、瑞鳳は考えたのだ。
故に、「彼が響をどう思ってるか」が核心だった。
故に、少女のこれからの行動指針は決定された。


「そんな娘がね、あなたといるようになって、また前向きになれてるって思うの」


瑞鳳は、彼ら二人が食堂にやって来た時のことを、その時に受けた衝撃と直感を思い出しながら言った。

「あの娘、変わったわ。もちろん良い方向に・・・・・・そう、一皮剥けたみたいな。そのキッカケってやっぱりあなただと思うの。随分と懐かれてるみたいだしね」
「・・・・・・懐かれてる、のかな。そうだといいけど」
「なによぅ、あなたも自覚ないの? あの娘、私達と打ち解けるのにだってけっこーかかったのに。そのお相手が男ってのはまぁ、びっくりしちゃったけど」

ともすれば見逃してしまいそうな小さな変化だった。その雰囲気はほんの少しだけで、けど確実に以前のものとは違っていて。
まだありえないと思っていた、まだ遠いと思っていた様が、そこにあった。
自分なら断言できる。アレは本心からの笑みだった。

「それは・・・・・・」
「悔しいけど、あの娘のあんな顔、初めて見たんだもん」

資料室でなにをやっていたのかは響本人から直接訊いた。その時なにを想っていたのかも。
なんとも甲斐甲斐しいことだ。前はここまで積極的に他人の為に動くような娘じゃなく、裏のほうでコッソリ支える――戦闘の時とはまるで真逆なタイプだった。それが例え、名簿を書いてあげるなんてささやかなことでも。
そして、美味しいものを他の人に勧めるなんてことも、今までじゃ考えられなかった。
どんな時でも無感情でも無感動でもないけど無表情なあの娘は、その本心の表情を他人に晒すことなく。
五年前から、ずっと。
今になって、やっと。転機が訪れたのか、彼女は少し変わることができた。
経緯はどうあれ、他人と手を繋げるようになるぐらいには。美味しいものを他の人に勧められるぐらいには。

「そりゃね? ただあなたと手を繋いで、ちょっと笑ってただけって、たったそれだけよ。資料室でのことも些細な善意だってあなたは思ってるのかもしれない。
・・・・・・でもそれって、あの娘は姉妹達だけにしか見せなかったものだから」
「・・・・・・」
「それにキラさんの事ね、よくわかんないけど一緒といるとなんでか少し安心するって言ったの。いつもの無表情だったけど。それだけの変化が、今の響にはあったって思う。それで懐かれてないわけないじゃない」
0155ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:30:05.39ID:zDocJJyd0
昨夜、まだ響の艤装は旧型のままだと。過去に一度挑戦したものの断念して以来ずっと埃を被っている新型艤装は、まだ使う気がないらしいと明石から聞いた時には「まだ決心つかないのかな」と心配になったけど。
あの白銀色のロシア製の新型――ロールアウトから数年が経って、もう旧式になりつつあるけど――が、再び日の目を見る時も近いかもしれない。かつて自分だけに教えてくれた「記憶」と向き合う準備が、
できつつあると見える。
それは仲間として、榛名達や木曾達が佐世保に配属される前から共にいた同期として、なにより姉貴分として素直に喜ばしいことだった。

「そうか・・・・・・僕にお願いしたいことってのはつまり、そういうこと」
「これからもっともっと、変わってってほしいの。キラさんといれば、きっとあの娘だって・・・・・・」
「買い被りすぎだよ瑞鳳さん。誰かを救うなんて、僕には・・・・・・」

訊いてみたいことと、お願いしたいこと。この人にお願いしたいこと。
共に響の力になること。
なるだけ彼女の氷を溶かすこと。この難題に真っ正面から踏み込んで、挑戦すること。
それがきっと彼女にとってのスタートラインになるから。

「ね、お願い! こんなチャンスもうないと思うの。私も全力でサポートするから!」

話したいことは全部話した。
あとはお願いを聞いてくれるか否か。
瑞鳳はパン! っと両手を合わせて拝み倒すことにした。
こんなこと、よっぽどのお節介焼きじゃなければやりたがらない依頼だろう。現状維持ではなく、更に踏み込むことを要求しているのだ。下手を打てば、彼と響の関係が悪くなる可能性だってある。
一方的に身勝手に、覚悟を要求している自覚はある。
それも相手は彼女と仲がいいとはいえ異世界人。今後どういう扱いになるかも不明で、いつここからいなくなるのかもわからないイレギュラー。この申し出が彼の負担になることは火を見るよりも明らかだ。
でもどうしても、これは譲れない願いだった。彼はきっと引き受けてくれるだろうという打算があることは否定しないが、仮に彼が対価を要求するのであれば最大限応える覚悟も持ち合わせている。
それだけ瑞鳳は本気だった。

「――・・・・・・、・・・・・・わかった・・・・・・引き受けるよ。でも最初に言っとくけど、本当に自信ないよ僕は。昔からそういうの苦手なんだ」
「そうなの? ・・・・・・訊いていいかわかんないけど、もしかして手痛い経験があったり?」
「まぁ、そんなとこ。でも、支えたいって言ったのは自分だしね・・・・・・うん、やれるだけやってみるよ」
「やったぁ! よろしくお願いしますね、キラさん!」

何かを思い出していたのか、少し固く険しい顔をしていたキラだったがしかし、やるしかないなぁっといたニュアンスの溜息一つで了承してくれた。
多少の不安要素もあるが、それでも協力者を得られたのは大きい。瑞鳳は喜びのあまりにキラの手をとって、ブンブンと上下に振った。
0156ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:32:06.90ID:zDocJJyd0
『でもさぁ実際ありえるかもじゃん? つーかみんな気にしなさすぎだけど、いつの間にか溶け込んじゃってるけど、鎮守府に出入りする男なんて提督以外初なんだよ? 
面白いことが起こらないはずがないよ状況的にお約束的に』

ふいに鈴谷の冗談が脳裏を過ぎる。
面白いこと――かどうかは分からないけど、彼が現れて状況は動いた。いや、これだけじゃない。一つが動き出すと、連鎖するように、呼び合うように、響き合うように、あらゆるものは絡み合って動き出す。
ならば、できるだけ面白く明るい未来をつかみ取りたいと切に願う。
状況的にお約束的にそうなってくれるのなら、どんなことだってやってやろう。


かくしてここに、瑞鳳とキラの協力体制が築かれたのだった。


直後。

<えーそれでは、突然ですがここで! キラさんに着任の挨拶をしていただこーと思いますっ!! キラさーん、壇上へどーぞ!!」

再びスピーカーから白露の声が大きく響いた。
いきなりのことでビクッと飛び上がる二人。
シリアスモードが解除されて、俄然騒がしい食堂の空気が戻ってきた。意識して排除していた周囲の音が、あたかも洪水のようになだれ込んできて軽くクラクラしてしまう。
見れば、特設ステージの白露はくりくりとした大きな瞳で不器用なウインクをかましつつ、端っこにいるキラに向かって「はよ来い」とジェスチャーしていた。
そういえば、そんなイベントもあると前もって告げられていたと思い出す。なにせ彼が流れ着いてからこっち、ずっと忙しい日々を送っていた佐世保鎮守府。自己紹介は艤装総点検の際に個人的に済ませたものの、
キラはまだ正式には皆に挨拶をしていなかった。
共同生活に加わる新人にとって、皆の前での挨拶は避けては通れない通過儀礼、お約束のようなものだ。
それを今からやろうというのだろう。最近は新参者がいなかったから、こういうのは久しぶりだ。
いつの間にか握っていた手を慌てて離した瑞鳳は、この人は一体どんなことを言うのかなと、今どんな顔してるのかなと気になって、その顔を伺ってみることにした。
すると見えたのは、

「・・・・・・しまった。そういえば提督にちゃんと挨拶してくれって言われてたんだ。どうしよう、何も考えてない」

なんてことを宣いながら冷や汗を流す、期末試験を目前に控えていながらも知らず遊びほうけていた男の子のような表情で。
それがなんだかすごく可笑しくて、ついつい少女は吹き出してしまった。これがさっきまで真剣な顔をしていた男と同一人物だと思うと、余計に可笑しくなる。なんともギャップの激しい人だ。
0158ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:35:12.65ID:zDocJJyd0
「え、ちょっと、そんなとぼけた学生みたいな。偉い立場だったんでしょ? 聞いたわよ、新地球統合政府直属宇宙軍第一機動部隊隊長って、自己紹介とか挨拶とか日常茶飯事みたいな肩書きじゃない」
「うわ、よく覚えてるねそれ・・・・・・。でもそういうのホント苦手で。内容とかいっつも他の人に任せてたんだよ」

とは言っても状況は待ってはくれず。
白露は腕をぐるぐる回し始めて、皆の視線は青年に集まって。内容を考える時間はなく、もう観念してさっさと壇上しか彼の選択肢はなかった。それでもキラは何か方法があるはずだと往生際悪く後ずさり、
小声で「どうしよう助けてシン!」と呟いていて。
もうこうなると本当、ただのそんじょそこらの普通の人間のようだ。
ここは早速、協力関係者となった瑞鳳の出番であろう。
幸先の良いスタートを切る為には、まず今を頑張らなければ。彼の助けにならなければ。そうでなければ協力者の名が泣くというものだ。
これが最初の一歩と、少女は動く。動揺するキラの背にスルリと回り込む。二人にとってのスタートラインを超えるべく。
そして、深呼吸して。

「どーん!」
「うわぁっ!?」

意外にも大きかったその背中を思いっきり突き飛ばしてやったのだった。特設ステージ方面に向かって、真っ直ぐに。



0159通常の名無しさんの3倍垢版2017/11/11(土) 23:40:24.04ID:RJKBLHsH0
回避
0160ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:40:47.04ID:zDocJJyd0
その頃。
台湾近海にて。
嵐が去り、雲一つない満点の星空に覆われた、煌めく海にて。


そこには余りにも夥しい数の深海棲艦が、静かに蠢いていた。


百を超える駆逐級と軽巡級、それらを束ねる重巡級と戦艦級と空母級、そして十を超える巨人【Titan】。彼女らは、先の大規模戦闘の生き残りだ。
偶発的に壊滅的被害を被った敵の本拠地の一つ――佐世保鎮守府を潰す為に仕掛けた、損害を無視した強行一点突破作戦は失敗に終わり、どころか敵の増援によって一網打尽にされてしまった彼女らであったが、
その全てが駆逐されたわけではなく。残存戦力はこの海域にて、南洋諸島海域から集結した仲間をも取り込んで、静かに再起の時を待っていた。
敵は、人類側は強い。あの偶発的に手に入れた【力】の一端を行使しても、完全には攻めきれず、であれば半端な数と質で挑んでも返り討ちに遭うのみ。
本格的な戦闘行動を起こすにはもう暫くの時間が必要不可欠と、その一心で彼女らはただ待機しているのだ。
戦争で最も大事なものは準備であると、深海棲艦は理解していた。いつか人類を根絶やしにする為には、今は待つしかないと理解していた。

「・・・・・・」

その一端も一端。人類には十把一絡げに戦艦ル級と類別されているその個体は、群れから少し離れた場所で、とある作業を見守っていた。
準備。
そう、準備だ。
戦争で最も大事なものは準備。斥候からの報告によると、彼の地の防備は完全に復旧してしまったらしいのだから、今までと同じような準備では足りない。もっと力がいる。
もっともっと強い力が、なければならない。
その為の作業を、このル級は見守っていた。何を想うでもなく、淡々と。非武装状態で、潜水級と重巡級が頑張っている様を、怖気が走るほどに真っ黒な長髪を持つ女性型は、棒立ちで眺めていた。
ちなみに、見守ると言えば聞こえは良いが、実質的にはサボっているようなものだった。人類には知られていないことだが、深海棲艦にもうっすらとだが個体毎の性格がある。他の戦艦級や空母級は見回りに出たり、
力を蓄えたりとそれなりに役割を全うしているのだが、この個体はなにかにつけてボーッとするのが好きだった。
故に、こういう時の監督役を買って出るのがこのル級で、基本的に無感情で無感動で無表情で他人に興味を示さない深海棲艦の中でも、固有種でない癖に変わり者として認知されていたりする。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

そんな彼女の隣に音も無く、もう一体の深海棲艦が並んだ。
0161ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:44:12.82ID:zDocJJyd0
ソイツも人型だった。真っ白な肌に真っ黒な装束という上位種に共通する特徴を持っているがしかし、今まで確認されてきた深海棲艦とは明確に異なる特徴も持っている、いわばイレギュラーな存在だった。
未だ人類に姿を見せていないソイツには、まだ名はない。勿論、深海棲艦にとっては名など必要ないものだから、そんなことはどうでもいいのだが。
ル級はソイツを一瞥した後、電磁波を交わした意思疎通も何もなく、また作業を注視する作業(サボタージュ)に戻った。隣のソイツもまったく同じように、まったくの無言で作業を見る。
滅多に海上に姿を現さない引きこもりのコイツが何故隣に並んだのか、その疑問も意味も、興味はない。どうでもいい。
二人は隣に並んでいながら、その存在をいない者として扱って、ただ眺める。

「・・・・・・!」
「・・・・・・!」

その視線の先で、動きがあった。
どうやら「当たり」を引いたらしい。
密集していた重巡級達が俄に散り散りになり、それぞれが手にしているワイヤーを力一杯に牽引する。人類の艦艇を再利用して製造したそのワイヤーは、遙か海底へと潜っている潜水級と繋がっており、
その様は正しくサルベージそのものだ。
つまりは、潜水級達が海底で発見したモノを引き上げるということ。
ここ数週間ずっと繰り返してきた作業だ。一切の言葉も交わさず、皆が己の役割に没頭する。全ては、いつかの為にと。
そして約5分が経過した頃。


ソレは、ついに海上に姿を現した。
それも、同時に二つも。所謂「大当たり」というヤツだった。


ソレは、巨大な機械人形だ。
一つは全体的に直線で構成された、約18mの鋼鉄の巨人。スラッとしたホワイトの四肢に、複雑な面構成のブルーのボディ、アンテナとゴーグル付きの頭部と、
今まで発見されたものの中でも特に人間のシルエットに近いタイプ。このタイプはこれで五体目だが、通しで見てもこれほど状態が良いものは初めてだった。
もう一つは、全体的に曲線で構成された、約20mの鋼鉄の巨人。此方は初めてみるタイプだが、オフホワイトで彩られた非人型な流線型のフォルムは、まるでイカのような愛嬌がある。
これもまた状態が良く、すぐにでも戦力として使えるだろう。


釣果は上々。


あの日。
0162ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:47:13.51ID:zDocJJyd0
多数の深海棲艦を死に追いやった、あの大量の岩石と共にやって来た機械人形達。
その殆ど半壊状態であったが、それらと深海棲艦の死体を利用して製造した実験体【Titan】の性能は絶大だった。しかもパーツさえ揃えられれば、簡単に【姫】や【鬼】に匹敵する個体を量産できるのだから、
これは天からの恵みに他ならない。
この【力】があれば、人類などもう敵ではない・・・・・・その筈だった。しかし結果は自分達の惨敗だった。もう一度その性能を見直し、スタートラインを仕切り直す必要がある。
もっと効率良く、もっと強く、もっと多く。もっと、準備をしなければ。
もっと、この偶発的に手に入れた【力】を掻き集めて、研究しなければ。
だからこそのサルベージだった。海底に沈んだお宝を我が物にする為の。
いつか人類を根絶やしにする為に。

「・・・・・・」

重巡級達も潜水級達も良い働きをしてくれた。今日の作業は、これにて終了としても問題はないだろう。
そう判断したル級は、ふと隣にいた筈のイレギュラーがいつの間にかいなくなっていることに気付いた。
しかし気付いて、放置した。
アイツはそういうヤツだ。興味を持つ必要がない。どうでもいい。
さあ、明日もまた作業をしなければ。
その思考を最後に、ル級はねぐらを目指してゆらりと移送を開始した。作業していた他の深海棲艦達もそれに倣い、一人また一人と移動する。彼女達もまた休息が必要だった。

「・・・・・・、・・・・・・ギギッ」

状況は動いた。
いや、これだけじゃない。一つが動き出すと、連鎖するように、呼び合うように、響き合うように、あらゆるものは絡み合って動き出す。あらゆる事象は響応する。
深海棲艦達の戦準備は、着々と進んでいた。
0164ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:54:33.94ID:zDocJJyd0
以上です。
ヒーロー1人につきヒロイン2人は自分の中では王道です。これでレギュラーメンバーは全員紹介できました。

一応ですが、以降は以下のメンバーをレギュラーとしてそれなりの描写をしていく予定です。
・響 ・瑞鳳 ・榛名 ・木曾 ・鈴谷 ・明石 ・天津風
中でも響、瑞鳳、天津風はキーマンとして主軸になっていきます。
0165通常の名無しさんの3倍垢版2017/11/14(火) 09:00:45.31ID:G4WPIQPy0
乙でした。
美少女動物園内での会食とは羨ましいやつめw
キャラの立ち位置も固定されて、話のベクトルが決まりつつありますね。

個人的に期待したいのは深海棲艦側の描写ですね、古今東西戦争モノの良し悪しは
敵側の設定がやはり重要ですし。
絶対悪なのか、別の思想を持っているのか、キャラとしての魅力はどう出すのか
楽しみなところです、原作(艦これ)ではどうなんでしょう?
0166ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/14(火) 15:17:37.83ID:6w2pOGZF0
>>165
感想ありがとうございます。
原作ゲームにおける敵の目的についてですが、そもそも艦これってそういう設定らしい設定がまったく存在しないのです。
味方も敵も明確になってるのはキャラの名前と容姿と台詞とパラメータだけで、艦娘だって史実を下地にした申し訳程度の性格づけしかないガバガバっぷりです。ユーザー側に開示されてる設定がそれしかありません。(他のブラウザゲーも似たようなものですが)
「深海棲艦から海域を開放する」という大目標以外の、それぞれの目的も世界観も完全に不明というのがアンサーです。
逆にいうと、世界観を一から考える楽しさがあります。

自分のSS内ではこれからちょっとずつ敵側の描写もしていく予定です。ほんとうに時々になってしまいますが
0167ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/18(土) 18:06:04.49ID:mXkEJK9k0
すいません、勝手ながらちょっと聞きたいのですが、
ここの住民的には「本筋とは関係ないキャラの絡みだけの非シリアスな短編的なもの(大体5レス程度)」に需要はありますか?
(そもそも本編の需要がないというのは自分のガラスのハートが壊れるので勘弁を)

というのも、もう自分の中では最終回までのプロットはできていますが、時々脇道に逸れたお話を書きたくなる時があるのです。
今までは、そういうものは本編内に突っ込んでみたり、それとなく匂わせるだけの描写に留めたりして消化していました。

ただ短編を書こうとすると当然本編の進行は遅れますし、艦これを知らない人達の中でそれってどうなのって考えてしまいます。
でもせっかくのクロスオーバー作品ですから事件も心の問題も世界観説明も関係ない、ヤマなしオチなしイミなしの完全ほのぼのモードもいいなぁとも思っているのです。
つまり迷ってます。

厳しい意見でもリクエストでもなんでもいいので、出来ればどなたか教えてください。よろしくお願いしますm(_ _)m
0168通常の名無しさんの3倍垢版2017/11/18(土) 23:19:36.12ID:vAGY4q+P0
この過疎スレで話を投下してくれるのに抵抗ある人なんかいるもんかい
どんどんやっとくれ。
0170通常の名無しさんの3倍垢版2017/11/18(土) 23:59:10.15ID:vGhS5I0o0
ええんやない
リクエストありならシン視点とか見たい
0171通常の名無しさんの3倍垢版2017/11/19(日) 03:00:25.89ID:jnC+6KRF0
てか新シャアのss系もすっかり人いなくなったな
そりゃここは新人スレだから慣れた人は別のとこに移っていくのかもしれんが、この板にはそれっぽい動きもないし
まぁ新シャア自体が過疎なんだけどな
仕方のないことだけど、なんとかならんもんかねっていう愚痴
0174通常の名無しさんの3倍垢版2017/11/19(日) 16:43:06.19ID:5PFIrzNL0
【製品概要】
名称:マンゲマン
ジャンル:キミと君島と岩田が紡ぐ絆のアクションRPG
対象年齢:全年齢対象
価格:15,000円
発売日:2017年7月27日

 【物語】
「何だ、この不良品は!!」

 任地堂の元社長・岩田“マンゲマン”恥(ガンダ・マンゲマン・チー)は激怒した。
彼は去年、エイナスオナニー中にケツの中でデカビタCが炸裂して憤死していた。
今際の際にケツから流れ出た鮮血で、チーク材の机に君島(クントー)を後任とする旨を書き残し、絶命したのである。
しかし、そのクントーは社運をかけた新ハードをオナニーしながら開発し、
購入者たちの顔面に思いっきり濃い種をぶちまけたのである。

「俺がやるしかない。任地堂の未来は俺にかかっている!!」

 ガンダは決意した。
彼はチンポ急げとばかりに大天使・ゲイブリエルの元へ向かい、堕天を請願した。

「よいでしょう。そなたはマンゲマンとなり、今こそ悪徳家電屋ゾニーに無慈悲な鉄槌を下すのです!!」

 ガンダの身が輝きだした。
これならば、ゾニーを殺せる!!
マンゲマン、羽田に堕つ。
0175通常の名無しさんの3倍垢版2017/11/19(日) 16:43:51.05ID:5PFIrzNL0
「ほう……、ここが悪しきゾニーに尾を振るソフトメーカー・ゼガか……」

 岩田マンゲマンは右腕を縦に大きく振り始めた。

「この新しいチカラ、試してくれよう!!カァ───ッ!!」

 山崎邦生(現・月亭方正)の様な甲高い咆哮と共に、マンゲマンの眼が見開かれた。
と、同時に。マンゲマンのケツ穴からウンコが吹き出し、マンゲマンの身体は驚くべき速度でゼガの本社に突進した!!

────……

「ムゥ!?」

 外回りをサボるため、ゼガ本社に立ち寄ろうとした水川は呆気にとられていた。
昨日まで立派に存在していた自身の古巣が、跡形もないのである。
……朦々と昇る土煙から、人影が浮かび上がってきた。

「貴様……、岩田!?確かに殺したはず……!」

 水川は産まれて初めて恐怖した、藤岡弘、いや、それ以上の何かに。

「水川、貴様は我が任地堂を愚弄してきたな?」

 額に汗しながらも、既に水川の心は落ち着いていた。

「スペック・スパイラルから逃げ、自社の殻に閉じこもったお前ら任地堂に食わせるソフトは無え!!食らえ岩田!!いや、マンゲマン!!」

 水川はスーツの胸ポケットから長方形の何かを取り出した。
グロカードだ。
0176通常の名無しさんの3倍垢版2017/11/19(日) 16:44:24.30ID:5PFIrzNL0
「ソニック・グッロカードォ!!」

 水川の右手が振り上がった直後、カービィを足で踏み潰したかの様な炸裂音が二回続けて辺りに響いた。
その右手とカードが音速の壁を切り裂いたのである。

「ゲッ!キューブ!」

 突如、岩田マンゲマンの雄々しい肉体は宙を舞い、羽田空港第二滑走路まで吹き飛ばされた。

「ゲーム会社ってのは一人じゃ生きられねえ。あばよ、ゲームボウイ……」

 水川は三つに裂けた右腕をかばいつつ、ゼガ本社跡地に背を向けた。
岩田と同じく強烈な想い・絆を込めた水川のグロカードは、岩田マンゲマンの肉体にとってただただ有効であった。

「雨が降るか……、ゾニーに知らせねば……」
0178ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/19(日) 23:04:07.63ID:axt6ybWs0
意見ありがとうございます。ちょっと短編にも挑戦してみます

>>170
シン視点了解です
0179ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/26(日) 23:03:41.32ID:MZE1pmDj0
シン視点とはちょっと言いづらいですけど、シンSideの短編です。
宣言通り、ヤマなしオチなしイミなしの完全ほのぼのモードです。よければどうぞ
0180ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/26(日) 23:07:29.25ID:MZE1pmDj0
事実は小説よりも奇なりという、諺がある。
現実の世界で実際に起こる出来事は、空想によって書かれた小説よりもかえって不思議であるという意味だ。しかし、既に現実がファンタジーに侵食された昨今で、より鮮烈な奇があるとするならば。
それはきっと、人が創り出すものに他ならないと、そう思う。



0181ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/26(日) 23:09:20.18ID:MZE1pmDj0
「――ぅあ、しまった・・・・・・」

工廠にて、研究に没頭していた天津風は、霞む視界のなかで時計を見つけるなりそう唸った。
午前3時25分。深夜とも早朝ともつかない微妙な時間帯。直前の記憶が正しければ、約10時間ぶっ通しで作業していたことになる。急ぎでもなんでもないのに、まーたやってしまったと少女は小さく溜息をついた。
プリンツに夕食に誘われたものの、もうちょっとでキリが良いからと、そう思って結局夕食を食べ損ねてしまったとはなんたる不覚。愛用の眼鏡を外して眉間をマッサージしつつデスク脇を見れば、
そこには期待に違わず可愛らしいメモと一緒にラップされた軽食が置いてあった。
佐世保の瑞鳳にも劣らぬこの気配り、持つべきは世話好きで料理上手な友人だ。ありがとう我が友プリンツ・オイゲン、この埋め合わせは今度の休日に必ず。

「シーン! 今日はもう終いにしましょ! お風呂入らなきゃ!!」
「おう分かったー! って、こんな時間なのかよ。気付かなかったな・・・・・・」

バイエルン仕込みのボリューム満点レバーケーゼのサンドイッチが二人分。これはあとで食べさせてもらうとして、そろそろお風呂に入らねば。
デスティニーのエンジンを弄りながらうんうん唸っていたシンに声をかけつつ、天津風は私室から持ち込んだタンスから替えの服やら下着やらを引っ張り出す。
シンも作業を中断してタラップから飛び降り、隣の一回り小さいタンスを漁り始めた。
すっかり工廠が自分達の居場所になっていた。ここにシャワールームが増設されればなぁと思わずにはいられない。でもそうなると次はベッドを持ち込みたくなるだろうし、
すると自室が本当にただの物置になってしまいそうだから、思うだけに留めておく。だいたい、そうなると作業効率重視のシンも真似してここに住み込むようになるだろうから、嫌だ。分別はしっかりしたい。
着替えをバッチリ用意して工廠入口に集った二人は、互いの煤だらけの顔を見てげんなりしつつ、揃って大浴場へと足を向けた。

「・・・・・・いつもながら、お互い酷い有様ね」
「これでもうちょっと進展がありゃ気も楽なんだけどな・・・・・・。あー、機材も知識もなにもかも足りねーってのに毎日こう油塗れになるって、どうなんだ」
「油塗れになってるから、進展皆無なんてことにはなってないんじゃない」

汚れに汚れた作業着姿のまま研究に没頭して一夜を明かすのは初めてではないが、気分がいいものではない。だというのにその頻度が最近、加速的に増加しているのは乙女として如何なものだろう。
呉の支援部隊に所属する身として、明石の弟子2号として、機関や武装の試作検証に一日の殆どを費やす日々を送っている彼女。
それでも今まではちゃんと食事も睡眠も入浴もキッカリ時間通りにとっていたのだが、シンの愛機たるデスティニーの修理に取りかかってからというものの、生活リズムは乱れる一方だ。
別に不満はない。
修理の進展は殆どないけど面白いものを弄らせてもらってるし自覚はあるし、興味本位とはいえ手伝ってくれる仲間も多くいる。シンとああだこうだ言い合いながら作業するのも、まぁ、悪くない。
ちょっと忙しくなってちょっと出不精になってるだけで、リズムなんかは後々に調整していけばいいだけの話だ。
0182ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/26(日) 23:12:13.26ID:MZE1pmDj0
そう思えるだけの魅力があの機動兵器には詰まっている。たしか正式名称は【GRMF-EX13F ライオット・デスティニー】といったか、正直具体的な技術どころか概要すら理解不能の塊だが、だからこそ興味深いのだ。
超小型の核融合エンジンに特殊電磁場によって半結晶状の荷電粒子ビームを出力するエネルギー兵器、電圧によって硬度と色が変化するうえにナノサイズの空洞を有するが故に超軽量な特殊金属を用いた装甲、
形状記憶金属をふんだんに取り入れた関節駆動装置、更には光圧と斥力を複合させた大型推進装置にと、どれ一つとっても超未来的オーバーテクノロジー。
むしろ、これに夢中にならないなんて人類としてどうかしてるとさえ思う。
佐世保にいる明石も、ストライクとかいうデスティニーより数世代前の機体を四六時中弄くり回しているらしい。
そんなわけで、現状に不満はないのだ。好きでやらせてもらってるのだから、自分の身のことなど二の次で。
けど、それにしたって。
やっぱりお風呂は毎日入りたいものなのだ。乙女としては。

「ところで、アラームをセットしてたはずなんだけど。聞こえた?」
「全然」
「そうよね。聞こえててスルーしたなんて言ったらぶん殴ってやるつもりだったわ」
「お前な・・・・・・。俺だって好きでこんな時間までやってたわけじゃねーっての。単にセットし忘れただけだろ」

男湯も女湯も、毎朝の浴場清掃時間まであと少し。今を逃せば数時間も待ちぼうけになってしまう。
朝になってしまえば、デスティニー修理部隊のみんなが工廠にやってくる。つまり、みんなと会うということで、汗と油に塗れたままじゃいられない。それは実にいただけない。
シンも昔はシャワー派だったらしいが、ここに来てからはお風呂に入るのがお気に入りらしく、毎日欠かさず入浴するうえ長風呂になりがちだという。
正直意外だが、けど綺麗好きなのはいいことだと毎日隣にいる者として切実にそう思う。
天津風達は文句を言い合いながら、ただお風呂に入りたい一心のみで重く気怠い躰に逆らって、鎮守府に一つだけしかない大浴場へと早足で歩いた。

(そーいえば、この時間にお風呂入るの久しぶりね。あの時以来か・・・・・・)

午前3時である。
当然、よっぽどの例外がない限りは、天津風達が今夜最後の利用者ということになる。ということは広い浴槽をのびのび独り占めできるということで、ちょっぴり得した気分だ。
島風の頭を洗ってやる必要もないし、今回は誰かさんに乱入される心配もないし。

(いやいや思い出すな忘れるのよ私。あれはただの不幸な事故だったんだから)

余談だが、ここ呉鎮守府は廃棄された温泉施設を再利用・増築して建設されたという経緯がある。宿舎や入浴施設はその旧温泉施設のものをそのまま利用し、後付けで工廠やら司令部やらを隣に設営していったのだ。その為、
入浴設備はどの鎮守府よりも充実していて、密かに自慢の種にもなっている。
そう思いながら角を曲がること数回、大きな『ゆ』の字が書かれた二つの暖簾が見えてきた。向かって右手には艦娘御用達の女湯が、左手には提督とシンが使う男湯がある。
ちなみに、男湯は完全な男性専用というわけではなく、利用者の殆どが女性だったりする。そもそも男が極端に少ないのだから専用にする意味がないのだ。
0183ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/26(日) 23:15:01.88ID:MZE1pmDj0
男性が利用する際には、誰も入ってないことを確認した上で、立看板を設置するという決まりがある。
あんまり思い出したくない記憶だが、天津風とシンが最初に顔合わせしたのは、この男湯でのことだった。
あんなハプニングは二度と御免だ。

「・・・・・・ん? あいつら、何やってんだ?」

と、何か見つけたのか、突然シンが目を眇めて呟いた。
その視線の先を追った天津風も、それを見つけて思わず首を傾げた。

「・・・・・・なんでコソコソしてるのかしらね?」

風呂上がりだったのだろう、タオルを首にかけた北上と阿武隈が、まさしく抜き足差し足忍び足といった具合で浴場から離れていく姿があった。
あからさまに怪しい。
違和感。
なんだろう、なにか嫌な予感がすると、天津風は感じた。
けど、声をかける暇はなかった。北上と阿武隈はすぐさま角を曲がって、二人の視界から消えた。同時に予感も、スルリと両手からすり抜けていって。
なんだったのだろう?

「追うか?」
「明日訊けばいいでしょ。・・・・・・じゃ、また後で」
「おう」

まぁ、気にすることはないと思う。大方、ちょっとした事故やイタズラがあった程度のことだろう、あの二人なら。追求はせずに置いとくことにする。
さておき。
挙動不審な彼女らと入れ替わるように浴場に到着した二人は別れ、それぞれの暖簾をくぐった。
シンは左に。
天津風は右に。
くぐって、脱衣所へと進む。


後になって思う。あの時、北上と阿武隈を追っていればよかったと。
違和感とは、嫌な予感とは往々にして、その正体がわかった時には既に手遅れなのだから。


そんな少し先の未来など露とも知らない少女。
天津風は脱衣所につくや否や真っ先に、作業着のチャックを豪快に下げて、インナーともども纏めて脱ぎ捨てた。そんでもってノールックで乱雑に、作業着専用洗濯機へと放り込んでスイッチオン。
0185ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/26(日) 23:16:11.55ID:MZE1pmDj0
続けて最近新調した黒のブラとショーツを脱いで、こちらは共用洗濯機に入れて、天津風は生まれたままの――艦娘は服と艤装を身につけてこの世に生まれいずるのだから、
この表現は適切じゃないかもしれない――姿になった。
起伏に乏しい、流麗で白磁のような肢体――美女揃いの艦娘の中でも指折りな脚線美を惜しげもなく晒したその姿は、いっそ一つの芸術品のようにも思える。
そうして最後に、象牙色のツーサイドアップを解いて。
少女は振り返り、浴場に続く最後の扉を視界に収めて。

(・・・・・・そうね、今日は露天風呂でゆったりしましょうか)

幾つもある素敵なお風呂のなかでも、特にお気に入りの露天風呂に入ろうと決めて、意気揚々に扉を開けた。
時間があればもっと色々楽しめるのだが、生憎と清掃時間まであと少ししかない。一つに絞る必要があった。

「〜〜♪」

鼻歌を唄いながら、温かな湯気に支配された空間を突っ切って、まずかけ湯をする。温感が全身を行き渡り、消えて、頭から足の先までがブルリと震えた。
ああ、この瞬間は何度経験しても堪らない。けど、本番はこれからなのだ。お風呂は偉大なのだ。
手早く躰と髪を洗って、一日の汚れを排水溝に流す。しっかりバッチリ躰を磨くのはまた時間がある時に。

「・・・・・・よし」

さあ次は、いざ、いよいよ外へ。
アツアツのお湯という名の、人類の英知で満たされた杯へ、師走直前の冷え切った大気に満ちた世界へ今、大きな一歩を。
踏み出す。
外界へ繋がる扉を開ける。


そして。


「――・・・・・・は?」

天津風は、嫌な予感の正体を知った。



0186ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/26(日) 23:19:23.47ID:MZE1pmDj0
「――・・・・・・は?」

露天風呂に入ろうとして外にでたシンの瞳に映ったものは、見事に大破したヒノキの仕切り板だった。
さて、ここの露天風呂は一つの囲いに二つの浴槽があり、それを中央の仕切りで女湯と男湯に区分けしているレイアウトである。つまり俗物的に考えれば、覗こうと思えば覗ける構図なのだ。
もっとも、覗こうとした瞬間、次に見るものは死の淵のみだと提督は言った。経験者は語るというものかと呆れながら、ぼんやり聞いていたのを覚えている。
提督は言った。
なんでも仕切り板付近には幾重ものセンサーが張り巡らされており、絶対防衛ラインを超えようとした者には漏れなく十数機配備されたセントリーガンの掃射がプレゼントされるとか。
せめてもの情けか弾丸はゴム弾だったらしいが。そんでもって仕切りには超高張力合金が埋め込まれていて、更には付近一帯にはバネ仕掛けの地雷やらなんやらが設置されているとか。なんという周到っぷり。
それだけの防備が女湯を守護しているのだと、あの男は大真面目に語ったものだ。きっと覗きたい女湯があったのだろう、彼には。
あんなんが責任者で大丈夫か?
話を戻そう。
シンは、そんな防衛設備をまだその目で見たことはなかった。つまりは今まで覗きを敢行したことはなかった。決して枯れてるわけではないが、喧嘩別れしたっきりの彼女たるルナマリア・ホークに操を立てているのだ。
若干二名の文化遺産的巨乳を目に焼き付けている青年は、そんじょそこらの女に靡かない硬派だった。
そんな彼の前に、仕込まれた鉄板もろともに粉々なった仕切り板があるのだ。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

本当なら、あー話半分に聞いてたけど本当のことだったんだー、とか。一体誰がこんなことをー、とか。ていうかあの二人の仕業かこんちくしょー、とか。そんな感じの感想を抱くところだった。
しかし。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

しかして、現実は非情である。小説よりも奇である。
シンの視線の先には、もはやなんの役にも立たない仕切りの向こうには。

「・・・・・・きゃああああああああああああ!?」
「・・・・・・なぁ、これは俺が悪いのか・・・・・・?」

最近仲良くやれている少女、天津風の裸体だった。
凄まじい悲鳴が夜天に響き、露天風呂の水面がさざめく。
光が瞬き、重い金属音。腹を震わせる、エンジンの躍動。この音はよく知っているとも。艤装の駆動音だ。
シンはぼやく。
なんでこんなことに。どうしてこんなことに。
0187ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/26(日) 23:21:49.55ID:MZE1pmDj0
言っても思っても詮無きことだ。わかってる。けど、それでも。

「なんで俺、こんなとこにいるんだろう」

言わなきゃやってられないことって、あるだろ?
シンが最後に見たものは、此方に向かって12.7cm連装砲B型改二を構える全裸の天津風の姿だった。言い訳もなにも、する余裕がない。まったくない。もうこうなったら、運命にただ流されるだけだった。
願わくば、装填されたのがゴム弾でありますように。
その後の記憶はない。
彼の意識は、そこで途切れた。


それは、11月26日の深夜の出来事。全国的に「いい風呂の日」の、ちょっとした事件だった。



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