新人職人がSSを書いてみる 35ページ目
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0001通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ 1bd2-BQKd)
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2018/06/19(火) 19:16:43.69ID:O8vHynnR0
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。

現在当板の常駐荒らし「モリーゾ」の粘着被害に遭っております。
テンプレ無視や偽スレ立て、自演による自賛行為、職人さんのなりすまし、投下作を恣意的に改ざん、
外部作のコピペ、無関係なレスなど、更なる迷惑行為が続いております。

よって職人氏には荒らしのなりすまし回避のため、コテ及びトリップをつけることをお勧めします。
(成りすました場合 本物は コテ◆トリップ であるのが コテ◇トリップとなり一目瞭然です)

SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
新人職人がSSを書いてみる 34ページ目
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/shar/1499781545/l50

まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
http://arte.wikiwiki.jp/

新人スレアップローダー
http://ux.getuploader.com/shinjin/ 👀
VIPQ2_EXTDAT: default:vvvvv:1000:512:----: EXT was configured 👀
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0254ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 22:40:20.37ID:MT8pB/3O0
――艦これSEED 響応の星海――


『ビームキャノン! 鈴谷はビームキャノン希望しまーす! ズバーッて照射できるやつ!! あと勿論レールガンも外せないしカタパルトもリニア式とか超ロマンだよねーあでもそれは空母級に譲らなきゃかー
そうそうゴテゴテな追加装甲もイカすよねあとは――』
『ワタシ達金剛型戦艦には超長射程なRail GunをPleaseネ!! 高性能なRadarもお願いしマース!!!!』
『ミサイルだ。ありったけのミサイルを寄越せ。重雷装巡洋艦にはミサイルが必要だ』
『――それだぁ! 鈴谷の強風改にもぜひ空対空ミサイルを!!!!』
『鈴谷さんったら欲張りすぎっぽい。・・・・・・夕立にはビームサーベルが似合うっぽい?』
『いやウチに訊かれても』
『私と瑞鶴は装甲甲板をフェイズシフト製にしてもらえたらって思ってるの。長所を伸ばす方向で』
『ドッペルホルン連装無反動砲か・・・・・・。いいね。ボク、あれが気に入ったよ』
『ガトリングくれ!! この摩耶様にもガトリング!! マシマシで!!!!』

あれは音の洪水、欲の洪水だった。

『えぇと・・・・・・まぁその、追々に、順番にね?』
『はいはい要望はこの用紙に書いて提出してくださいねー。一度に言われたって無理ですからねー』

圧倒的圧力。明石が助け船を出してくれていなかったら、そのまま呑み込まれていたキラであった。
11月12日のお昼過ぎの、福江基地工廠でのこと。
佐世保からのストライクの移送をつつがなく終え、350mm大型レールキャノン・ゲイボルグ縮小化等の兵装コンバート実験を成功させ、呉のシン・アスカが西太平洋戦線の窮地を覆したとの速報が入り、
ビスマルクら出向防衛組の残留が確定すると、満を持してキラの艤装強化アンケートは実施された。
実施されて、お祭り騒ぎとなった。
例えその実現が遠かろうと、そんな事は些細なもので。
同時に行われた、特装試作型改式艤装Ver.1.2の響によるデモンストレーションの効果も絶大であったのだろう。百聞は一見にしかずとはよく言ったもので、
次々と艦娘用にコンバートされたC.E.製兵器を操っていく少女の姿が皆の闘争心に火をつけた。
MSのパーツを取り込み再構築した特装型改式艤装なら、誰でもC.E.製兵器が使用可能となる。この日々の延長線上にその日が在る。その事実だけでテンションがうなぎ登りになってしまうのも、致し方の無いことなのだ。

『あともう一回言っとくけど、あくまで優先すべきは艦隊の防衛能力の強化なんですからね。今回のアンケート結果が実現されるのはかーなり先の事だかんね』
『僕らとしては、とりあえず当面は響にいろんな装備を実験してもらって、それから実装プランを考えようかと』
『えー、響ばっかりずるいっぽい』
『そうだそうだー』
『エコヒーキだー』

なにせここ最近、良いニュースが殆どなかった佐世保艦隊である。
ちょっと振り返ってみよう。
0255ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 22:43:15.42ID:MT8pB/3O0
まず、例の隕石落下と電波障害と【Titan】のせいで鎮守府陥落寸前まで追い詰められた。最終的にキラと響が囮となってくれたおかげでなんとか持ちこたえられたが、
何かが少し違えば九州地方壊滅一直線となっていた地獄の一週間があった。
その後は一週間かけての鎮守府復旧作業に従事して、慣れない肉体労働に悪戦苦闘。打ち上げとして食事会を開催したが、全体会議も兼ねていたので実はあんまりハメを外せなかった少女らである。
そして突然降りかかった、痛み分けで終わったナスカ級防衛戦と、偵察衛星撃墜事件。再びの復旧作業と孤立の危機。敵は依然として目と鼻の先にいて、しかも【軽巡棲姫】をはじめとする強敵が数多く控えている。
それでいて状況の根本的解決は、程遠く。持てる全てを発揮して、辛うじて破滅を先送りにしているような。
客観的に大局的に見れば、よくもまぁ意地と根性だけで諦めずに戦ってこれたものだと感心するしかない悪夢的な日々だった。
主観的に局所的に見れば、響のちょっとしたパワーアップだとか仲間の絆が深まったとかあったが、だからどうした言ってしまえばそれまでのことで。

『いや、それはなし崩しというか、もうフォーマット出来てるから組み込みやすいってだけで。けっしてエコヒーキとかじゃ』
『愛ゆえに、だよね?』
『鈴谷さん茶化さないでキメ顔しないで。・・・・・・響、しばらく戦闘に主計課に僕らの手伝いにって大変だと思うけど・・・・・・よろしくね』
『大丈夫、問題ないさ。私なんかでもみんなの役に立てるのなら嬉しいよ。・・・・・・、・・・・・・例えなし崩しでも、ね?』
『・・・・・・え、あ。ち、違うよ響? 変な意味じゃなくてね・・・・・・?』
『Я это знаю。冗談だよ』

それがここにきて、艦隊全体の戦闘力強化の告知。
反撃の術はまだこの手の中にあると、確定した未来として皆に伝えられた。しかも強化内容は自分で選べるというオマケつきで。
朗報に継ぐ朗報。お祭り騒ぎにならないわけが無かった。

『二人から感じるこの波動・・・・・・! やっぱ鈴谷の勘に間違いなしじゃーん。ぜったい愛だよねー?』
『ねー?』
『ああもう鈴谷さん勘弁してくださいって。榛名さんも、ねーじゃなくて』
『よぉーしお前ら、オレ達もいつまでも三人ばっかりに甘えられてはいられないよなァ? 佐世保艦隊の総力を挙げて明石達をサポートするぞ!!』
『おー!!!!』
『みんなー、お昼ごはんおまちどーさまさまでーす! 雷特製カレー、たーんと召し上がれっ!』
『イヤッフゥーーーー!!!!!!!!』

この空気感は大凡、2日間も持続した。
というのも、時折デュエルのセンサーが接近する敵航空戦力を捕捉、スクランブルで迎撃戦が勃発こそしたものの、この日と翌13日は珍しく全体的に平和そのものだったからだ。
0256ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 22:46:06.89ID:MT8pB/3O0
余裕のある戦力と万全になりつつある索敵システムのおかげで、かなり効率的に敵小規模偵察部隊の撃退が可能となったのだ。
受動的な専守防衛などもう真っ平御免で、全戦力のローテーションで積極的能動的に平和を勝ち取るという強気な方針が功を成した。忙しいことに変わりはないが、
ここ最近ではもっとも物質的にも精神的にも余裕のある2日間だった。
ただ、だからこそのちょっとした波乱があったりもしたが。
例えば。
幾つかの偶然が重なり合って小一時間程、キラと響と瑞鳳がストライクのコクピットに閉じ込められたり。
荒れ放題だった宿舎の大掃除をしている最中に何故だか、瑞鳳と木曾がメイド服を着るハメになったり。
それを激写した鈴谷が基地敷地内を逃げ回った末にキラと衝突して、ちょっとオトナな下着を晒しちゃったのにキラの反応があんまりにも薄いものだから逆ギレしたり。
金剛主催のお茶会に招待された暁型姉妹が、洋酒入りチョコ菓子で面白愉快なことになったり。
とか、なんとか、その他色々諸々と。こんな感じの姦しくも穏やかなイベントがあった。「恥ずかしかったり怒ったりもしましたケド、割と楽しかったです」とは後の榛名の談。


そして迎えた11月14日。その早朝、運命の分岐点。


「よぉーし調整完了、我ながら素晴らしい仕上がり・・・・・・! さぁて響、キラ、今日は模擬弾使用の演習で最終テスト。いつものトコでデータ取りよろしく! 瑞鳳は立会人引き受けてくれてありがとねー」
「現場での索敵は私の艦載機が引き受けるから心配しないでねっ」

とある少女にとって、最も過酷な戦いが始まる。

「響、了解。まさか師匠と戦う前にキラと戦うことになるとは思ってなかったけど・・・・・・やるからには全力全開でいくよ」
「僕はデュエルに乗るから被害ないけどさ、ペイント弾かぁ。これ目とか口に入ったら痛いんじゃ? 髪も服も汚れちゃうし」
「昔っから艦娘同士の演習で使われてるモノだから問題ないよ」

平和な時間をフル活用してようやっと完成に漕ぎ着けた数々の試作兵装を実戦形式でテストすべく、響と瑞鳳、そしてデュエルを駆るキラが福江基地から出撃した。



《第15話:値価の来未たげ繋》
0259ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 22:51:10.33ID:MT8pB/3O0
福江基地西方3マイル先の、彼女ら三人にはすっかりお馴染みになった演習用海域。
朝焼け滲む空の下、演習を始めようと体勢を整えたその矢先。
瑞鳳の艦載機が、突然の乱入者を捕捉した。少女の叫びが、異常事態の始まりを告げた。

「演習中止、演習中止! 方位2-4-7、距離10に敵影を視認! 艦種わからないけど数10、水雷戦隊!!」

響は瞬時に緊急事態を意味する信号弾を打ち上げると、急ぎ模擬弾から実弾に換装しつつ、偵察機で得た情報を分析する瑞鳳の元に駆けつける。
同時に、デュエルがスラスターを噴かして跳躍、デュアルアイを煌めかせて周辺海域をスキャン。数秒の滞空を経て着水すると、少女の情報を裏付ける報告を水柱と共に上げるなり腰部からビームライフルを取り出した。

<こっちでも捉えたよ。でもこの時間にこの位置・・・・・・なんでこんなに接近されて・・・・・・いや違う、誰か追われてる人がいる!>
「追われてるって、どういうこと?」
「あれって利根隊じゃない! 負傷してる子が複数、航行速度もだいぶ落ちてるみたい。このままじゃ・・・・・・!」
「加勢しよう。ほっとけないよ、そんなの!」
<うん! 行こう二人とも!!>

結論から言えば。
その戦闘自体は特に特筆することなく終わった。
敵の戦力はまずまずのもので、哨戒活動中に不意打ちの長距離雷撃を喰らってしまった利根隊は負傷者を多数抱えての防戦に徹するしかなく、なんとか福江基地周辺まで後退してきて今に至るとのことだった。
敵小規模偵察部隊としてはなかなかにデキるヤツとは、瑞鳳に促されて海域を離脱した利根の評。

『我輩としたことが面目ない・・・・・・。すまぬ、ここは任せたぞ!』
『任せて。送り狼は一匹も通しやしない』

しかしいざ響達が両艦隊の中心に割り込むと、敵水雷戦隊は何故か反転して逃走開始、その2分後には全滅した。逃げに専念する敵艦相手に少々骨が折れたが、三人の圧勝であった。
何かがおかしいと感じた。

「・・・・・・・妙だったね」
「うん。勝つには勝ったけど・・・・・・ちょっと裏があるかも。追加で偵察機を発艦してみるわ」
<やっぱりそうだよね。こっちも全センサー、レーダー最大出力で調べてみるよ>
「キラ、瑞鳳、データリンク機能を試してみたい。情報をこっちにまわして」

手応えがなさ過ぎる。
鹿屋の精鋭部隊の一つである利根隊をここまで追い立てたというのに何故連中は逃げ出したのだろう。まともに戦っても結果は同じだったが、それにしたって。
有象無象のイロハ級が死を恐れるわけがない。
深海棲艦は通り一辺倒の突撃だけが脳のイノシシではないが、総じてその行動原理は人類への凄まじい敵意だ。
0260ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 22:54:07.69ID:MT8pB/3O0
この2日間で、連中はモビルスーツの巨体と対峙しても畏れず、あらゆる戦術を以てして果敢にデュエルへ挑んできたこともあった。ソレほどまでの攻撃衝動の塊が、深海棲艦という存在だ。
なのに。
まるで攻撃の意志を感じられない水雷戦隊の動きに、三人は戸惑った。
これは普通じゃない。
何か見落としている。
敵が予想外の行動を採ったとなると、作戦の一環と考えればしっくりきた。

(データリンク起動、システムオールグリーン・・・・・・、・・・・・・対水上電探、対空電探、ソナー共に反応なし、大口径砲射程圏内に敵影なし。機雷の可能性もない。デュエルと瑞鳳でも見つけられないなら、他に何が?)

これが榛名や木曾だったらすぐ論理的に敵の狙いを看破できるのだろうが。生憎と響にそんな頭脳は無く、キラと瑞鳳にも適性があるとは言い難く、僅かに得た直感を足がかりに一つ一つ推察していくしかない。
考える。
見渡す。
見渡して、ようやっと気付いたことがあった。

(だいぶ基地から離れてしまってる。意識してなかったけど、かなり南下してたみたい・・・・・・、・・・・・・まさか?)

まさか、誘い込まれた?
遅まきにして、自分達が初歩的なミスを犯してしまったと気付く。慢心していたつもりはないが、一時的にでも己の現在位置を見失っていたとは。今敵に襲われたら救援は期待できない。
ならば先の水雷戦隊は罠か囮か。狙いは自分達三人か。だが・・・・・・その先は?
少なくとも今現在、周辺に響達に干渉できる動体反応は存在していないと、少女が新たに装備するヘッドギアが教えてくれている。観測できる範囲では、三人の安全は保証されていると言っていい。
ならば尚のこと、狙いがわからない。
いや、そもそも。

(希望的観測は厳禁だけど、ただの考えすぎ・・・・・・なのか?)

仮に敵の策に嵌まっていたとして、こんな都合良く展開が進むのか?
考えすぎなだけじゃないか?
だって自分達は演習の為に出撃して、利根達を助けるべく勃発した戦闘は偶然の産物だ。
【軽巡棲姫】は、そこまで読めるものなのか。読めるとしたら、今の自分達の状況に説明がつかない。だって空母とモビルスーツの索敵能力を欺ける存在など、
聞いた話では、この世にシン・アスカのデスティニーだけしか居ないのだ。
そう考え込んでいると、瞳を閉じて意識をいっそう集中させていた瑞鳳が声を上げた。

「・・・・・・ッ!? 方位0-9-6に大型の機影1! あれはヴァルファウ!! 距離は――」
<来たんだね。そろそろ来る頃合いだって木曾さん言ってたけれど、本当に・・・・・・>

回答は予想外のベクトルから割り込んできた。
0261ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 22:56:47.27ID:MT8pB/3O0
大気圏内用大型輸送機・ヴァルファウの襲来である。
基地の南西に位置する響達から遠く離れた、南東からのルートで基地に向かっている模様。この時間にあの位置と高度であれば、哨戒中の【阿賀野組】が既に捕捉している筈だとキラが付け加えた。
福江基地は今頃てんやわんやだろう。

「急いで戻らなきゃ!」
「だね。私達が遅刻したせいで準備が台無しになっちゃ・・・・・・、・・・・・・いや。それが狙い、だったのか?」
<可能性はあるよ。現に僕達はこうして、敵から一番遠いところにいる>

目的は、デュエルの隔離か。
佐世保艦隊がこうも後手に回ってしまっている原因の一つが、あの輸送機だ。
過去に二度決行した空挺降下によって、二度も辛酸を舐めさせられた。しかも、此方はヤツに掠り傷の一つすらも負わせられなかったのだ。
戦艦の砲は長射程といえど高高度を高速かつフラフラ飛ぶものを狙撃できるようには造られておらず、ヴァルファウも長きにわたる戦いで此方の射程圏を把握している深海棲艦が操っているだろうから、
必然の結果だったのかもしれないが。
逆に言えば、敵はそれだけの実績と確信を持っているということだ。空母級だろうが戦艦級だろうが、艦娘はヴァルファウに攻撃できないと。
けれどその実績と確信は、キラの操るモビルスーツには通用しない事は明らかだ。
ビーム兵器やレールガンの射程と威力なら、届く。今までとは逆に、一方的に輸送機への攻撃ができる。この事実は【Titan】を運用している深海棲艦達も重々承知だろう。
だからこそ、こうして水雷戦隊を囮にして三人を誘い出したのかもと、響は悟った。
偵察機によって確認できた敵戦力は、深海棲艦をしこたま積載しているであろうヴァルファウが1機と、ナスカ級争奪戦時の3倍に値する規模の水上打撃部隊と空母機動部隊、そして【Titan】5体を含む水雷戦隊。
加えて十中八九、更に【Titan】数体と潜水艦部隊、そしてスカイグラスパーを伏せていると見るべきか。
遂に敵の本気、様子見も出し惜しみも一切無しの侵攻部隊が、真っ正面から堂々とお出ましというわけだ。
デュエルさえいなければ、障害は存在しないと。

(・・・・・・いや、でも・・・・・・?)

対ヴァルファウ戦自体は、これから起こりうる大きな危機の中でも、特に高い確率で発生するだろうと考えられていた。むしろ、艦隊首脳陣はそろそろ【軽巡棲姫】が痺れを切らす頃合いだと踏んでさえいた。
佐世保艦隊はこれを待っていたと言ってもいい。
既に対抗策は編み出している。実施したアンケートとは別途に、全員で準備を進めた仕掛けがあるのだ。まだまだ完全とは言えないが、厄介な輸送機や巨人を撃退する計画が。
その計画の主役は、デュエルではない。
計画の要点は、別の存在が担っている。
とはいえ三人が不在では、事が想定通りに進まなくなる。それぞれに別の、重要な役割があるのだから、響達が参加しなければならない事に変わりはない。
こんなところで油を売っている暇はない。
急いで艦隊に合流しなければ。
0263ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 22:58:22.11ID:MT8pB/3O0
<二人とも手に乗って。開戦には間に合わないかもだけど、デュエルの速力ならまだなんとか・・・・・・>
「あ、ちょっと待って。先に天山と烈風改を発艦しちゃうから。少しでもみんなのフォローしなきゃ!」

デュエルが腰を屈めて、二人の少女に両手を差し出した。
エールストライク程ではないが、キラ仕様に装備を整えたこの機体なら艦娘の航行速度よりもずっと速い。ロスは幾らか軽減できるだろう。
なんとしても計画の歪みは最小限に抑える。

(違う。違う感じがする。本当にこれで、敵の作戦が・・・・・・?)

無数の艦載機を発艦させる瑞鳳の傍らで、響は違和感を覚えた。
確かに【軽巡棲姫】からしてみれば、キラとデュエルの存在は特別視すべきものだ。艦隊から隔離させようとしたのは順当と言えるし、実際のところ効果的だ。
でも、と思う。
でも、これだけなのか?
0264ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 23:01:19.91ID:MT8pB/3O0
これでは片手落ちではないか。策に疎い響でさえ、自分だったらここで戦力を投入すべしと思うのだ。あの奸計に秀でた敵が、こんな各個撃破のチャンスを見逃す筈がない。
隔離するだけで済ませる理由がない。
違和感。
敵は、来る。
来なくてはおかしい。
ここは、危ない。
再び周囲を見渡す。
何もない。
けれど絶対に、ここは危ない。


だってほら、こんなにも殺気を感じるんだ。


ゾワリと首筋に冷たいものを感じて、響は咄嗟に叫ぼうとした。
だが遅かった。
本当に遅かった。
何故ならば、少女らは海に出た時点で敵に漁(すなど)られていたからだ。

「ッ、ソナーに感! ――真下!?」
<レーダーに反応! ――真上!?>

同時に響く、真逆の声。
真下からは、一つの影。
真上からは、一つの光。
そして真下から二つの光が生まれて。
そして真上から二つの影が落ちてきた。



0265ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 23:03:36.86ID:MT8pB/3O0
「――この感じ、もしかして・・・・・・? でもこのイヤらしいプレッシャー・・・・・・アイツ、本当にしつこいっぽい!!」



0266ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 23:06:11.82ID:MT8pB/3O0
<二人とも避け――くぅッ!?>
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!??」
「ッぐ、あぁぁぁぁああぁぁ!!!!」

軽空母瑞鳳、右舷艦尾に被雷、右舷スクリュー喪失、大破。
駆逐艦響、左舷中央部に被弾、増設装甲及び第一装甲貫徹、中破。
艦娘である少女達だが、通常艦艇に例えると被害はこのようになる。
では現実はどうか。
二人の少女と、彼女達の傍らに待機していたモビルスーツは、どのようなダメージを負ったのか。


瑞鳳は、真下から突然出現した魚雷をまともに喰らい、右脚の膝から先を持っていかれ。
響は、天から降り注いだ荷電粒子ビームによってPS製大型シールドごと左腕を貫かれ、喪った。
そしてデュエルは、海中から飛び出してきた無数のミサイルで吹き飛ばされ、背部スラスターユニットを大きく損傷していた。


完全な、完璧な奇襲。
艤装のダメージ分散処理能力を超過した一撃に、実害以上の致命傷をもらった。
ほんの一瞬の出来事で、頭が追いつかない。けれど染みついた戦士としての本能は、殆ど自動的に傷ついた躰を振り回して少女に倒れるだけの余裕を与えなかった。響が意識を取り戻した時には、
既にその身はうずくまる瑞鳳へ肩を貸そうとしていた。
全身を支配しようとする喪失への恐怖は、必死に押し殺す。

「瑞鳳! 大丈夫!? 返事をしてくれ!!!!」
「な、なんとか・・・・・・痛ぅ! ・・・・・・でもちょっと、無理っぽいかも。航行できないよ・・・・・・」
「ダメージコントロール、応急処置を・・・・・・! 私が曳航する、走るよ!!」

脚部スラスターのみで跳躍したデュエルを傍目に、響は常備している特殊な包帯を取り出し、右手と口だけで素早く止血を行う。
これまでの戦争で、艦艇であった第二次世界大戦期と同じように大破と出撃を繰り返してきた【不死鳥】にとっては、久々だが手慣れたものだ。
それにしたって四肢の一部欠損なんて本当に久しぶりで、大口径砲の直撃クラスのダメージでもなければ滅多に起こることではない。それがこうも、容易く。己の勘の悪さを反吐が出る。
が、一撃で轟沈しなかっただけマシだ。
自分の左肩と瑞鳳の右膝への処置を終えると、続けていつもの大型錨の鎖を瑞鳳のお腹に巻き付けていく。

「曳航って、どうやって・・・・・・――駄目!! そんなことしたらっ」
「質量制御でギリギリまで重量抑えて。キラが時間を稼いでくれている内に、早く!」

瑞鳳の極常識的な指摘を一蹴し、響は青ざめた顔のまま必要な作業を全てこなした。
0268ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 23:08:31.45ID:MT8pB/3O0
通常、駆逐艦単艦で空母を曳航なんて不可能だが、そこは不思議存在たる艦娘、少女としての重さと艦艇としての重さを使い分けることなど朝飯前だ。勿論、響にはかなりの負担が掛かるが一刻の猶予もない。
機関全開、最大出力で航行開始。鎖がピンと張り詰めて、艤装がギギギッと悲鳴を上げて、響は片足だけの瑞鳳を曳航する。自身も隻腕であるのでバランスは悪く、速度は常の半分程度まで落ち込んでいた。
それでも一緒に動かなければ。逃げなくては。
響は、一体何が起こったのかを全て理解していた。全ては敵の策、【軽巡棲姫】の罠にまんまと嵌まってしまったのだと。
敵は少なくとも3体存在し、すぐ近くにまで迫っている。響がビームに灼かれる寸前に見えたモノが、見間違えでなければ――

<響、瑞鳳!! 早く逃げるんだ! デュエルじゃ抑えきれない・・・・・・!!>

切羽詰まった青年の叫びと、海が裂ける音。
振り返れば、海上に叩き落とされたデュエル目がけて空中から6発のミサイル、海中から4発の魚雷が疾る様が見えた。幾つかは頭部近接防御機関砲で撃ち落とすが仕留めきれず、3発被弾。
爆炎に包まれ蹌踉けたデュエルは、間髪入れず飛び込んだ【軽巡棲姫】の膝蹴りで弾き飛ばされる。
勿論、そこに他2体の追撃も殺到する。

「キラッ!!!!」
<ちぃ! やらせてたまるかァ!!>

ビームサーベルを抜いたデュエルに襲いかかる、見慣れぬ漆黒の機械人形――全体的に直線で構成された、スラッとした四肢に、複雑な面構成のボディ、アンテナとゴーグル付きの頭部を有した、約18mの鋼鉄の巨人。
背に大型水平翼を装備したそのシルエットは、エールストライカー装備型ストライクと酷似していた。
同じくビームサーベルを抜き、水平翼からミサイルを放って突撃するソイツに対してキラはあえて前進、懐に潜り込みシールドバッシュで突き飛ばすと反転、振り向きざまの横凪一閃でダーツ状の砲弾を切り払う。
更にもう一回転、体勢を崩した漆黒の巨人に回し蹴りを喰らわせようとしたところ【軽巡棲姫】の牽制射撃で断念し、代わりに左手の115mmレールガン・シヴァで海中に潜むもう一機を狙撃するが、それも避けられた。
ギリギリのところで海上に飛び出して砲弾を躱したソレは、全体的に曲線で構成された約20mの鋼鉄の巨人。漆黒で彩られた非人型な流線型のフォルムには、まるでイカのような愛嬌があった。

「【姫】と、モビルスーツ!!」
「二機もいる・・・・・・! それにアレ、もしかして水中用なの!?」
<ウィンダムに、グーンなんて! なんでこんな機体がッ>

【GAT-04 ウィンダム】と【UMF-4A グーン】。
片や旧地球連合がC.E.73に製造した、カタログスペック上では【GAT-X105 ストライク】と同等の性能を持つ汎用主力量産機。ジェットストライカーを装備したウィンダムの戦闘力はエールストライクを完全に凌駕する。
片や旧ザフトがC.E.70に製造した、その水中での高い機動性を活かした対水上艦戦と対潜水艦戦を得意とする水陸両用量産機。水中巡航速度50ノット以上と通常水上駆逐艦よりも遙かに高速で、攻撃能力も潜水艦以上だ。
どちらもこの世界の、この時代の兵器では勝負にならない程の性能を持っている。
0269ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 23:11:09.17ID:MT8pB/3O0
その上、深海棲艦に侵蝕されたことで基本スペックが断然向上しているようだった。
例えば本来ウィンダムの装甲は【ZGMF-X56S インパルス】の20mm機関砲で貫通できる程度だったというのに、今ではデュエルの75mm機関砲の直撃もノーダメージである。
そして【軽巡棲姫】。
腰部に大型スラスターユニットを増設し、機動性を大幅に強化した【姫】が、二機の漆黒のモビルスーツを従えていた。

「そんな・・・・・・どこから・・・・・・? あんなの全然、見つけられなかった・・・・・・」

数で言えば3対3。
ただし、今の響達が三人がかりで戦ったとしても、たった1体相手に生き残れるか否かといったところか。
もう一度確認しよう。
響は左腕を喪い、瑞鳳は右膝から先を喪い、デュエルは背部スラスターユニットに損傷を負った。
戦闘続行困難なレベルの損傷だ。
対するウィンダムはコーディネイターのエースが操っているのかと錯覚する程に機敏に飛び回り、機動性を喪ったデュエルにビームの嵐を浴びせかけていく。
とんでもないスピードで水中を泳ぐグーンは常にデュエルの背後をマークし、両腕の対潜・対空両用ミサイルとフォノンメーザー砲でもって三次元的な攻撃を仕掛けてきてきた。
追加装備で水上艦最速となった【軽巡棲姫】は、人間大という小柄な体躯を活かして悠々と懐に飛び込んでは次々と拳や蹴りを繰り出している。
馬鹿げてる。
絶望の文字がそのまま具現化したようだった。これまでの戦いが全て茶番に思えるような、圧倒的戦力差。
響は右手の13.5cmライフル型単装砲を構えると、呆然と呟いた瑞鳳に力なく応えた。

「迂闊だった・・・・・・伏せられてた、網を張られてたんだよ」
「え?」
「狙いは私達だったんだ。さっきの水雷戦隊もヴァルファウも囮で、向こうはずっとこの機会を伺っていた」

殆どのケースで、絶望的な状況というものは突然やって来るものだ。
しかし予兆はあったのだ。あったのに見落とした。響達は、三つのミスを犯した。
一つはこの2日間で、テストの為とはいえお馴染みと言える程に演習用海域へ出撃したこと。敵が観測してない筈が無かったと、今なら解る。此方の索敵範囲まで見抜かれていたのだ。
二つ。期は熟したと言わんばかりに利根隊を襲った水雷戦隊の不審な動きを、早々に見抜けなかったこと。
三つ。自分達の索敵能力を過信したこと。敵は透明化していたわけでも、ワープしてきたのでも無い。ウィンダムと【姫】はずっと索敵範囲外の高高度で待機していて、
グーンはソナーに反応しないようにずっと水中で息を潜めてたのだ。此方の死角を突くカタチで、完全かつ完璧な奇襲を成功させる為に。
忘れてはいけなかった。
時間は万物に平等であるという、普遍的で絶対的な事実を。
3日間で艦隊全体の強化を図った佐世保と、極端な一人狙いを謀った深海棲艦との差がこれだ。
結果、福江基地から遠く離れたこの海域で。今更信号弾を打ち上げたところで援軍の到着までは軽く30分かかる距離で、連中と相まみえることになった。
0270ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 23:14:11.43ID:MT8pB/3O0
そもそも全員が対ヴァルファウ戦に集中している筈だから、三人の危機に気付いていない可能性が高い。

「でもだからって、はいそうですかってやらせるものか・・・・・・!」

現状はよくわかった。
冷静に考えるまでもなく勝算は皆無で、詰んでいる。逆転は万が一にも有り得ない。
認めなければならない。響達は戦略でも戦術でもまた敗北を重ねたのだ。しかも今度は、本当に致命的な。
自分達はここで沈むかもしれない。少なくとも、背を見せたら一瞬だ。
巫山戯るな。
だとしても最後まで抗ってやると、響は拳を握る。
キラが危ない。
瑞鳳が危ない。
やっとちゃんと二人と仲良くなれたのに、自分だけなら兎も角、大切な人達までも死なせてしまうなんてことは到底我慢ならない。

「このままじゃ逃げられない。瑞鳳、飛んでるヤツを牽制してくれ!!」
「う、うんっ! やってみる!!」
「キラは海のヤツを抑えて! 私達じゃ無理だ!」
<響と瑞鳳だけでウィンダムと【姫】を!? 無茶だ!!>
「やらなきゃならないだろう!!!!」

戦え。
逆転は万が一にも有り得ないが、億に一つになら在るかもしれない。言葉遊びでしかないが、ソレを戦って掴み取らねば生存は有り得ない。
信じろ。
自分達三人なら絶対に大丈夫。いつだって祈りは届かない、こんな無情な世界だけど、強い祈りは今を生きる糧となる。
想いを糧に、今を生き抜く為に戦え。抗え。
0271ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 23:17:14.65ID:MT8pB/3O0
そうでなきゃきっと、生きてる意味なんてない。

「ここを切り抜けて、ヴァルファウ戦にも合流する。そして勝つ。それ以外の未来はいらない」

3分も持ちこたえれば勲章モノ。
かくしてここに誰も認知し得ない、三人だけの、絶望との戦いが始まった。


「――夕立、参上っぽい!!!! 状況はよくわかんないケド、あのオンナの相手は任せて!!」
「し、師匠!!??」
「ヘェ・・・・・・キタノネェ・・・・・・、・・・・・・ユーゥーダァ・・・・・・チィーーーー!!!!!!」


訂正。
頼もしい味方が一人、雰囲気をブチ壊しにして【軽巡棲姫】にドロップキックをかました。

「だから師匠呼びはやめ・・・・・・、・・・・・・どーやらふざけてる余裕はないっぽい?」
「うん」
「ぽいー・・・・・・あと15分耐えれば榛名さんの射程に入る。それまでアイツは抑えるから、なんとか生き延びて。・・・・・・夕立の弟子に手を出したこと、死ぬ程後悔させてやる」

構図は三つに分かれた。
キラVSグーン。夕立VS強化型【軽巡棲姫】。響&瑞鳳VSウィンダム。
目指すは15分の生存。ただし援軍が来ても状況は好転するとは限らず、むしろ被害が拡大する可能性も大いにあり得ることを重々留意されたし。
そして最後一つ、忘れてはならない事が、もう一つ。


絶望は、少しだって薄まってはいないという目の前の事実を、現実を、忘れてはならない。
先に断言しておこう。この戦いに、奇跡は有り得ない。
0272ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 5aad-AIgs)
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2019/01/01(火) 23:20:12.77ID:MT8pB/3O0
今回はいつもより短めですが、以上です。
いつまでも成長してませんが、今年もよろしくお願いいたします。



ところで三流氏や彰悟氏はいずこに・・・・・・
0273三流ry (ワッチョイW b34b-Oc2E)
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2019/01/03(木) 08:20:00.12ID:8NW52usn0
あけまして乙です。
私は完全にネタ切れですよ、構想が浮かぶと一気に完結まで持っていくスタイルですから。

読んでる最中は「木曽が偽物(スパイ)じゃ?」とか勘ぐってましたが
外れましたね(笑)
降ってわいた絶体絶命、さぁどうなるやら。
冒頭の武器争奪戦、さすが女性はバーゲンセールに強い。
この分だと立派なオバサンに、おや誰か来たようだ。
0275通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイW 13ad-5YLt)
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2019/01/03(木) 21:03:49.88ID:leY65Acf0
艦娘の誕生日が史実の艦艇の進水式と同じとすれば、登場人物のほとんどがオバ……ゲフンゲフン

誘き出し作戦はそれこそ偽物や戦果誤認ネタとかでスマートに演出したかったのですけど、実力と想像力不足で今回のような感じになりました。
0277ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
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2019/02/08(金) 20:01:21.09ID:aWXdpYKm0
――艦これSEED 響応の星海――


第二次世界大戦期の潜水艦、つまり原子力エンジン等の非大気依存推進機関を採用していなかった潜水艦の実態は、未だ可潜艦であった。
潜れるだけの艦艇。短い潜行持続時間、遅い水中航行速度。基本的に水上を移動し、必要とあらば潜って隠れたり攻撃したり。
一般に想像されるような潜水艦同士の水中雷撃戦なんて不可能で、まだまだ発展途上で未成熟な艦種。
それでも潜水艦は、水上艦艇の天敵だった。
戦後の原子力潜水艦よりずっと低スペックだとしても、艦砲よりも魚雷よりも航空機よりもずっとずっと脅威だった。
その特徴と関係性は当然、艦娘と深海棲艦にも引継がれている。それぞれ独自の改修により欠点を補いつつ長所を伸ばした潜水級は常に、両陣営にとっても最大警戒目標の一つとして認識されている。
最大警戒目標の一つだからこそ、見敵必殺。発見すれば真っ先に対抗戦力を投入し、見失う前に魚雷を放たれる前に無力化すべし。
当然これまでの佐世保艦隊の戦いでも、防衛戦でも争奪戦でも、スポットライトが当たらなかっただけで対潜戦闘は行われていた。
故に艦娘達は大規模な敵水上戦力に対抗できたし、響やキラも目前の戦闘に集中できたのだ。対潜戦闘員もまた戦場の主役なのである。
つまり可潜艦レベルであっても昔も今も、潜水艦はそれだけの戦略的価値がある存在ということだ。
だというのに、この漆黒のグーンときたらどうだ。

「速い! このスピード・・・・・・やっぱり後期型!!」

水中を自由自在に、鋭角も鋭角に機動する【UMF-4A グーン】のスピードはまさしく戦闘機級。
コイツに比べれば水上の艦娘達は勿論、水中に潜ったデュエルも止まっているようなもので、コクピットにて操縦桿を握るキラが呻く。彼が操る機体はアサルトシュラウドの追加装甲を殆どパージし、
デフォルトよりも運動性と機動性を向上させた現地改修機なのだが、それでもまったく追い切れない。

「どうする。どうすればコイツを止められる!?」

戦闘機並の機動力に、戦車並の装甲、戦艦並の火力、そして人間並の汎用性を求めた有人対艦兵器。それがC.E.におけるモビルスーツの開発コンセプトだ。
祖たる【ZGMF-1017 ジン】から始まったMSの進化と細分化は、あらゆる特化機や万能機を多数世に生み出したが、地上特化でも宇宙特化でも対MS特化でも、
いずれもその根底には当初のコンセプトが変わらず息づいている。
なかでもとりわけ、グーンはその血が色濃く出ている機体だった。
後にロールアウトされたゾノやアッシュ、アビス等が対MS格闘戦を想定して設計されている反面、グーンは純粋な対艦兵器として完成していると、陣営問わずモビルスーツ開発者は口を揃えて言う。
0278ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
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2019/02/08(金) 20:03:47.47ID:aWXdpYKm0
戦闘機並の機動力に、攻撃手段が限られる水中という環境下での分厚い装甲、対潜と対空を両立させた戦艦並の火力を、
人間並の汎用性をある程度捨てて採用されたイカのようなシルエットによって存分に発揮する初代水陸両用量産機。
それがグーン。
【軽巡棲姫】は少々過小評価してしまったようだが、デュエル撃破に拘ったあまりに冷静な分析ができなかったようだが、単騎で佐世保艦隊を壊滅できる程のスペックを持つ機体なのだ。
第二次世界大戦期の水上艦艇――日本最速の駆逐艦島風ですら最大40ノット前後――と、C.E.70の水陸両用対艦機動兵器――巡航速度で50ノット以上――なんて、相性最悪なんてものじゃない。


逆説的に【姫】がデュエルを狙ってくれたおかげで、佐世保は命拾いしたとも言える。もしも優先順位が逆だったらと考えるだけで背筋が震えた。


少女達に対抗手段は無い。
コイツを放置すれば、キラが敗退すれば間違いなく艦娘達は全員、何が起こったか知る事もないまま。直上で奮戦する三人は真っ先に狙われる。
最悪の未来を回避するには、キラがグーンを無力化し、かつ今も空中を飛び回るウィンダム――【GAT-04 ウィンダム】も対MSを重視しているが立派な対艦兵器の一端だ――を墜とすしかない。
夕立が【姫】を抑えている間に、負傷した響と瑞鳳がやられてしまう前に。
しかし、このままでは。

「このままじゃ、僕が一人目だ・・・・・・!」

デュエルに搭載されたソナーが新たな突発音を拾い、コンソールに無数の光点が灯される――グーンの両腕から射出された対潜・対空両用高誘導ミサイルだ。
予期していた攻撃パターンに応じてキラは素早く正確にフットペダルを蹴り込み、スロットルを目一杯上げる。遅れてモニター一杯に迫る、無数の弾頭。
――やはり躱しきれない!
全身いたる所に搭載された高出力スラスターを全開で噴かしても、強大な水の抵抗に機動性を殺されては射線から逃れられない。最初の対MS用MSとして開発されたデュエルも人型である以上――仮に万全の
フリーダムを駆っていたとしても同じだったろう――どうしようもない現実だった。
被弾。
水中での1対1に持ち込んでから、4発目の直撃。ただでさえ水圧のストレスに晒されているPS装甲が、遠慮容赦なくバッテリーからエネルギーを吸い上げていく。

「!」

防御。
確信をもって構えたアンチビームシールドが、ギリギリのところで直上からのフォノンメーザー砲を遮る。当たればビーム兵器同様、一撃でPS装甲は貫かれてしまう。これだけはなんとしても防がねばならない。
0279ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
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2019/02/08(金) 20:06:12.96ID:aWXdpYKm0
だから、ミサイル相手にシールドは使えないのだ。衝撃がモロに伝わる水中では数発防いだだけで壊れてしまう。
敵もそれを理解しているのだろう。防御した一瞬の硬直をついて更に背後に回り込んだグーンが、更に立て続けにミサイルとフォノンメーザーを放つ。

「仕方ない!」

やむを得ず、アサルトシュラウド装備として左肩に残していた220mm径5連装ミサイルポッドを解放、メーザーは防御しつつ敵ミサイルを相殺した。
これで遂にデュエルの射撃装備が底をつく。
C.E.で普及している対潜自己推進弾頭でも命中率は低いというのに、そもそも通常弾頭しか装填してない頭部機関砲とレールガンは使い物にならず、ビームライフルは論外。
ライフル下部に装備していた175mmグレネードはとっくに海の藻屑になっている。350mm大型レールキャノン・ゲイボルグがあればと歯噛みするが、あれらは手元に無い。
グーンを倒すには、もうレールガン・シヴァを接射するしか道が無い。
しかし。
どうすればいい。
勘違いしてはならないが、グーンは、水中での機動射撃戦に限定すれば対MS戦でも有用であることだ。
かつてキラはストライクの格闘装備でグーン2機とゾノ1機を墜としたことがあるが、あれは敵パイロットに対MS戦の経験がなかったからこそのビギナーズラックだった。
水中用MSの格闘能力はあくまで同じ水中用MSとの戦闘を想定したもので、本来デュエルやストライクのような汎用型相手には無用の長物なのである。水中用の機体はただ、相手の攻撃圏外から撃つだけでいい。
現にグーンはこれまでずっと距離を保って射撃戦に徹している。背部メインスラスターを損傷したデュエルでは近づけず、回避も儘ならぬままいたずらに装備とエネルギーを消耗して今に至る。
敵は機体のスペックと、採るべき戦術を熟知しているのだ。
今の装備とコンディションでは、到底太刀打ちできない。
このままでは真っ先に自分が死ぬと、キラは改めて悟る。
どうすればいい。
なんとしても状況を変えなければならない。
なんとしても生きて、響達を助けてみせる。
その為に、具体的にどうすればいい?
諦めないと口で言うだけなら容易い。けれど、力の伴わない想いは現実を変えられない。

「だけど、手間取ってる場合じゃないんだ!! 僕が・・・・・・護るんだ!」

ソナーが再び、新たな突発音を拾ってコンソールに光点を灯した。その数8発。
フェイズシフトダウンまで、あと5発。
0280ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
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2019/02/08(金) 20:10:02.92ID:aWXdpYKm0
《第16話:ちいさなてのひら》



海中でキラが苦戦している頃、海上で【軽巡棲姫】を相手取る夕立も、かつてない逆境に見舞われていた。
奇しくも二人の状況は、とても似通っていた。

「ユウダチィ! キョウコソ・・・・・・オトス!!」

通常の三倍のスピード。腰部に増設した大型スラスターユニットから青白い炎を吐き出して、非常識な勢いで滑走する仮面の美女の拳が、轟と大気を切り裂いて夕立の頬を掠める。
刹那の、三重のフェイントの末に放たれた右ストレート。
対して、五重の誘いを織り込んだバックスピンターンで応じていなければ顔面を潰されていたかもしれない一撃、それが掠めただけで、たったそれだけで少女の小さな身体は弾き飛ばされた。ピカピカと視界に星が舞う。
単純な物理学、重量差と速度差の暴力だ。
強引に後方宙返りをうって体勢を立て直し、着水してはサイドステップで砲弾と魚雷の射線から逃れる夕立だが、しかし。軽巡洋艦程度の質量にとって、
一度は沈んだナスカ級両弦スラスターのパワーはオーバースペック。瞬時にして【姫】は滞空中の少女の懐まで、それこそ砲弾のように突撃してきた。

「このッ・・・・・・調子にのんなァ!!!!」

今更言うまでもなく艦娘は空を飛べない。
ならばと渾身のミドルキックを相手の肩口に叩き込む。人間の日常生活で例えれば、高速走行中の大型トラックか電車を蹴るようなものだ。ヒットしたそばから靴が破れ、皮が裂け、
骨が軋むがお構いなしに一瞬の接点を支点とし、むしろ重量差を活かし自ら横方向へ弾き飛ばされるようにして正面からの激突を回避。
生き延びる。
代償は右脚の激痛と、再びの滞空時間。
紙一重で九死に一生を得たが、未だ渦中。再び体勢を崩した獲物めがけて、口端を吊り上げた【軽巡棲姫】は再び執拗な突撃を仕掛ける。

(流石にこれはヤバいっぽい。パターン単純だから躱せるケド、先に夕立の船体に限界がきちゃう)

これが幾度も、幾度も。
先程から夕立は、まともに動くことができずいた。
オカルトじみた完全回避能力を持つ彼女ですら見切れなかった初撃で宙に浮かされてからというものの、あらゆる角度から変則的に繰り出される【姫】の攻撃に、戦技の要たるフットワークを、機動性を封じられているのだ。
全てのスペックが己より高く、しかも徹底的に此方のスタイルを研究してきている敵相手に本領を発揮できない。
【姫】は夕立になにもさせないまま勝負を決める腹積もりだ。少女が出来ることといえばせめて、空高く打ち上げられないよう自ら浅い角度で跳ぶぐらいしか。高高度で無防備になったら本当にお終いだ。
反撃の隙はなく、直撃を叩き込まれて死ぬか、それとも、追い立てられ自由を奪われるかの二択。
0282ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
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2019/02/08(金) 20:11:15.76ID:aWXdpYKm0
そんな展開がずっと続いている。
なんとか対処できているのも、体力に余裕のある今だけのこと。

(でも)

そもそも続ける気は毛頭もない。
もう間合いは見切ったっぽいと、金髪黒衣の【狂犬】は犬歯をむき出しにして嗤った。まだまだ戦闘は始まったばかりで雌雄を決するには早過ぎる。
そもそも夕立は響達を助けに来たのであって、さっさとコイツを倒して死ぬ程後悔させて、空飛ぶウィンダムとやらも撃退しなければならないというのに。
タイムリミットは近い。
ちらりと一瞬、高速で流れる視界の中、ぐんと引き延ばされ速度を落とした時間の中で、護るべき愛弟子達の戦いぶりを確認する。
鎖で繋がった二人は健在。
響は装備していたアンチビーム爆雷と大型斬機刀グランドスラム改で、瑞鳳は残り少なくなった艦載機でなんとか漆黒のウィンダムを退けている。

(まだ粘ってる。安定してる。でもやっぱりアレじゃ保って1分が限度。キラさんもなんか大変そうだし、ここは夕立が切り拓くしかないっぽい)

しかし爆雷は持続も弾数も有限で、敵ビームライフルの連射力に対応仕切れていない。刀身に施された対ビームコーティングも過信できないと聞いた。
そして残念ながら「烈風改」は機銃とビームで七面鳥撃ち(ターキー・ショット)の如くだ。
思い知る。
艦隊の弾幕と連携を用いてようやく対抗できる【Titan】は所詮、間に合わせの戦力でしかなかったと。巨人よりも格段に動きも性能も良い機械人形相手に、負傷した響達が勝てる道理はない。
そこをわきまえている響は堅実な防御に徹しているがそもそもの地力が違いすぎる。無理だ。
海中のキラ含め、ここには苦戦と絶望しかない。
一番マシなのは自分。
早く駆けつけねば。ならここいらで一つ、賭けにでることにしよう。
先の争奪戦で仕掛けた奇襲攻撃は、結果としては失敗に終わったもののタネはまだ割れていない筈。あれを再現して今度こそ成功させて、決着をつける。

「シズメッ!!!!」
「芸が、なさ過ぎるっぽい!! いつまでもそうやって――」

一世一代の大博打。
スペックで負けても夕立には、彼女と共に技を研鑽した川内と江風、そして響には、とっておきがあった。
勝利を確信して突っ込んでくる敵に叫び返し、トレードマークの白いマフラーをしゅるりと解いては投げ捨て、

「――やれると思うなァ!!!!」
0283ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
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2019/02/08(金) 20:14:08.83ID:aWXdpYKm0
着水間際、迫る足裏をあえて、右腕に装備していた連装砲で受け止める。
鋼鉄の砲塔がひしゃげ、砕ける。装填済みの弾薬が飛び散る。右腕の中から、バキりと嫌な音がする。けれど腕が完全に壊れてしまう前に、質量制御。限界まで重量を抑えた夕立の身体は【姫】の想定よりもずっと遠くまで、
それこそホームランボールのように飛ばされた。
驚愕の気配が、仮面越しに伝わってきた。さぞ予想外、不可解だろう。殺すつもりでいたが、回避されることも見据えていたが、まさか真っ正面から防御してくるとは思わなかったとか、そんなところか。
そんなんだから川内や神通、そして自分達に遅れをとったのだと内心で罵る。
ともあれ。
その硬直が、この距離が欲しかった。でもまだ足りない。
我に返った【姫】が放った砲弾を左の連装砲で撃ち落としつつ、続けて連射。砲身をオーバーヒートさせる勢いで連射。12.7cm砲故に有効打になり得ないが足止めも兼ねて、反動で更に距離を稼ぐ。
ここでようやく、遅まきにして両腰部スラスターでロケットダッシュする【軽巡棲姫】。しかし、この時点で非我の距離は、一瞬で詰められない程にまで開いていた。
ここからだ。

(間に合えッ)

夕立自身が着水するまで1秒。【姫】に追いつかれるまで3秒。その間こそが勝負の分かれ目。
空中にて両大腿部の61cm四連装酸素魚雷発射管から3本ずつ、計6本を引き抜いて全力投擲。狙いは突っ込んでくる敵の鼻先で、当然、【姫】は迎撃すべく直ぐさま魚雷全てに弾丸を叩き込んだ。
爆発。
計4.680 kgの炸薬が、弾ける。
海面が大きく波立ち、大気が震える。灼熱の爆炎が黒々と世界を覆い尽くす。
しかし、直撃ではない。
流石の【軽巡棲姫】も圧されて速度を緩めたが、ノーダメージのまま黒の世界へと突き進む。奇しくも先日、彼女の水雷戦隊に大損害を与えた銀髪の駆逐艦と同じような恰好で。
――この世界を超えた先に、夕立がいる・・・・・・!
意趣返しのように仮面の美女は嗤った。
決死の反撃は失敗に終わった。あの駆逐艦は爆圧に吹っ飛ばされて、無防備で無様な姿を晒しているに違いない。勝利は目前だ。
これまでの借りを倍にして返してやる。
そう思考を流して、遂に黒の世界を抜けた【姫】が見たものは。


実に穏やかな、なにもない大海原。


なにもない。誰もいない。
夕立は、忽然と姿を消していた。

「・・・・・・!?」
0284ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
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2019/02/08(金) 20:17:27.73ID:aWXdpYKm0
どこに、いった?
ビクリと動きを止めてしまった【軽巡棲姫】は周囲を、上空含めて慎重に見渡す。
重ね重ね、艦娘は空を飛べない。
爆発が起こった時は丁度、夕立は着水した瞬間で回避など出来る筈がない。【姫】の船体すら揺らがした爆圧に、駆逐艦が耐えられる筈がない。消し炭になったのでなければ、何処かにいなければ。
まるであの時の再現だ。
いない。
銀髪の駆逐艦に気を取られてまんまと背後からの奇襲を許してしまった、あの時のように。
どこへ消えた?
そうだ。そもそもあの時だって、夕立はどのようにして消えて、現れたのだ。あの大胆不敵な駆逐艦はこれぐらいの事ならサラリとやってのけるだろうと深く詮索しなかったのが仇となった。二度目は無いと思っていたから。
直感する。
これは、あの時の再現だ。
なら考えられる可能性は。
その思考が結論を導く前に。

「――」

突如海面より現れた、ちいさなてのひら。
それが、愚かにも静止してしまった【軽巡棲姫】の足首をむんずと掴んだ。
奇しくも先程、響達に奇襲を仕掛けたグーンと同じような手口で。

「――・・・・・・ナ、ニッ!?」

少女の手。
爆発に呑み込まれてボロボロになった、けれども賭けに勝って獰猛な笑みを浮かべる、夕立の左手。

「捕まえ、たァ!!!!」

とっておきとはつまり、なんてことはない。ただの体術である。
今を生きる己のカタチ、人型として全てを利用することである。
単純な格闘技能だけの話ではない。
身のこなし、所作。ただただ艦艇の感覚のまま航行し砲撃し雷撃するだけの者には決して到達できない、鍛えに鍛えた体幹だけが制御できる『動』の境地。
極めるべきは全身の重心及び慣性の制御を意識し、体裁きに反映させる技術。あらゆる環境下で、あらゆる手段で敵に肉薄し、必中の一撃を叩き込むための技術。
他の艦娘達が一辺倒に重視する艦艇として能力と、人型としての汎用性の融合。
夕立や響が得意とする格闘技能とはつまり、結局のところ、その技術の副産物でしかない。彼女達にとっても接近戦は護身用、最後の手段だと言われている理由だ。
0285ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
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2019/02/08(金) 20:20:08.36ID:aWXdpYKm0
サーベルを持つ木曾が良い例で、ただの接近戦自体は特別なことでもなんでもなく、普通の艦娘でもやるときはやるものだ。


神髄は、身体制御と質量制御を積極的に用いた体術に依る、絶対回避と必中必殺。
人型として全てを、利用すること。
人型としての汎用性は、万能性だ。


そこへ川内が初めて踏み込み、先天的に相手の意識外へと切り込める夕立が極め、その二人に命を救われ憧れた響が受け継いだ。会得できた者は未だ少なく、だからこそ彼女達は特別になった。

「アリエ、ナイ・・・・・・ッ!!??」
「ありえないなんてこと、ありえないっぽい!!」

駆逐艦夕立は、可潜艦ではない。
しかし少女としての夕立は、海に潜ることができた。人間は泳ぎ、潜ることができるから。それに少女達は毎日お風呂にだって入るのだから、艦娘全員は本来、基礎能力として水への浮き沈みをコントロールできるのだ。
ただそれを戦場で行おうとする発想自体が、自殺行為に等しいのだが。
しかし通常でも尋常でもない【狂犬】は、勝つ為なら自殺行為でもなんでもやる。
故に、艤装を一時機能不全として決行した二度目の秘奥義、隠れ身の術。水中の艦は、水上艦艇の天敵だ。
これを起点に。
掴み取った、敵の足首を支点に。
両足を蹴上げて倒立した夕立の全身が、蛇のように鋭く複雑に【軽巡棲姫】に絡みつく!

(川内さんは言った。人型は万能だけど、決して完璧なんかじゃないって。艦艇よりもずっと歴史のある人体の限界を知ってこそだって!)

勢いそのまま敵を腹から海面に叩きつけ海老反りにし、4の字に固定した敵両脚の中空に敵右腕を通して極めれば、完成するはアドリブ複合関節技・逆結び目固め。
人型である以上その関節は共通。体格と体重に差があっても、スペックに差があっても、極めてしまえば動きを封じつつ目標を破壊できる関節技(サブミッション)こそ王者の技!

「コンナ・・・・・・コンナモノデェッ!!!!」
「無駄よ、貴女に抜けられる道理はないの。これで終わり」

関節技という概念自体を知らない深海棲艦相手には、特に有効だ。生きる世界の情報量の差がモロに出る。
あっという間の、あっけない逆転劇。
屈辱的な恰好で四肢を封じられた【姫】を見下し、夕立は両大腿部の61cm四連装酸素魚雷発射管を駆動させた。
0286ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
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2019/02/08(金) 20:23:18.80ID:aWXdpYKm0
安全装置を解除した九三式魚雷三型。これを全力で、艦艇としての質量全てを注ぎ込んだこの魚雷を喰らわせれば。
遠慮容赦無く、効率的に。
淡々と素早く、後悔させる暇も無く。
終わらせる。


そうするつもりで、そうなる筈だった。


突然、海が大きく、不自然に傾いだ。
波ではない。海中で大きな爆発があったのだと悟る。

「なっ!?」
「!!」

悟ったところで手遅れだった。体勢が崩れ、束縛が緩む。無理な負荷を掛け痛んだ手足が、意志を裏切った。
その後。
たった数コンマだけの差で。
夕立の魚雷が届くよりも先に、【軽巡棲姫】の砲弾が少女の身を貫いた。



0287通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイW 82ad-ME8i)
垢版 |
2019/02/08(金) 20:23:45.62ID:aWXdpYKm0
回避
0288ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
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2019/02/08(金) 20:24:21.74ID:aWXdpYKm0
「師匠!?」

出来の悪いアニメーションフィルムのような光景だと、響は思った。
間延びしていて、脈絡がなくて、全然現実感がない。
絶対無敵だと思っていた夕立が、被弾して、血塊を吐いて、爆炎の中へと消えた。たった2発の魚雷が、いつもよりも無駄に巨大で鮮やかな爆発を生んで、縺れあう二人の身体を完膚なきまでに覆い尽くしてしまった。
その瞬間が、見えてしまった。見てしまった。偶然にも、運悪く。
出来の悪いアニメーションフィルムで、あって欲しかった。

「――響!? まえッ!!!!」
「・・・・・・え」

茫然自失としていた響の身体が、どん、と突き飛ばされた。
瑞鳳に突き飛ばされた。
普段の彼女にはありえない暴挙だが、その表情と状況を考えれば、否、考えなくても理由は解る。でもそれじゃ足りないと、響は二人を繋ぐ鎖を思いっきり引っ張ろうとする。しかし、それでも足りなかった。遅すぎた。


迫る。
大凡10mに及ぶ灼熱の光刃。
ビームサーベル。


強力な電磁場を用いて荷電粒子を刃状に固定した必殺兵器。威力はかつて隣で戦ったキラが散々証明している。戦艦の装甲さえ熱したバターを切るかのようにして、容易く貫徹してしまう光の剣。
ウィンダムの握るそれが、迫る。
なんの抵抗もできないまま、響の左脚と、鎖と、瑞鳳の両腕を斬り落とされた。続けてサーベルが海面に触れて大規模な水蒸気爆発を引き起こし、二人は襤褸切れのように吹っ飛んだ。
別々の方向へ。四肢の大半を喪って。
あのままボーッとしていたら間違いなく二人は死んでいただろう。しかしそもそも爆発に気を取られていなければ、こんなことには。
痛恨のミス。普段なら絶対にありえない、己の精神性を疑うミス。
チェックメイト。
あっという間に均衡を崩されて、あっけない幕引きだ。

「嘘だ」

こんなのってない。
這いつくばって血と涙を流しながら、無意味に呟く。
絶対に護ってみせると誓った瑞鳳に護られて、彼女にはもう左脚と数少ない艦載機しか残っていない。
【軽巡棲姫】と相打ちになった夕立の安否は、不明。
海中でグーンと戦っている筈のキラも同じく、不明。
0289ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
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2019/02/08(金) 20:27:44.74ID:aWXdpYKm0
救援は来ない。夕立が告げた時間まで10分以上ある。
右脚だけでは、まともな航行なんてできない。
右手に握った大太刀では、自らの身を守ることしかできない。
ライフルはついぞ一発も当てられないまま破壊された。
空飛ぶ相手に魚雷なんか当りっこない。
他の試作兵装はシールドと共に海へ消えた。
両肩の機銃が、アンチビーム爆雷しか装填していないグレネードランチャーが、錨を喪ったただの鎖があって、なんになる。
どうしようもない。
人型の万能性が聞いて呆れる。しかし本当にどうしようもないのだ。なにもできない。なにもかもを無駄にしてしまった。
冷静に考えるまでもなく勝算は皆無で、詰んでいる。逆転は億が一にも有り得なかったのだ。開戦時に発した精一杯の強がりも、こうなっては笑い話にもできやしない。
これでは瑞鳳を、護れない。
自分の喉から今まで聞いたことのない、ひび割れしゃがれた音が絞り出された。

「うそだ・・・・・・」

白濁にぼやける視界の中、空中に留まる漆黒のウィンダムが悠々とビームライフルを少女に向けた。
死ぬ。
殺される。大切な人が殺される。
これまで幾度も、響が見てきた光景と同じように。
開戦当初の佐世保の海で、一時的に所属した横須賀の海で、あの戦争で幾度も目にした命の果てと、同じように。
どうしてこうなったと、響は自問した。
強くなれたはずだ。
皆で研鑽し作り上げた、力を手に入れたはずだ。
喪失への恐怖を超える、福音を手に入れたのだ。
諦めないし、無理をする覚悟だってあったんだ。
なのに。
なのにどうして。
自分が死んではもう誰も護れなくなる。瑞鳳が、まだ生きているはずの夕立が、キラが、死んでしまう。
どうしてこうなった・・・・・・!!

(私が、不甲斐ないせいで・・・・・・)

己への絶望に、少女は打ちひしがれる。
これまでずっと諦めずに戦ってきて、諦めないと強がりを口にして、戦ったぶんだけ何かが変われたような気がして、その終着点がコレだ。何も変わっていない。全てが幻、無駄だったのだ。
仮に生き残れたとして、私はもう戦えないだろうなと、自嘲する。
0290ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
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2019/02/08(金) 20:30:37.28ID:aWXdpYKm0
すると不意にウィンダムが、何故か手にしたライフルを在らぬ方向へ向けた。少女らが蹲る下方向ではなく、同高度のものを狙うように。
発射。
二発、三発と放たれた光の矢が東北東へと迸り、ナニかを灼いた。ここからでは見えなかったが、きっと佐世保の誰かが飛ばした偵察機かなにかだろう。目撃者は消すということか。
次は自分達があのビームに灼かれる番だ。
ほんの僅かな執行猶予。先延ばしにされたトドメの一撃。
これを最後の好機と動く者がいた。

「――諦めないで、ひびきーーーー!!!!」
「ッ、瑞鳳!? なにを・・・・・・!」
「私には、瑞鳳にはまだ・・・・・・翼があるんだからぁ!!」

ウィンダムが背負っているジェットストライカーがいきなり火を噴いた。
響からは見えなかったが、ずっと上空に待機していた最後の「烈風改」がエンジンを停止させ、重力に引かれるまま特攻したのだ。動きを止めたウィンダムのセンサーの死角を突いた、見事な奇襲だった。
あんなズタボロになっても、目を覆いたくなるほど悲惨な姿になっても瑞鳳には、まだ闘志がある。かつて日本国最後の機動部隊の一員として戦った末に、ただの囮としてエンガノ岬沖に沈んだ彼女には、まだ。
執念と言うべき胆力でもって、最初で最後の好機をモノにした。

「っく、この・・・・・・動け! 動けぇ!!」

敵は体勢を崩し、海面に不時着しようとしている。
ここで攻撃しなければならない。急げ。彼女がせっかく繋いでくれたのに、護ると誓った己が勝手に萎えていてどうする!
動け、この躰。
攻撃を。
左腕と左脚を失い、残るは右手に握った大太刀のみ。これだけでどうにか、攻撃を!

「う、おおおぉあッッ!!」

投げる。
投擲する。
慣れ親しんだ動作だ。これまで幾つもの危機を打破してきた、響の最も信頼する技。
キラから預かった、これまで身を守るためだけに振るってきたグランドスラムを、投げる。
しかし流石に分が悪い。バランスが充分に取れず、焦りから狙いもブレた。乾坤一擲の一撃はウィンダムのシールドを断ち割り、左肩部装甲に弾かれ宙に舞った。
――まだだ!
歯を食いしばって内心で絶叫。
今度は冷静に、錨を喪った鎖を同じように投擲する。先端に重りがない分不安定で速度が出ないが、今度こそ神懸かった力加減で鎖の軌道をコントロールし、見事グランドスラムの特徴的な柄に絡みつかせた。
0291ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
垢版 |
2019/02/08(金) 20:33:18.40ID:aWXdpYKm0
即席の大型鎖鎌である。
これで、本当に今度こそ。一旦鎖をブン回して遠心力をため込んで、胴体を真っ二つにしてやる。
そう気合いを込めた少女の瞳が、見開かされた。
まずい。
敵のビームライフルが、瑞鳳を狙っている。
否。
もう、狙った後だった。

「やめろ」

ヴァシュウッ! と、特徴的な擦過音が、最近は毎日のように聞き、今日だけで何十回と聞いたソレが耳を打つ。
一条の閃光が、煌々とまっすぐに。動けない瑞鳳に向かってまっすぐに。

「やめてぇ!!!!」

超高熱のビームは海面に着弾すると同時に、水蒸気爆発を引き起こす。
遅れて、加速したグランドスラムがウィンダムの胴体を目論見通り、真っ二つにした。
だが少女の瞳は、意識は、既にそちらには向いていない。
散々響達を苦しめた機械人形の爆発が、海面を赤々と煌々と照らす。残酷なまでに真実を、現実を照らす。思わず伸ばした少女の腕の先を、照らす。
底意地の悪い、最後の抵抗であるかのように。

「あ・・・・・・ぁあ・・・・・・うああああぁッ・・・・・・」

轟沈。
響の目前で、あっという間に、あっけなく今、沈んだ。
嘘だ。
嘘だ。
嘘だ。
嫌だ。

「瑞鳳ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

目一杯伸ばした、ちいさなてのひら。
その先にはもう、誰もいなかった。
0292通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
垢版 |
2019/02/08(金) 20:37:19.62ID:aWXdpYKm0
今回は以上です。
普通に考えて汎用型が水中型に勝てるわけないし、艦艇が機動兵器に勝てるわけないんですよね。
0294通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ 82fb-WZHJ)
垢版 |
2019/02/10(日) 00:30:04.93ID:Rd7O3K3L0
ちいさなてのひら、だんご大家z、うっ、頭が・・・

投稿乙でした。苦戦継続中ですな。
ここからどう巻き返すかも見物ですが、気になった点が一つ。

仲間の心配もいいけど、戦いという割に相手を見てないのが気になります。
「姫」の「夕立」に対する「想い」みたいなのが、艦娘達の深海側に対して
希薄なことが不利な状況を生んでるような印象です。

実際にミートさんがそのつもりで書かれてるのかも知れませんね。
0295通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ 82ad-Ctdi)
垢版 |
2019/02/10(日) 05:32:39.22ID:YAoZtYtQ0
お二方感想ありがとうございます。
>>294
>仲間の心配もいいけど、戦いという割に相手を見てないのが気になります。
「姫」の「夕立」に対する「想い」みたいなのが、艦娘達の深海側に対して
希薄なことが不利な状況を生んでるような印象です。
流石に鋭いですね。
そこは実は仕様です。そこを語れるのはこのペースだとマジで何年後になるか自分でもわからないですが、彼女達の【起源】に直結することなので・・・・・・
長い目で見ていただければと。「あの」ガンダムSEEDのパロディとして、自分がこれから書くことも含め、でお願いしますハイ
0296ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-twBZ)
垢版 |
2019/03/31(日) 22:43:46.80ID:mgTOe+I+0
平成最後の投稿になります。
今回は溜め回ですので物語は進みませんが、これで世界観や技術等の説明はしばらく打ち止めになってくれると思います。てかそうしたいです。
0297ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-twBZ)
垢版 |
2019/03/31(日) 22:45:58.00ID:mgTOe+I+0
――艦これSEED 響応の星海――


そういえば、前にも似たようなシチュエーションがあったと瑞鳳は思い出した。
あれは戦争が始まった年の晩夏。軍令部の命により、やむを得ず嵐の海に出撃した艦娘達が行方不明になった事件でのこと。当時まだまだ弱っちかった瑞鳳と響が編入された捜索隊は艦娘を見つけることができず、
代わりに難破した深海棲艦群と、それを救助しに来たであろう深海棲艦水雷戦隊とかち合ったのだ。
今なら鎧袖一触で撃退できる雑魚もとんでもない強敵で、追い詰められていくうちにパニックを起こした二人は捜索隊とはぐれて孤立した。いつも暁達の後ろに隠れていた響が、
泣きべそかきながらも全艦載機を喪った瑞鳳を庇うように前にでて連装砲を構える響の姿が、とても印象的だった。
夕立に助けられたのはその時だった。行方不明になっていたはずの横須賀の夕立と川内に、逆に助けられたのだ。
そっくりだ。とてもよく似ている。
響が横須賀へ行くキッカケとなったあの時の自分達と、今ウィンダムにやられそうになっている自分達は、ほとんど同質だった。
でもあの時とは決定的に違っているものがある。
夕立に助けに来てもらってもなお、絶体絶命であること。そして、瑞鳳にはまだ一機だけ艦載機「烈風改」が残っていることだ。

「私には、瑞鳳にはまだ・・・・・・翼があるんだからぁ!!」

わざと大きな声で叫んで、雲に隠していた最後の機体で特攻をかける。
その本懐を果たせず自由落下する「烈風改」には、申し訳ないけれど、贅沢を言えばウィンダム本体に当たってほしかったけれど、ちゃんと役目を果たして敵の飛行能力を奪ってくれた。
目論見通り、敵の意識を瑞鳳へと向けてくれた。
これでいい。
最後の最後に囮として、響が反撃できる隙をつくれたのだから上出来だ。彼女なら絶対に見逃さないし、ちゃんと生き延びてくれる。あの娘だけでも絶対に、生きて帰してみせる。
無力なりにできることは、最善は尽くした。
そういえば、と、そこでまた思い出す。
かつて日本国最後の機動部隊の一員として戦った末にエンガノ岬沖に沈んだ時も、艦載機を全て喪い、囮として振舞ったのだったなと。どうやら瑞鳳という存在は、そういう星の下に生まれたらしい。
そして少女の意識は一度、一瞬、暗転した。

『瑞鳳ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!』

本来なら聞こえるはずのない、そのあまりにも悲痛に過ぎる叫びを聞いて、意識が再起動する。うっすらと金糸雀色の瞳をあけて、自分がどうなってしまったのか自覚する。
ならあの、ゆらゆら揺らめいている綺麗な光は、海面だろうか。
ならこの、ぷかぷか昇っていく大小様々な泡は、己の身から出ているものだろうか。
0298ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-twBZ)
垢版 |
2019/03/31(日) 22:48:58.91ID:mgTOe+I+0
何故かそれらが、命の鼓動そのもののように思えた。不安定で、揺蕩っていて、でも美しく高みを目指している、命そのものに見えた。
どんどんそれらが、遠ざかっていく。冷たくて動かない自分は、真逆、昏くて揺るぎのない闇へと墜ちていっている。
ここは碧色の世界。
つまり海中で、つまり沈んでいる。順当といえば順当な、当たり前の結果。

(ああ、しまったなぁ)

こうなってしまったらもう、どうしようもない。
左脚しかない躰はまるで全神経が抜き取られてしまったかのように、身動ぎ一つすらできやしない。
泳ぎ方なんて知らないけれど、平時であれば、十中八九徒労に終わるものだとしても脚一本でほんのちょっと未来を先延ばししようとする意志を見せたことだろう。しかし、
そもそも轟沈するほどのダメージを受けた艦娘は、たとえ五体満足であろうとも浮上することは叶わないのだ。
マッチングエラー。艤装が完全に破壊されて魂と躰のリンクが途切れ、全身不随になってしまっては技法も意志もなんの力にもならない。
加えて、艦艇としての質量が文字通り重石になり、少女としての、人間としてのなけなしの浮力さえ殺してしまっている。
開戦してからの通算で、決して少なくない数の艦娘が犠牲になったが、その原因の大半がこの現象に依るものではないかという推測を聞いたことがあった。そして、
艦種問わず轟沈した艦娘のサルベージは、未だ成功例が無いことも。
どうしようもない。今日だけで一体何回このフレーズが脳裏を過ぎったか。きっとこれが運命というやつなのかもしれない。
どうしようもない。即死を免れたこの身は、意識のあるままジワジワと死に侵蝕されていき、深海にて朽ち果て消えるのだ。

(これから、どうなるんだろう)

恐怖はない。
代わりに後悔と懸念、そして未練と罪悪感に満ちていた。
無力なりにできることは、最善は尽くしたけれど。逃れられないことだったけれど、他に選択肢がなかったけれど。それでもこんなのは絶対に、絶対に、最善なんかじゃない。
ああ、そうだ、そうだとも。彼女に――響に、悪いことをしてしまった。
よりにもよって私は、響の目の前で。

(・・・・・・どうして、こんなことになっちゃったんだろう)

キラと夕立の安否もわからず、目前で己が沈んだのでは。まるであの戦争の再現のよう。
船の【響】の経歴を、あの娘の過去を、あの娘の想いを知っている瑞鳳としては、この状況こそなんとしても避けねばならなかったというのに。
0299ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-twBZ)
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2019/03/31(日) 22:51:33.46ID:mgTOe+I+0
なのに彼女を癒やしたいと願った己が、先日ようやく念願叶って彼女と仲直りできた己が、よりにもよって最後の最後にこんなので、いたずらにあの娘の心を傷つけただけじゃないか。トラウマを抉っただけじゃないか。


今度こそ彼女は、壊れてしまうかもしれない。


こんな酷な仕打ちはない。馬鹿な話じゃないか。
前よりもずっと近くなって、一緒にいるようになって、実験に居合わせるようになって、結局足手まといになって。当初の予定通りに響とキラだけで出撃していれば、
この戦いに自分が居なければ、身軽で自由に戦える響ならもっと上手くやれてたはずなのに。
だから瑞鳳の心は後悔に染まった。
結局やることなすこと全てが裏目に出て、逆効果にしかならなかったじゃないか。
これが運命だとしたら、神様はどこまでいじわるなのか。再び閉ざされていく意識の中で少女は、せめてもの抵抗として、最後まで瞳は閉じずにいようと決めた。

(・・・・・・響、祥鳳、キラさん、みんな・・・・・・ごめんね・・・・・・――)

その時だった。
見上げた光の天井から、一つの影が落ちてきたのは。

(――なんで。ダメだよ響、こんなところに来ちゃ)

響だ。
落ちてくるというよりかは、突き進んでくる。残った右腕と右脚を懸命に動かして、酷く苦しそうな貌をして、瑞鳳を目指して一直線に潜水してくる。
追ってくる。まさか、サルベージしようと?
不可能だ。自殺そのものだ。夕立の弟子として泳法をマスターしていたとしても、負傷した躰で海に入ってしまえば、響単独でも戻れなくなってしまう。
師匠に似て通常でも尋常でもなくなったあの娘も、目的の為なら自殺行為でもなんでもやるが、はなから出来ないことを考え無しにやる馬鹿ではないと瑞鳳は知っている。
贖罪の為に生きて、最前線で戦い続けて、わざと命をすり減らすような戦い方をする彼女なら絶対に、自殺なんて選ばないことを瑞鳳は知っている。
なのに、追ってきた。心中するかのように、自ら死地へやって来た。
つまり、響の心はもう壊れてしまって、自暴自棄になってありもしない救いを求めて、死を選んだのかもしれない。少女にとってそれは悪夢だった。

(なんで、なんでなのよぅ・・・・・・。・・・・・・やだ。こんなのぜったいやだぁ・・・・・・!)

遂に響が瑞鳳の元へと辿り着く。
0300ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-twBZ)
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2019/03/31(日) 22:56:46.50ID:mgTOe+I+0
その時にはもう瑞鳳の瞳はなにも映していなかったが、動かない身体は水の冷たささえ感じなかったが、か細い右腕だけで抱きしめられる感覚だけは、心で感じることができた。
海に溶けて消えるはずの、大粒の涙が頬に当たったような気がした。なにか暖かいものが流れ込んでくるような気がした。
この感覚を最後に、意識は途絶える。
そして海中で抱き合う二人の少女は、大きな黒い影に包み込まれ、消えた。
0302ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-twBZ)
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2019/03/31(日) 22:58:05.76ID:mgTOe+I+0
《第17話:事象の水平線に阻まれて》



デュエルをピンポイントで狙った【軽巡棲姫】とウィンダム、グーンとの戦い。運命の分岐点。
その戦いで何があったのかを、佐世保艦隊が知ることはなかった。一方的な虐殺のような戦いがあったことを、当事者以外はただただ推測することしかできなかった。
何故ならつい先頃に、当事者達――響、瑞鳳、夕立、キラ――の四人が揃ってMIAに認定されたからだ。
Missing In Action(戦闘中行方不明)。事実上の戦死を意味しているその文字列は、漆黒のモビルスーツに撃墜された偵察機の情報を元に、榛名と木曾と鈴谷がヴァルファウ迫る戦場を放棄してまで懸命に、必死に、
約束した期限ギリギリまで周辺海域を捜索した末に導かれたものだった。
経過も詳細も一切不明で、ただ四人の行方が知れないという現実と、敵がモビルスーツを使役しているという事実だけが、残された佐世保艦隊の知る全てだった。鈴谷がたった5秒だけ垣間見た視覚情報だけが、全てだった。

「・・・・・・もっと早く、夕立さんを追いかけていれば・・・・・・もっと早く榛名が決断できていれば・・・・・・」
「死体が増えただけでしょ」
「・・・・・・ッ鈴谷!」
「事実でしょ、あんなん相手に鈴谷達が敵うわけないじゃん。・・・・・・今は戦闘に集中してもらわないと、今度はこっちが瑞鳳達の後を追うことになるんですけど」
「そんなの言われなくたって!!」

11月14日の、11時16分。
らしくなく辛辣な鈴谷の態度と言葉に、目元を真っ赤に泣きはらした榛名は恥も外聞もなく怒鳴った。だが、それでも視線と砲塔は敵に向けたままだから、彼女はまだまだ正気だと木曾は判断する。
むしろ、唯一敵の姿を知る鈴谷のほうが重症だ。付き合いは短いが、こんな風にすげなく当たり散らす少女ではないと知っている。この二人の精神状態をどうにかしなければ、それこそ本当に後追いになりかねない。
響達三人のいない第二艦隊一番隊に、戦闘中に後悔や感傷に耽っていられる余裕なんてない。
これより開始される戦闘も言うまでもなく、熾烈を極めることになる。
感情論抜きで単純な戦力だけで考えても、佐世保鎮守府最強クラスがごっそりと居なくなった損害は大きく、仲間を喪ったからと腑抜けてはいられないのだ。
艦娘というヒトデナシな存在にとって人類を護るという行為は、求められたものであり、求めたものであり、存在意義だから。自分達で選んで繋げたこの道こそが世界の応えなら、どうあっても止まることはできなかった。

「お前らそこまでだ。敵の射程に入るぞ、切り替えろ! 生き残れなきゃ弔うことだってできないんだぞ!!」
「!」
「オレが前に出るから支援任せるぞ鈴谷! 榛名は狙撃に専念してくれ」

エンゲージ。
対ヴァルファウ迎撃戦を経て、再び機能不全に陥った福江前線基地を守る為でなく、討ち損ねた敵を追撃する為の戦場に、木曾達は雰囲気最悪なまま足を踏み入れる。
0303ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-twBZ)
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2019/03/31(日) 23:00:17.22ID:mgTOe+I+0
「・・・・・・すみません木曾、榛名がしっかりしないといけないのに・・・・・・」
「言うな、オレも大概情けねぇよ。だが・・・・・・鈴谷も、わかってるな?」
「っ――オーケー。舐めた態度とったのは後で謝るとして、鈴谷もやることやるよ」
「よし。響達の想いも連れて、行くぞ」

踏み入れて、突破して、更にその先へ。
目指すは沖縄。
仇敵を討つべく、自らの活路を拓くべく、第三艦隊三番隊【阿賀野組】を除く佐世保全艦隊は南へと舵を取る。



0304ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-twBZ)
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2019/03/31(日) 23:03:13.01ID:mgTOe+I+0
ここまで時系列を整理しよう。
ことの始まりは早朝、響達が特別演習に出撃してしばらく経った頃だった。
夜間哨戒から戻ってきたばかりの夕立が突然「響達が危ないっぽい!」と言って再出撃したのだ。確証もなにもなく勘だけで、丁度その場でミーティングをしようとしていた榛名達に「手伝ってほしい」とも言い残して。
夕立の勘は未来予知染みたところもあって信用に足るものであり、ならば駆けつけるべきと急いで榛名達は艤装を準備したが、その直後に問題が発生した。
哨戒に出ていた【阿賀野組】からヴァルファウ接近の報が上がったのだ。
対ヴァルファウ戦自体は、これから起こりうる大きな危機の中でも、特に高い確率で発生するだろうと考えていた。むしろ、提督と木曾に至ってはそろそろ【軽巡棲姫】が痺れを切らす頃合いだと踏んでさえいた。
まだまだ完全とは言えないが、既に厄介な輸送機や巨人を撃退する策は編み出して、虎視眈々と準備を進めていたのだ。
しかし。
第二艦隊一番隊【榛名組】全員と夕立を欠いた艦隊では、作戦決行は難しいと言わざるを得なかった。
しかし。
危機に直面している響を、瑞鳳を、キラを放っておくことはできない。夕立が危ないと言ったからには、手伝ってほしいと言ったからには、真実なのだ。誰かが助けにいかねばならない。
だから。
若干の作戦の変更を、決断した。ほんの数分だけ、貴重な時間を割いて、彼女達は金剛達と協議した。【榛名組】不在という陣容でも致命的な問題が発生せぬよう、作戦を修正した。
戦場で阿吽の呼吸の如く意志疎通できる彼女達でも、若干の犠牲を強いるこの修正内容で本当にいいのかと逡巡した。
だから。
間に合わなかった。ほんの数分だけ、貴重な時間を割いたから、間に合わなかった。救うべき者達がそこにいたという痕跡さえ、見つけることができなかった。
仲間の行方はおろか、敵の行方までも。


なんの成果も得られなかった榛名達が、金剛ら佐世保艦隊本隊と合流した頃には既に、戦況は小康状態となっていた。


艦隊に損害はなく、逆にヴァルファウと【Titan】数体を墜としていた。
少し前までは想像もできなかった驚異的な戦果だが、カラクリは至って単純。壊れたナスカ級を陸上砲台に改造し、元々船体中央部に装備されていたビーム砲とレールガンを使用しただけだ。
艦首120cm単装高エネルギー収束火線砲と艦橋下両舷66cm連装レールガンなら、一方的に攻撃できる。
最大攻撃目標であった輸送機は初撃で右翼を貫かれ、沖縄近海へ不時着。巨人達も続け様に狙撃されてはその戦闘力を発揮できず、撃墜。突然の大損害で出鼻を挫かれた敵艦隊は浮き足立った。
本来であれば完封勝利を見込めた迎撃作戦の序盤は、ほぼ完全に艦娘達の思惑通りに進行したのだ。これでナスカ級は敵の最大攻撃目標になるだろうから、
すかさず響と夕立とキラを突撃させ、アンチビーム爆雷と戦艦級の弾幕で護りを固め、瑞鳳ら空母級が制空権を獲ればそのまま勝てると考えていた作戦の、序盤は。
しかし現実の佐世保艦隊には要となる少女らがいない。防御と攻撃の両立ができない。守勢に回れば負ける。
0305ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-twBZ)
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2019/03/31(日) 23:06:15.17ID:mgTOe+I+0
ならば致し方ないと、【榛名組】不在という陣容でも致命的な問題が発生せぬよう修正した作戦は、ナスカ級および福江基地の損害を前提として組み込んでいた。
結果として、10時頃になると敵残存勢力は沖縄方面へ撤退し、迎撃戦は終わった。


残されたものは、完全に破壊されたナスカ級と、大半が更地になった基地、そして響達がMIAに認定された現実と重苦しい空気。真っ白な顔で蹲る暁達。


考え決断しなければならない事が、たくさんありすぎる。
木曾と金剛は一度基地内で唯一無事だった工廠に戻り、二人だけでこれからについて話し合うことにした。他の者達には頭を働かせられる余裕はなさそうで、せっかく復旧した有線通信もまたダメになってしまっていた。
今はこの二人しか、気丈に振舞ってその実当たり前のように憔悴している二人しか、決断できる者はいなかった。

『・・・・・・木曾。榛名の様子は?』
『完全にふさぎ込んじまってる。その内立ち直るだろうが・・・・・・時間が必要だな。榛名だけでなく、皆』
『Sorry。本当は木曾も、辛いでしょうに』
『お互い様だろう。それにオレ達までダメになったら誰が艦隊を支えるんだ。これまで艦隊の方針を決めてきて、こうも後手にしてしまったオレ達だからこそ、最後まで諸々の責任を果たさなきゃな』

ヴァルファウを放置すればまた復活するだろう。
沖縄周辺まで、ヴァルファウを追撃するか否か。
追撃するとして、傷ついた基地はどうするのか。
響達を探し出すべく、捜索隊も結成しなければ。
キラがいないのなら、強化計画はどうするのか。
そもそも、今の佐世保に敵を倒す力があるのか。
また、再び長崎に接近してきているらしい嵐のことも考えなければならない。嵐が来れば艦娘も深海棲艦も身動きできなくなる。どうすればいい。もう後がない。
状況は完全に、金剛達のキャパシティを超えていた。しかし提督の判断を待ってはいられない。
工廠が沈黙に呑まれる中、やがて木曾は凜として告げた。

『追撃しよう。福江基地には最低限の守備隊を残し、全戦力で徹底的にヤツを潰す。今攻勢に出なければ死を待つだけだ』

もう後がないなら、進めるところまで進め。生か死かという二択を背負い、進め。
この時期に珍しい二度目の嵐がくるのなら、まだ神様には見捨てられていないと木曾は言う。
艦娘も深海棲艦も等しく身動きできなくなるのだから、いっそ嵐に基地と鎮守府を守ってもらうのだ。
その間に佐世保全艦隊は南進、鹿児島の鹿屋基地にも再度協力を要請し、嵐が五島列島を抜けるまでに不時着したヴァルファウを破壊して帰投する。
ハードな強行軍になるが、これをクリアできなければそもそも佐世保鎮守府に未来はないし、今にも精神的に完全崩壊しそうな佐世保艦隊には進撃(仇討)という麻薬が必要でもあった。
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2019/03/31(日) 23:10:03.10ID:mgTOe+I+0
また、響達の捜索については、完全に人間達に任せることにした。生きていればきっと福江島周辺にいるはずで、彼女らを探すなら哨戒艦や鎮守府陸上部隊のほうが適任だ。艦娘は完全に戦力として運用する。

『夕立達が戦ったっていうMobile Suitsはどうするつもりデス? 真相不明のまま放置したらまた同じことがRepeatヨ』
『そうだな。オレ達は響達も、響達を襲った敵も、見つけられなかったからな。正直判断に困るってのが本音だが』

もっともな指摘に木曾は一度大きく頷くと、無人となった工廠を見渡した。
痛いほど静かな、ごちゃついた空間だ。奥には主不在のストライクが鎮座していて、喪った存在の大きさを改めて突きつけられているような気分になる。
今になって思えば、一瞬で過ぎ去った福江基地での生活は常にこの工廠が中心だった。
ここに少し前まで、キラと響と瑞鳳と明石は入り浸っていた。他の仕事の合間に、戦闘の合間に顔を出し、意見を交わしながらあれよこれよと楽しそうに作業していた。
己も含めて他の少女達も時折手伝いに来ていたが、ここはやはり彼女らの居場所になっていた。
しかし今、ここには誰もいない。
皆の修理に奔走している明石以外の、ここの主と化していた四人のうち三人は、夕立と共に何処かへ消えてしまった。客観的に、死んだと見るべきだろう。
いなくなったとわかって木曾は改めて、ここ最近はずっと戦闘も日常も、彼女らに頼りっぱなしだったことに気付く。

『・・・・・・しかし実際問題、響達が本当に死んでいて敵も健在だったのなら、艦娘が束になったところで勝ち目はないだろう。
モビルスーツの力はお前も把握してるだろ? 佐世保鎮守府どころか、全人類そのものの危機だ。その可能性は考えるだけ無駄だ。だからオレは――』

あの防衛戦以来、戦闘の度に「これしか手はない。やるしかない」と何度も何度もそう思い、己に言い聞かせ決断してきた。
他の者達は気付いていなかったようだが、あの小さな駆逐艦娘とその相方の技量をアテにした強攻策で以て苦難を退けてきたのだ。
参謀役が聞いて呆れる。酷いザマだ。戦闘の度に恩や借りを感じて、返そうと思って、しかし次の戦闘でまた頼って。
この基地で過ごした短い日々でだって、響とキラの仕事量は増える一方だった。積極的に手伝っていた瑞鳳だって相当根を詰めていた筈だ。でも彼女達なら大丈夫だろうと、その行動を容認してきた。
結果がこれだ。
試作兵装実験の為の演習だからって、自分達は他にやるべきことがあるからって、あの三人に単独行動させなければこんなことには。せめて目の届くところでと制限していれば。
恩や借りを返すべき相手を失った。頼りきりだったから失った。
だからこそか。

『――オレは響達が生きていて、敵も退けてるって都合の良すぎる可能性を信じる。今までアイツらに頼りきりだったからこそ、最後までそう信じる。信じてるから、オレ達は進むんだ』
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2019/03/31(日) 23:11:13.58ID:mgTOe+I+0
最後まで信じてやらなければ嘘だ。
結局ただの考え無しで無責任なだけかもしれないが、己が信じたアイツらが生きている前提で動く。そう言い切った。また会えたら今度こそアイツらの助けになるのだと誓って、金剛も静かに頷いた。
方針は定まった。
だから無茶でもなんでも、やってみせる。
響達の分まで自分が艦隊を支えてみせる。
今までのように受け身でいればこの果てない逆境と絶望の連鎖は断ち切れない。だから断ち切る為に、木曾達は自ら敵地へ攻め込む道を採択したのだ。

『今度こそ本当に、もう深海棲艦どもの好きにはさせない。オレがさせない』
『DEAD or ALIVE and GO デスカ・・・・・・OK、久々の殴り込みネ。これでFinishって気概で、ケド続いていくワタシ達の未来の為に』
『責を果たすぞ、金剛』

最後に木曾は、ストライクを一瞥して工廠を出た。
まだ修理の終わっていない人型機動兵器、その瞳が一瞬おぼろげに煌めいたような気がしたが、錯覚だと切り伏せた。



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2019/03/31(日) 23:15:44.71ID:mgTOe+I+0
そして佐世保艦隊は沖縄へと向かった。
同時刻、呉鎮守府。
シン・アスカはまだ、キラ達がどうなっているのか知らなかった。というのも、今現時点で佐世保の二階堂提督と呉の提督とで情報整理をしている真っ最中なのだから、
シンのみならず所属艦娘全員がその現状を知るまで、まだ幾ばくかの時間が必要だった。
ウェーク島救援作戦を成功させた支援部隊が昨夜ようやく凱旋したことも相俟って、まだまだ呉の雰囲気は平穏そのものだ。

「あれま、シンじゃん。一人でご飯とか珍しいね〜」
「・・・・・・なんだ北上か。なんか用かよ?」
「ぼっちメシでふて腐れてる英雄様の為に、このハイパー北上さまが昼食をご一緒させてしんぜよう」
「ふて腐れてねーよ。つーかその英雄様ってのヤメロ」

工廠の隅っこで一人、デスティニー修理部隊御用達の円卓にてわざわざ食堂から持ち込んだ肉うどんを啜っていると、どういうわけか北上と同席することになったシンがいた。
お気楽マイペースな球磨型重雷装巡洋艦三番艦の北上。佐世保所属の木曾の、姉妹艦の一人。
ナイーブでつんけんしてる彼にとっては少々苦手なタイプであるところの三つ編み少女が何故か、トレイに特盛ミックスフライ定食を載っけて工廠にやって来た。

「ねー、天津風とプリンツは?」
「艤装修理中だよ。あんたこそなんでここに・・・・・・大井と阿武隈は一緒じゃないのか?」
「大井っちも同じく修理中で阿武隈は出撃中ー。私の艤装修理はもうちょい先なわけだから、少し寂しいよね。とりあえず隣を失礼しますよ〜っと」
「ちょ、おまっ、結構強引なのな」

いつも大井か阿武隈と一緒にいるこの少女は、イヤな相手ではないのだが、話をしているとどうにも調子が狂ってしまう。
そう、例えるなら掴所のないクラゲ。のほほんとしたクラゲが同意も得ずに隣に座ってきて、どこか居心地悪そうに身動ぎするシン。
そんな青年とは対照的に、弛緩しきった北上は早速とばかりに揚げたてコロッケに箸を伸ばす。
かと思えば。

「ほいコレあげる」

食べかけのうどんへ、ポンっと無造作にIN。
哀れ、さくさく衣が売りのコロッケはみるみるうちにスープの海に沈んでヘニョヘニョになっていく。なんということだ。いとも容易く行われた取り返しのつかない行為に、思わず真顔になった。

「・・・・・・なんのつもりだ?」
「テレビで知ったんだけど関東のほうにゃコロッケ蕎麦なる文化があるみたいでさー。汁吸ってぐずぐずになったコロッケもまた美味しいらしいねぇ。・・・・・・うどんで代用できるかは知らないけど」
「そうなのか。いや、そうでなく」
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2019/03/31(日) 23:18:02.51ID:mgTOe+I+0
「お近づきの印と、お疲れさま&ありがとうの第一弾ってことで。おかげで無事に帰ってこれたわけだからね、私は」

なるほどそれが本題か。いきなりなんだコイツと思ったものだが。
よかった、無駄に犠牲になったコロッケはなかったんだ。

「ああ、そうか。あん時ウェーク島にいたんだっけか、あんたは」
「呉艦隊主力の、ミッドウェー包囲網の一員として丁度ね。いやーマジでもうダメかと思ったわ。そしたらあのロボット・・・・・・ディスティニーだっけかがカッ飛んできて? そりゃ英雄様と言いたくなるもんですよ」
「デスティニーな。俺はアイツらを運んだだけだぞ」
「まさか。【姫】級と【要塞】級を炭にしといて」

先日11月11日に決行したウェーク島救援作戦での顛末を思い出す。
この世界でのシンの初陣は、実に単純なミッションだった。馬車役となったデスティニーで天津風ら支援部隊を詰め込んだコンテナを運搬し、後退中の西太平洋戦線を支援するだけ。
その際に邪魔になりそうな深海棲艦を何体かビームライフルで焼き払ったりしたが、それがまた効果覿面で、艦娘達はあっという間に勢いを取り戻して戦況を拮抗させた。
すると横須賀からの援軍も間に合い、墜とされた偵察衛星の代わりに大量の水上偵察機を動員させて、辛うじてウェーク島は陥落の危機から脱する。
翌日になると事態を把握したアメリカとロシアが動き出し、他の戦線を後退させてでも援軍を出してくれたおかげで逆襲に転じ、肝心要のミッドウェー包囲網維持を実現したのだった。
それを見届けたシン達が小笠原諸島沖に待機していた輸送船と合流し、呉へと帰還したのが昨夜のこと。
懸案事項としては、デスティニーを目撃した他鎮守府の艦娘が上へと報告しないでくれるかだが、そこはもう口約束と義理人情を信じる他ないだろう。

「【姫】級と【要塞】級? ・・・・・・妙に目立つのがいたけどアイツらってやっぱ、かなりの強敵だったのか?」
「ラスボス並。おかげで【姫】のほうはこの元祖重雷装巡洋艦北上さまが魚雷全弾命中させて、大和と共同で撃沈した扱いになってましてねー。【要塞】はビックセブンズと一航戦の戦果になったんだっけか。
あれでライフルの威力とか、じゃあキャノンを使ったらどうなるんだって私としては興味津々なわけですよっと」
「・・・・・・正直言うけど、もし万全だったら単騎で制圧できてたんじゃねーか」
「次元が違うわー。対艦兵器モビルスーツの最新型たるデスティニーさんは超戦略級機動兵器(ワン・マン・フォース)でございますか。ウチの提督が隠したがるわけだねぇ」

それほどのパワーを秘めているからこそ、デスティニーの存在は未だ呉鎮守府関係者しか知り得ない最高機密となっている。
なにせ、兵器なのだ。異世界の地球人類が純然たる科学のみで建造した、個人用の機動兵器なのだ。それはつまり、ボタン一つで誰でもコントロールできることを意味する。
正確に言えば【GRMF-EX13F ライオット・デスティニー】はシン・アスカの生体認証がなければ戦えないのだが、雑に動かすだけなら遺伝子操作を施していないナチュラルでも可能だ。
そんな物騒なものを、まだこの世界に広く開示するわけにはいかない。
何故なら。
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2019/03/31(日) 23:21:09.59ID:mgTOe+I+0
「そりゃ隠さないとマズいことになるって俺でもわかるさ。戦力を艦娘に依存しきっているこの世界の軍にとって、モビルスーツなんて喉から手が出るほどだろうしな。
正直なとこ、ここに保護されてなかったらと思うとゾッとするよ」

この国の上層部にも勿論、艦娘を私的に利用しようとする者がいるからだ。
単純に私兵として己が権力を絶対のものにしようと目論む者、逆に支援の名目で媚びへつらい己のイメージアップを狙う者、或いは唯オンナとして欲望の捌け口にしようとする者など。そして誰もが口を揃えてこう嘯くのだ。
「君達の苦労は理解している。だがこれは未来の為に必要なことなのだ」と――
人間社会として実に当たり前のことで、揺るぎようのない現実。どんなに真面目で潔白な者が頑張ろうと、これだけは絶対に防ぎようのない現実。不逞の徒の暗躍は古今東西、実在する。


故に、シンとデスティニーは呉鎮守府で活動していても、公式には「いない者」として扱われている。


おかげで愛機から遠く離れないよう行動範囲を制限され、常に艦娘の護衛がつくようになったが、そうでもしないとシンの身が危ないからと呉の提督が計らってくれた経緯があった。
実際、シンに対する軍令部からのちょっかいは提督が防いでくれているのだ。もしもウェーク島で会った艦娘達との口約束を反故されて、デスティニーの存在が正式に他鎮守府提督ひいては軍令部の耳に入れば、
間違いなく面倒なことになるだろう。
単純であったシンの初陣にも実は、そのようなリスクがあったのだ。
余談だが、11月21日に予定していた佐世保行きの件にもこの問題が深く関わっている。訳ありVIPのシン・アスカが呉から離れるには愛機と一緒でなければならず、となると輸送船で海路を進まねばならず、
どの道護衛が必要になるからこそビスマルクら出向防衛組と入れ替わりでという面倒な条件が出されたのだ。尤も、状況がこうも混乱しては予定なんぞとっくに白紙に戻っているが。
更に余談だが、呉のデスティニーと違って、佐世保の【GAT-X105 ストライク】と【GAT-X102 デュエル】の存在は既に軍令部へ報告されている。
鎮守府の一戦力として運用しているからそもそも隠しようがなく、またキラ自身が艦娘と同じようなヒトデナシになっていることもあって、いっそ公式に艦娘と同一なる存在として登録しているらしい。
こうなると逆に、艦娘に戦ってもらうことを第一としている軍令部は手出しできなくなるから安全なのだとか。だからこの世界では、異世界からの漂流者はキラ唯一人だけということになっているのだ。

「人類から艦娘を護るのが提督の仕事って言ってたな、あの人は」
「いつの時代も、この混迷する今を切り抜けた先にある輝かしい未来ってヤツを独占したがる野郎はいるもんだからねー。度し難いですよホント・・・・・・ほいご馳走様でしたっと」

纏めるようにそう言ってから北上は定食を平らげたが、席を立つ様子はない。まだ聞きたいことがあると真っ黒な瞳が物語っており、シンもぐずぐずになったコロッケを咀嚼しながら、観念して付き合うことにした。
さて、と青年は思う。
これまであまり接点があったとは言いづらいノンビリのほほんとした風情の少女は、己に何を求めているのだろう。いや、改まって考えるまでもないのだ。
柄ではないが彼女の言動を元に、次に彼女が切り出すであろう話題を予測してみる。
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2019/03/31(日) 23:24:21.98ID:mgTOe+I+0
「でさぁシン、私的にはこれが一番訊きたかったんだけどさ――」
「先に言っとくけど、デスティニーはもうホントに動かないぞ。どうやったって完全修復は無理だ」
「――あら、見え見えだったのね。・・・・・・うひー。まぁ、しゃあないのはわかってますけどさぁ」

その質問が間違いなく来るだろうなと予測して、というかそれしか思い当たらなくて、
間髪入れずに現実を突きつけてやると北上はぐんにゃりと円卓に伏した。「もうちょっとぐらい夢見させてくれてもいーじゃなーい」と小さくぶーたれる。
気持ちはよく分かる。立場が反対ならシンだって同じ楽観的希望を持つことだろう。

「あのな北上。俺だってデスティニーが直らないと困るんだっての。つーか死活問題だ」
「あーなんだっけワルキューレだかなんだか、シンは元の世界に帰らなきゃいけないんだもんねぇ。・・・・・・そーいやもうすぐ佐世保からモビルスーツ届くじゃない。それ使ってニコイチとかは?」
「無理。インチとセンチみたいなもんで規格が全然違うからな・・・・・・そもそも研究と増産の為に送られてくるんだから勝手に使えねぇよ」
「世知辛ーい」

たとえ「いないもの」扱いでも、現実問題として、デスティニーが艦娘達と戦線に与えた影響は絶大極まりない。
たった一機の、その一端だけであろうとも戦局を一変させる力が実在するのだとしたら、誰だってそれに縋りたくなるものだ。
それが「もう壊れました無理です」と言われて素直に納得できるかと言われれば、難しいと答えるしかない。
けれど本当に直しようが無いのである。
デスティニーは単騎での戦場制圧を望まれるGRMF-EXナンバーの最新型で、故郷のC.E.ですら規格外の存在だった。使用しているパーツも技術も旧世代機のものとは一線を画し、当然互換性は一切無い。
現状、心臓部たるUC型デュートリオン核融合炉が完全にダウンしてしまった愛機が復活する可能性は、殆どゼロである。
この世界に来た時点でかなりガタついていたが、ウェーク島救援作戦での戦闘いよいよ力尽きてしまった。それに見合う戦果は挙げたし後悔もしてないが、これからのことを考えると気が重くなってしまうシンである。
仮にデスティニーを完全に稼働させるには、絶対条件として、他のGRMF-EXナンバーからパーツを拝借しなければ。そんなものは考えるまでもなく、そんじょそこらに転がっているものではない。

「・・・・・・ニコイチ、か」
「? どったのシン?」

GRMF-EXナンバーはそんじょそこらに転がっているものではない。
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2019/03/31(日) 23:26:15.78ID:mgTOe+I+0
しかし。
しかしシンには一つだけ、他の誰にも明かしていない心当たりが、一つだけあった。愛機が復活する可能性は殆どゼロであるが、殆どということはつまり、そういうこと。
この時空間転移の原因がヴァルキュリア‐システムだとして、その発動時の状況が、位置関係が記憶している通りなら。

(この世界にヴァルファウとナスカ級が来てるってんなら、間違いなくアレも何処かにある筈なんだよな)

佐世保からの報告にあった大気圏内用大型輸送機・ヴァルファウはきっと、ナカジマ隊のもの。宇宙用モビルスーツ搭載型高速駆逐艦・ナスカ級はきっと、ラドル隊のもの。
そう仮定して、時空間転移に巻き込まれた範囲を試算すれば。
必ずアレも、この世界に来ているのだ。


【GRMF-EX10A エクセリオン・フリーダム】。


キラ・ヤマト本来の機体。デスティニーと同時期にロールアウトした、名実共にC.E.最強のモビルスーツ。
この世界の何処かに、確実に存在する。所在はわからない。
小惑星基地が台湾周辺に落着したのにキラが長崎県沖で、シンが高知県沖で発見されたように転移先の座標は割とバラバラなのだから、フリーダムがどこに落ちたかなんて見当もつかないし、
もしかしたら壊れているかもしれないし、深海棲艦に鹵獲されている可能性もある。
とても探し出せるものではないし、もし敵として現れたら人類絶滅一直線だ。そんなフリーダムを運良く手に入れられたらデスティニーは修理できるかもしれない。
口外すれば無駄に恐怖心を煽るだけの、その程度の心当たりがシンにはあった。

(考えたって意味ないな。とりあえずデスティニーは思い切って、バッテリー駆動仕様に改造してみるしかないか。これから送られてくるザクのバッテリーぐらいなら私用に使っても大丈夫だろ、たぶん)

上手く事が進めば、スペックダウンした愛機で小一時間程度の戦闘なら可能になる。まずはそれを目指してまた整備を頑張るかと青年が決心したところで、なんとなく北上の言ったニコイチという単語が気になった。


ニコイチ。複数の個体から一つの個体を構成すること。


さっきはすげなく無理といったが、ザクのバッテリーをデスティニーへ移植ぐらいはできる。完全修復が不可能なのに変わりないが、過酷な現場ならツギハギで兵器を応急処置することはザラ。というか戦場の常だ。
だというのに。

「北上。そういやちょっと疑問なんだけど」
「んー?」
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2019/03/31(日) 23:29:48.21ID:mgTOe+I+0
シンは歴史に疎いし、更には第二次世界大戦以前の軍事なんぞまったくもってからっきしだが。
だが旧ザフトのアカデミーで、教官のコラム(趣味話)として、過去にイギリスの艦艇がニコイチで修復されたことがあると教わったことがあった。
イギリス海軍のトライバル級駆逐艦ズビアン。艦首を喪った九番艦ヌビアンと艦尾を喪った十二番艦ズールーを合体させて爆誕した世にも珍しいパーフェクトニコイチ艦艇だとか。また最近知ったことだが、
他にも艦艇時代の【天津風】も艦首を喪ったことがあって、一時期ツギハギの仮艦首で活動したのだという。【響】も大破の常連で、軽度のツギハギ修理なら艦艇でも珍しいことではなかったそうな。
だというのに、そういえば、艦娘がニコイチで、ツギハギで修理したという話はまったく聞いたことがなかった。
例えば目前でうだーっとだらけている北上は修理待ちで、現在修理中の大井は球磨型重雷装巡洋艦四番艦、つまり姉妹艦で艤装にも共通点が多い。
ミッドウェー包囲網が維持できてるとはいえこの切羽詰まった戦況、呉主力の二人を順番にノンビリ修理するより、ニコイチでどちらかを早急に戦線復帰させたほうが良さそうなものだが。

「艦娘の艤装ってニコイチとかしないのか?」
「無理」

今度はシンがすげなく即答される番だった。

「なんで。あんたと大井ならできそうじゃないか」
「その発言、大井っちが狂喜乱舞するから二度と言わないように。これ以上愛が重くなったら流石の北上さまも持て余しますよ」
「はぁ?」

珍しく真面目くさった貌をする北上だが、正直意味がわからないシンである。眉根を寄せる男に対して少女は「なにか勘違いしてるみたいだけど」と前置きをしてから、
出来の悪い教え子に言って聞かせるように姿勢を正して言う。
その内容は確かに、シンの常識から大きく外れたところにあった。

「私ら艦娘の本体は、艤装なわけですよ。元々艤装って単語は、容れ物たる船体に搭載される機関や武装一式のことを指すものだけど・・・・・・艦娘の場合は因果関係が逆でさ」
「?」
「艤装があって初めて、意志総体を宿す肉体が顕現するの。艤装こそが魂であり心臓。艤装ありきで、私らの船体、肉体が構成される関係なのですよ」

装着は自由だけど、艦娘としては装備している状態こそが自然体のソレ。
艦艇の砲塔や艦首等を模し、艦娘の躰と密接にリンクしている摩訶不思議な存在である艤装はただの兵器・機械ではなく、現人類が思い描く物理法則がまったく通用しない原理原則で動いている。
艦娘の意思一つで空間を超えて自動的に装着することや、砲弾が腹部や頭部に命中したとしてもダメージの殆どを艤装に引き受けさせることだって可能にする。
艦娘は多少の被弾じゃ怪我をしないし、仮に四肢を喪っても活動することができる。でも完全に破壊されてしまえば魂と躰のリンクが途切れて全身不随になってしまうし、最悪、肉体が消滅してしまう事例も確認されている。
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2019/03/31(日) 23:33:05.10ID:mgTOe+I+0
艦娘はヒトデナシ。
沈んだ艦艇と搭乗員の記憶をベースに魂を構成し、肉体を構成し、生まれながらにして戦う力を備えた超常の少女達。厳密には物理的な肉体を持たない、生まれてから死ぬまでずっと同じ姿形を保ち続ける霊的存在。
この世に生まれた直後は、戦い方を記憶として知ってるから戦い、時間が経てばお腹が減ることを記憶として知っているから食事を摂り、睡眠の必要性を記憶として知っているから眠るという、
それこそ本当に人間とはいえない哲学的ゾンビそのままだった少女達。
艤装に大規模な改装を施せば、比例して容姿までもが変わってしまう少女達。
それもこれも、艦娘の躰が艤装から生まれ落ちた存在であることの証左だった。そんなものを、ボタン一つで誰でもコントロールできる普通の兵器と同じように扱うことはできない。

「魂をニコイチしたら、どうなると思う? というか、できると思う?」

魂の統合は、意志総体と肉体にどのような影響を与えるだろう。
容姿と人格が混ざり合うのか、二重人格のようになるのか、片方が吸収されて消えるのか、拒絶反応が起きて二人諸共崩壊してしまうのか、それともまったく新しい魂が生まれるのか。

「・・・・・・実験したこと、あるのか?」
「ないよ。でも想像つくでしょ、誰でも。・・・・・・そんなの私らにとっちゃ恐怖でしかないって」

艦娘をニコイチする実験が行われなかった理由は三つある。
一つは、艦娘に依存して艦娘に戦ってもらうことを第一としている軍令部は、当の艦娘が拒否することを強行できないこと。
二つは、ただでさえ少ない貴重な艦娘の頭数を減らしたくないという現実的な判断から。
三つは、そもそもニコイチしなければならないほど重症を負った艦娘が、二人以上同時に帰還してきた試しがないことだ。艦種問わず轟沈した艦娘のサルベージは、未だ成功例が無い。
結果として艦娘ニコイチ修理論は、実験することなく不可能として結論づけられた。

「・・・・・・軽はずみな質問だったな。悪かった」
「ま、私個人としちゃ学術的興味はあるんだけどね〜。たぶん明石も夕張も、たぶん天津風も」
「おい」

あっけらかんと北上は言う。

「私も一応、艦艇時代は工作艦やってた時期もあってさ。流石に明石大先生とその弟子達ほどの腕じゃないし、今じゃ天津風のほうが実力あるけどねー。
でも普通の艦娘よりかは詳しいつもりだし、ニコイチしたらどうなるかってのは知りたいところだねぇ」
「さっきと言ってること違うじゃないか!」
「勿論実験するつもりはないよ? でも結果は気になるじゃない」

怖いもの見たさというか、技術者の血というヤツだろうか。脱力してズルリと椅子から落ちかかったシンである。
お気楽マイペースな北上はそんなリアクションを無視して、実にイイ顔で言葉を紡いでいく。
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2019/03/31(日) 23:36:28.36ID:mgTOe+I+0
「明石と天津風は、拒絶反応で崩壊説を推してたっけ。一方夕張は人格統合説で、私も二重人格説でイケなくはないんじゃない派」
「いや訊いてねぇよ。つーか明石と夕張って誰だよ」
「明石は艤装修理の第一人者でスペシャリスト。夕張はその弟子1号で2号が天津風ね。ちなみに最近3号候補が見つかったとか」
「どうでもいいっすー」
「拒絶反応もわかるけどね。でも艦娘同士の相性によっちゃ馴染んでくれると思うんだよねー、私は。例えばとんでもなく自己否定してる娘と、とんでもないお人好しの組み合わせだったらイケそうな気がしない?」

己の得意分野となると饒舌になってテンションうなぎ登りになるのが技術者というもので、
それをキラという男から苦い思い出で悟っている青年は「はやくザク届かないかなー。それか天津風かプリンツ来てくれないかなー」と聞き流す姿勢に移る。
少なくとも訊きたいことは聞けたのだ。これ以上実現しそうにない夢想に想いを馳せたところでどうなるというのか。とりあえず、さっさと冷め切ったうどんを平らげて食器を返そうと決める。
だが残念ながら、気に入られてしまったのか、その後5分近く北上の蘊蓄や妄言を聞き続けるハメになってしまった。
救いの手は、11月14日の、11時27分。
それは、その時になってようやく呉鎮守府全体に知れ渡った、キラ・ヒビキら四人のMIAと福江基地放棄の報だった。
0319通常の名無しさんの3倍 (アンパン Sda2-LjUm)
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2019/04/04(木) 09:46:22.51ID:aWdjh1m3d0404
深海棲艦にはニコイチネタがけっこうあるけどまさか?
0321ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:13:10.90ID:3fhSH5Hu0
――艦これSEED 響応の星海――


私は。
わたしは。
死にたくはないんだ。死は怖いんだ。でも、わたしなんか生まれてこなきゃよかったって、思うんだ。
だってそうだろう。
死ぬべきところで誰かに助けられ、その誰かが代わりに沈んで、その繰り返しで、結果残されたのが【不沈艦】などと持て囃されるわたし。【不死鳥】の二つ名を持ち、旧日本海軍に運用された艦として最後まで生きた、
かつての駆逐艦の響。
そんなわたしが、みんなの為にできたことはなんだ? 鋼鉄の艦艇であったわたしは確かに戦った。確かに何隻か敵を沈めて、生き抜いた。
戦わずして沈んだ艦も多くいることを考えれば、それは確かに誇りだ。けどそれが何になった?
戦って、何になった。
AL作戦の一環として参加したキスカ島攻略作戦でわたしは艦首を失い、暁に守ってもらいながらの帰投を余儀なくされた。
一時的に占領できたキスカ島とアッツ島は最終的に奪い返され、そもそもMI作戦の陽動だったのに、当のMI作戦は日本国の敗退で終わってしまった。
船体修理中に、暁と夕立がソロモン海戦に散った。
雷が対潜任務中に消息を絶ち、電がわたしと持ち場を交代した直後に、敵潜水艦にやられた。仇は討てなかった。
マリアナ沖海戦に補給部隊護衛として参加し、主力機動部隊が壊滅し、敗走して。
損傷した輸送船救助の任を受けたが、不意の魚雷でまた大破し、更に不運が重なって一旦修理に帰投したら救助予定だった船を沈められ。日本艦隊の総力を挙げたレイテ沖海戦敗退の報を、修理中に聞いた。
後に大和水上特攻と呼ばれる、艦隊最後の戦いであった坊ノ岬沖海戦に招集されたものの、移動中に触雷して脱落。その際に呉まで護衛してくれた朝霜が帰ってくることはなかった。
そして8月15日の早朝に、海軍最後の射撃をして、終戦。
以後、復員輸送艦として行動して、賠償艦としてロシアに渡って。結果わたしは生き残って、1970年代まで――誰よりも長く生きた。
否。なんてことのない所で損傷し、大事な作戦にばかり参加せず、無為に生き存えた。
さして大きな戦果を挙げたわけでもなく。
さして大きな役割を担ったわけでもなく。
雷や電みたく誰かを助けたわけでもなく。
最後まで生き残って結局、なにも成せず。
わたしが生き残って、なにが好転した? 乗組員達には申し訳ないが、死に損なっただけだ。
なにが不沈艦だ。
なにが不死鳥だ。
わたしは死神だ! 同じ過ちを繰り返して、親しい人ばかりを死に追いやる死神だ! ふざけるな、不死鳥なんて言葉で飾るな!!
そんなもの欲しくない。死は怖いけど、それ以上に、みんなと一緒にいたかった。独りでいることのほうがずっとずっと恐ろしい。いっそみんなと一緒に沈みたかった。戦って沈みたかった。それが成せぬのなら。
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2019/04/22(月) 19:15:40.07ID:3fhSH5Hu0
わたしなんか生まれてこなきゃよかったんだ!


でもわたしは生まれた。
大日本帝国海軍特型駆逐艦22番艦の【響】として、後に艦娘の暁型駆逐艦二番艦の響として、わたしが生まれた事実は覆らない。例に漏れずわたしの魂も生まれ変わった。
生まれ変わって、弱くなった。艦艇としての記憶に囚われ、戦場で脚が震えて動けなくなるぐらい、艦娘としてのわたしはいっそ笑えるぐらい弱かった。
だって死神だから。
わたしが動けば、また繰り返すかもしれない。誰かが巻き込まれて、自分の代わりに沈むかもしれない。みんなと一緒に戦えば、また自分だけが取り残されてしまうかもしれない。
守りたいものがあるのに、まだこの手にチャンスがあるのに、わたしこそが台無しにしてしまうかもしれない。そう考えたらもう戦えなかった。
こんな己が憎い。憎らしい。それでも浅ましく生を求めてしまう己が嫌い。大っ嫌い。


ごめんなさい。生き残ってしまって、生きていて、ごめんなさい。


それでも海に出なければならない。戦力に乏しい人類側なのだから、出撃を命じられたら従事するしかない。
弱いわたしは後方支援隊に組み込まれた。提督の采配には感謝している。一緒に戦いたいという潜在的な願いと、戦ってはならないという現実的な畏れを同時に叶えてくれて、それに、
人見知りなわたしの周囲を姉妹達と瑞鳳達で固めてくれたのだから。尤も、その気遣いに応えられたとは思えないけれど。
そんなわたしだったから、艦娘としての夕立に憧れたのは必然だったのかもしれない。
憧れた。
己と同じく駆逐艦の身でありながら、単騎でありながら敵艦隊と互角以上に渡り合う、自由奔放勝手気ままなその姿に憧れた。横須賀の夕立、金髪黒衣の【狂犬】。
その様は天啓に等しかった。あんな風に自由でいれば、しがらみを全て振りほどけるのではないか。みんなと同じ海で、みんなに頼らず敵を圧倒できれば、もう誰も巻き込まなくなるんじゃないか。
なにも為し得ないまま死に損なった者の責任として義務として、強くあれるのではないか。
そう願って、夕立を師匠と呼ぶことにした。
横須賀へ渡る際に、氷の仮面を被って、あえて自らを【不死鳥】と称することにした。
決め台詞のように「不死鳥は伊達じゃない」と唱えれば、自己嫌悪で心がすり減った。そう、心を殺すのだ。文字通り心を殺して、入れ替えるのだ。新天地で、最後まで戦い抜いた栄光の不沈艦・響を演じるために。
そうすると不思議と、呪いのような不死鳥も死神も出てこなくなった。何故かと考えて、心を殺したからだと結論付けた。
そして【私】は強くなった。あの時雨と雪風を、後続の高性能駆逐艦娘を差し置いて、最強と謳われる夕立に匹敵するぐらい強くなって、不沈艦の名に恥じない数々の戦果を挙げた。
嬉しかった。私が【私】であれば【わたし】が畏れた全てを超えられるのだ。
けど本質は変わらなかった。
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2019/04/22(月) 19:18:20.04ID:3fhSH5Hu0
クールで飄々とした態度を気取っていても、心の底にこびりついた畏れと怯えは消えず、いつまでも弱い【わたし】はちょっとしたパニックで顔を出して前後不覚になって、死神を呼び寄せてしまう。
だからか、自傷のような、浅はかな接近戦嗜好は私に一種の存在意義を与えてくれた。無意識の内に、接近戦に拘ることで何かが赦されると思っていた。誰かを守るなら一番確実な手段だからと、自分の事を勘定に入れず。


これでいい。私はこれでいい。


でも。
なんでだろう。
キラ・ヒビキという男に逢って、何故か、どこかの歯車がズレた。一緒といるとなんでか少し安心してしまうようになった。思えばあの時から【私】という仮面は砕けつつあったのかもしれない。
そしたらいつの間にかキラと、いつしか疎遠になっていた瑞鳳と行動を共にするようになっていた。
ナスカ争奪戦でなにかが芽生えようとしていると感じて、もっと前に進めると思って、瑞鳳ともちゃんと仲直りできて、もうこれからは絶対大丈夫だと根拠なく信じられた。
そして、それからの日々がとてもとても、酷く楽しかったから。
仮面が外れかかっていることに、気づけなかった。無自覚にわたしが表に出ていた。
不死鳥が、死神が来た。
瑞鳳が、夕立が、キラがいなくなった。
つまりそういうことだ。またわたしだけ一人で助かった。
本質は変わらない。
そうだ。
そうだったのだ。
何も変わっていない。全てが幻、勘違い、無駄だったのだ。前提からして間違っていたのだ。心がどうこうなんて、そう思い込みたかっただけなのだ。
響という存在そのものがこの世界の害悪だったのだ。いてはいけないものだったのだ。
そういう運命なら。みんなの事を真に想うなら、生まれてこなきゃよかったと思うなら。
消えるしかない。完全に消滅するしかない。今すぐに。死にたくないとかいう、甘ったれたわたしの意思なんてゴミ屑同然なのだから――


(――違う!!!!)


――・・・・・・?
・・・・・・、・・・・・・誰・・・・・・?

(そんなの絶対に間違ってるもん!! 響がそんなの、違うんだからぁ!!)

誰かの声。
内側から響く誰かの声が、懐かしくて涙が出そうになる声が、突然、わたしを否定してきた。
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2019/04/22(月) 19:20:10.83ID:3fhSH5Hu0
なんなんだ、一体? ・・・・・・否定してくれるのは嬉しいけど、嬉しいと思うわたし自身が世界の癌なんだ。放っておいてくれないか。

(嫌!!)

いやって・・・・・・
そりゃわたしだって嫌だよ。でも仕方ないじゃないか。死神はこの世界にいちゃいけないんだ。

(響が死神だなんて、誰が決めたの!?)

・・・・・・それは。

(あーもう、もしかしたらって思ってたら本当にこの子は・・・・・・、・・・・・・こうしてても埒があかないわね。変に頑固なのは知ってるから強行手段でいくわよ)

なにを、と思った時には、わたしの意識がふわりと浮かび上がるのを感じた。
本当に一体なんなんだ。ヒトがせっかく死ぬ為の準備をしていたのに、最後に覚悟を決めようとしていたのに、いきなり割り込んで台無しにして。なんなんだ、これ以上わたしに生きろと言うのか。
やめてくれ。もうたくさんなんだ。
ねぇそこの誰か、もしわたしのことを想うなら私の代わりに暁達に、祥鳳達にごめんと伝えてくれないか。それだけが心残りなんだ。そうしてくれれば満足だから。

(ううん、大丈夫よ響。貴女は大丈夫なの。・・・・・・だから瞳を開けて? 私達はそんな貴女が好きで、受け止めたいって思ってるんだから。たとえ死神だって、私達は貴女を、響を救う為にここにいるんだから)

――だから、生きて。
その言葉を最後に、誰かの声は聞こえなくなった。同時に、光がわたしを包んだ。
暖かい光。
あっけなく、わたしが頑張って固めようとしていた覚悟を粉砕した光。抵抗しようとしても、できない光。どこか懐かしい、躰をぎゅっと抱きしめてくれるような光。勝手だ、そんなの望んでないのに。
導かれるようにして、わたしは、二度と目覚めまいと思っていたセカイに目覚めた。
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2019/04/22(月) 19:21:30.76ID:3fhSH5Hu0
《第18話:シュレデンガーの翼たち》



「・・・・・・生き、てる・・・・・・」

まどろみから醒め、重く閉ざされていた瞳をこじ開けて、第一声。しわがれた声が、知らない空間に虚しく消えた。
視界が霞む。耳鳴りが酷い。身体が重くて熱っぽい。しかし残念ながら思考はクリアという、なんとも最低最悪のコンディション。
生きている証。
夢の中で己の絶対的な消滅を願って、お節介な誰かに邪魔されて、目覚めて。わたしは生きていると、響は絶望と共に認識した。

「なんで・・・・・・?」

戦士としての本能が、少女に状況の把握を迫る。なにがどうしてこうなったと、理路整然とした理屈を構築しなければならないと迫る。生きているから、生きろと言われたから、生きる為の努力をしなくてはならないと。
生きるということは死者の上に立っているということで、死者を想うのなら、よほどの覚悟が無い限りは生き続けなければならないのだ。その覚悟を壊されたわたしの運命は、まだ続いていく。
これもまた運命か。
仕方なく、響は今感じているモノの分析を始めた。
感覚。仰向けに寝ている。身体は満足に動かせず、首を動かそうとするだけで痛みが走る。
視覚。薄暗い部屋。見たことのない白い天井に、裸電球がぶら下がっている。なんとなくテレビで見た一般住宅のソレに似ている。
触覚。柔らかい布の感覚。よくわからないけど多分、布団の上。
聴覚。耳鳴り、心臓の音、呼吸の音。
味覚。鉄の味。
嗅覚。埃の匂い。
総合して、ここはどこかの民家なのではないかと推測する。
何故?
ウィンダムと戦って、瑞鳳がやられて、わけがわからなくなって海に飛び込んで、瑞鳳の後を追ったのまでは覚えている。
そうしなきゃならないという使命感と、これで自分も逝けるという仄暗い安堵感で、彼女の遺体を抱いた。わたしは死んじゃったはずだと内心首を捻る少女。
いくら不死鳥といっても、あそこから蘇るどころか陸で目覚めるなんて。それこそワープかなにかじゃなきゃ説明がつかない。艤装単体ならともかく、わたしにそんな機能はない。
それに。

(左腕が・・・・・・脚も。修理、されてるの?)
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2019/04/22(月) 19:23:20.20ID:3fhSH5Hu0
幻肢痛の類いでなければどうも、先の戦闘で欠損したはずの四肢がちゃんとあるように感じられる。艦娘といえど艤装を直さないと復活しないはずで、自然治癒はありえないのに。これもまた不可解だ。
今の己を取り巻く環境は謎でしかない。
ただ、それでも一つ明確に解ることがあった。結局また死に損なった。一人だけ生き残って、かつて鎮守府で目覚めたキラとまるで同じような恰好で、一人で目覚めたのだ。あの時の彼の気分がよくわかった。
こんなことなら、なんであの声はわたしの邪魔をしたのだと思う。こんな世界に生きていたって仕方がないのに、余計なことを。
そもそも、

「あの声、なんだったの・・・・・・」
(あ、起きた? おはよう響)
「・・・・・・、・・・・・・んん?」

幻聴。
鼓膜に何の刺激もないのに、何かが聞こえるように感じること。
おかしい、今確かになんか馴れ馴れしい感じでなんか聞こえた。具体的には、さっきの夢で聞こえたお節介さんの声が、己の内側から聞こえてきた。・・・・・・ここは地獄のような現実世界なのではないのか?
幻聴は疲れてる時に聞こえることもあるとかなんとか。
疲れてるのかな・・・・・・いや、うん、わたしは疲れている。あんな戦いで疲れないほど超人じゃない、身も心もへとへとだ。生き残ってしまったのなら仕方ない、よし寝よう。

(ちょ、ちょー!? 待って待って寝るの待って!? っていうかさっきまで悲壮感バリバリだったのに図太すぎない!!??)
「わたし、仲間を喪うの慣れてるもん・・・・・・、・・・・・・こういう切り替えの早さも不死鳥の秘訣。私には休息が必要だからдо свиданияだ幻聴さん」
(わー!? さっそく心を殺そうとしないの!! 目を開けてー!?)

なんて騒がしい幻聴だろう。さっきまで悲壮感バリバリだった? あの声と光で悲壮感をまるっと潰してくれた張本人がなにを言う。おかげで沈んでいた気持ちが何処かへ飛んでいってしまった。
だんだんムカっ腹が立ってきた響である。
そうだ。そもそもこの幻聴は一体なんなんだ。
遅まきに気付いたが、この、懐かしくて涙が出そうになる声で、わたしの大切な人の声で。趣味が悪い、吐き気がする。

「・・・・・・わかったよ。でも幻聴ならせめて、瑞鳳姉さんの声だけはやめてよ」
(だって私、瑞鳳だもん! 私は私の声しか出せないわよぅ!)
「・・・・・・は?」
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2019/04/22(月) 19:25:26.05ID:3fhSH5Hu0
こいつ、なんて言った?

(はいなんだコイツとか思わない! いい響、まずは何も考えないで右を見る! 首が痛くてもここが我慢のしどころファイトー!!)

あまりの衝撃発言に頭が真っ白になった少女はハイテンションな幻聴(?)に逆らえなくて、うっかり言われるまま顔を右に向けてしまう。首筋が痛んだが、気にならなかった。
そこには。


鼻先が触れる距離に、キラの穏やかな寝顔。


えっ・・・・・・と思考が硬直する、その直前。

(はい次、左!!)

新たな指示。
ギギギ、と出来の悪いブリキ人形のように180度反転。


吐息がかかる距離に、夕立のまぬけな寝顔。


いなくなったはずの、大切な人達が、響を両側から抱きしめて眠っている。
クラリと目眩がして、バキンという音がして、意識は一旦そこで途切れた。



0329ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:28:20.51ID:3fhSH5Hu0
「――ッハ!?」
「あ・・・・・・良かった、目が覚めたんだね。Доброе утро、響」
「起きたっぽい? ・・・・・・もう瑞鳳さん強引過ぎっ。すごくショックだろうからゆっくり説明しなきゃってキラさん言ったっぽい」
<うぅ、だってぇ。ああでもしなきゃまた響ネガティブになっちゃいそうだったし・・・・・・>

起きたら全てが夢でした、と言わんばかりの光景がそこにあった。
見慣れない民家の天井をバックに、心配そうに覗き込んでくるキラと夕立の姿。何処かからノイズ混じりのスピーカーで聞こえてくるような瑞鳳の声。少女がとうに諦めていたものが、
あまりに呆気なく軽々しく、そこにあった。
同時にその光景は、今までが夢でないことも物語っていたが。
夕立の上半身は包帯でグルグル巻き、右頬に大きな裂傷が痛々しく残っていて、あの【姫】との戦いが現実のものだったと主張している。
キラには外傷こそなさそうだが、紫晶色の瞳の下に色濃い隈があって、酷くやつれているように見えた。

「・・・・・・、・・・・・・っ」

でも間違いなく生きている。
海に消えたとばかり思っていた人達が、生きている。
理屈も理由もどうでもいい。嬉しくてじんわりと涙が溢れてきて、ぽろりと流れて、止めどなく枕を濡らして。やっと見えた二人の姿が滲んでしまって、哀しくなって、涙が止まらない。

「どう響。僕達のこと、見えてる? 覚えてる?」
「・・・・・・う、うん。見えてる、と思う・・・・・・、・・・・・・わたしっ・・・・・・みんな、死んじゃった、って・・・・・・」
「大丈夫だよ。君も、ちゃんと生きてるって。幽霊とかじゃないんだよ」
「天国に行くにはまだ早いっぽい。すぐ元気になってアイツにリベンジかましましょ」

見ていて安心感を覚える優しい微笑みと、戦友としての激励の言葉。弱々しく呟く響の右手をキラが、左手を夕立が握ってくれた。

<こーら急かさないの夕立。まずいろいろ教えてあげなきゃ>
「躊躇いなく患者を気絶させたヒトが言うこととは思えないっぽい」
<うぐぅ>
「まぁまぁ。実際のとこ響のバイタル落ち着いてるし、有効だったと思うよ僕は」

そして、スピーカーから聞こえてくるような声。間違いなく瑞鳳の声だ。彼女もここにいる。
・・・・・・いや、でも、さっきは幻聴のように、自身の内側から響いてこなかったか? 夢に介入してきたような気がするが?
どういうことだろう、彼女はどこにいるのだろうと響は視線を彷徨わせる。身体は依然として重くて熱くて痛くて、起き上がれそうになかった。
会いたい。
瑞鳳はどうして声しか聞かせてくれないのだろうと、悲しくなってまた涙がこみ上げてきた。
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2019/04/22(月) 19:30:32.91ID:3fhSH5Hu0
(ごめんね響。本当は私も抱きしめてあげたいのに・・・・・・ちゃんと全部、説明してあげるからね)
「・・・・・・瑞鳳、姉さん?」
<・・・・・・よし。じゃあキラさんお願いします>

内側から外側から、交互から響いてくる声に目を白黒させていよいよ混乱の極みに達する寸前に、少女の涙を拭う青年。

「キラ。瑞鳳姉さんは・・・・・・?」
「落ち着いて聞いて、大丈夫だから。・・・・・・えっとね、もう感づいてるかもだけど・・・・・・君の中にいるんだよ」
「?」
「響と瑞鳳。君達二人を助けるには、これしか・・・・・・艤装をニコイチしたんだ。二人で一つの命って感じで・・・・・・夕立ちゃん」
「実際に見てみるのが一番いいっぽい」

手鏡。
この民家にあったものだろうか、薄汚れひび割れたソレが突き出される。
憔悴しきった、見たことのない顔が鏡の中にいた。


髪型と顔つきは響のもの。けれども髪は亜麻色で、瞳は金糸雀色と、それは見慣れた瑞鳳のものだった。


二人を雑に足して割ったような塩梅の少女が、わたしを見つめていると響は思って、それが自分なのだと気付くまでに数秒の時間を要した。
――これがわたし?
キラは艤装をニコイチしたと言った。艦娘の魂であり心臓たる艤装を掛け合わせ、二人で一つの命にしたと。この容姿と瑞鳳の声こそが証明で、彼女は響の中にいるという。
艦娘ニコイチ修理論というものを聞いたことがある。戦争初期に論争があって結局実験することなく流れたと明石が言っていたが、まさかコレが、そうなのだろうか。
ともあれ今の響の中には、もう一つの魂が存在していることは確かのようで、すんなり納得できた。思いがけない同居人としばらく主観と肉体を共有していくことになる。なんだかこそばゆい心地だった。

(えと、突然だけど、ふつつか者ですがよろしくお願いします、響)
(ふつつか者なんて。こっちこそ狭い思いさせてごめんね)
(こう言っちゃアレだけど意外と快適なのよ? ・・・・・・、・・・・・・あー、それとね? 最初に一つ、謝らなきゃいけないことがあるんだけど・・・・・・)
(わたしの過去とか気持ちとかが筒抜けだってことなら、いいよ。むしろ知ってくれて嬉しいぐらい)
(そ、そう? ・・・・・・でも、そうね。さっきは夢に割り込んじゃったケド、なるべく干渉しないようにするね)
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2019/04/22(月) 19:31:51.55ID:3fhSH5Hu0
まるでテレパシーのような脳内会話も、ヒミツの内緒話のようで愉快だ。
するとキラが二階堂提督お古の携帯端末を、響の枕元に置きながら言う。

「君達を回収できた時にはもう融合しかかってて、そのまま応急処置で・・・・・・僕にはこうするのが限界だった。でもちゃんと修理すれば、明石さんなら分離できる、と思う。たぶん」
「ホント、こんなことになっちゃうなんて思わなかったっぽい。事実は小説・・・・・・なんだっけ?」
<事実は小説よりも奇なり、ね・・・・・・とにかく、私達はみんなで生き残れたのよ。改めてありがとうキラさんっ、私達を助けてくれて>

夕立がとぼけて、携帯端末から瑞鳳の声。なるほどと合点がいった。どうやら彼女の意志は、響にしか聞こえない内なる声と、外部出力用の携帯とで使い分けられるらしい。
スピーカーが若干音割れしているのはガラパゴスと揶揄されている旧式携帯端末のスペック不足が所以だろうか。
それにしても。これまでの話を総合すると、自分達を取り巻く状況は思っていた以上に少女の常識の遙か上をいくものであるようで。
どうしよう、と響は思った。


カタチはどうあれ皆で生き残ったという実感がだんだんと湧いてきて、どうすれば、この恩を返せるのだろうと思った。


不死鳥も死神もやってこなかった。一人で早合点して絶望してバカみたいだけど、それもこれもこの素晴らしい仲間達のおかげで、こんなに嬉しいことってない。
その上こんな自分なんかを肯定して、救ってくれようとしている人がいる。変な話だけれど、もう死んだっていいぐらい心が満たされる。勿体ないぐらいだ。

(あらら、すっかり泣きむし響に戻っちゃったわね)
(だって・・・・・・)
(うん、たくさん泣いて。私達はそんな貴女が好きで、受け止めたいって思ってるんだから、ね?)

もう絶対に手放したくない、喪いたくない。
その想いを世界に表明するかように、産声のように、響は声を上げて泣いた。



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2019/04/22(月) 19:35:06.51ID:3fhSH5Hu0
福江島南西部にあった、廃れに廃れた無人の町。都会を除き、世界中の海沿いの町がこのように荒れ果てているといい、元より田舎だったここら一帯も例外なくボロボロのゴーストタウンと化している。
その一角に佇む家屋に、キラは傷ついた響達を連れて逃げ込んだ。エネルギー枯渇寸前のデュエルでは基地に戻れず、
みんなで生き延びるにはこの高台の家――高波などの影響が少なく割と綺麗なまま残っていて、結構レアでラッキーっぽいと夕立が言った――に勝手に隠れるほか選択肢がなかった。
そしてあの戦いから、あの敗走から丸一日以上が経って、目覚めた響にここに至るまでの経緯を説明してから一時間が経った今、11月15日の14時03分。
改めて振り返ってみると本当によくここに辿り着けたものだと、踊る炎をぼうっと見つめながら思うキラである。

「・・・・・・」

かつてアラスカを目指して旅をしていた頃、オーブを発ってアスラン達と本気の殺し合いをした頃と似ているなと感じる。
全てが全て、予定調和のように良くない方向へ連鎖していくあの感じ。最善を尽くしても絶対に最善に届かない、あの嫌な感じ。破滅の予兆。
こうなることが運命に決められていた戦いだったというのは流石に過言だろうか。脳裏にある男の呪詛と、昨夜の夕立の言葉が蘇る。

『逃れられないもの、それが自分・・・・・・そして取り戻せないもの、それが過去だ!!』
『あたし達艦娘の過去というか、因子? 運命? そういうのって割と再現されちゃうのかもって提督さん言ってた。夕立はいつも意図的に顕わして戦ってるケド・・・・・・今回は四人分のそれが悪い方に絡まったっぽい?』

此度の敗走、敗北に繋がった因子。
かつて囮として散った瑞鳳と、混乱の中へ消えた夕立。悪運の末に生き残ってしまう響とキラ。それらの因子が運命という螺旋になって、この結果を呼び寄せたのかもしれない。
デュエルとグーン、夕立と【軽巡棲姫】の戦いは正に、連鎖して破滅していくシナリオの一部だったのかもしれない。
あの時。
一時は負けるかもしれないとすら思ったグーンからの攻撃を、咄嗟にOSを書き換え実現した、スラスターと人類の泳法を組み合わせたマニューバで掻い潜って九死に一生を得て。
それは夕立が【姫】相手に大博打を仕掛けたタイミングで、6本の魚雷の爆発は丁度海面近くまで浮上していたグーンの体勢をも崩したのだ。最初で最後のチャンスを見逃さなかったキラはすかさず懐に飛び込み、
レールガン・シヴァをコクピットに突きつけて接射、撃破に成功する。
しかし今度はグーンの爆発のせいで、王手をかけていた夕立の体勢が崩れて【姫】と相打ちになってしまった。
被弾して海中に引きずり込まれた夕立はそれでも【姫】を羽交い締めで道連れにしようとし、そこをキラが慌てて救出した。
そして間もなく瑞鳳がやられて、響が潜って。【姫】へのトドメを断念し、融合しながら沈みゆく二人を確保して、我武者羅に戦闘海域から離脱したのだ。
不幸中の幸いだったのは、三人の少女達の総質量がデュエルでも運べる程度のものであったことだ。質量制御でギリギリまで艦艇としての重量を抑え、かつ損傷していたからこそ、
辛くも奇跡的にこの廃墟まで逃げることができた。逃げて、一夜かけて響達の修理に没頭できた。
確かに言われてみれば運命という単語がピッタリ当て嵌まるような気がした。
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2019/04/22(月) 19:37:45.05ID:3fhSH5Hu0
ならば響と瑞鳳の今も、運命なのだろうか?


無我夢中でどうやったか覚えてないしもう一回やれと言われても無理としか返せないが、なんとか少女二人を無理矢理つなぎ止めた。
容姿はかなり混じってしまったものの、二人の意識総体が変質しなかったのは奇跡としか言い様がなく、明石に艤装修理の方法を教えてもらっていて、それを実践できるポテンシャルがあって本当によかったと心底思った。
なにせ自身の存在が変質していなければニコイチ修理なんて不可能だったし、よしんば形だけ修理できたとしても二人の意識は目覚めなかっただろうから。
果たしてこれは必死に掴み取ったものなのか、予定調和なのか。沈む運命に逆らい命を救ったのか、生き延びる運命のまま響の心を折らせてしまったのか、どちらなのだろう。
でも、どちらにせよ。
彼女達をこんな辛い目に遭わせてしまった現実だけがここにあるのに、現実逃避に他ならない己の思考にキラは自己嫌悪する。
どんな理由があったとしても、なにをどう言い訳しても、護れなかったのだ。

(誰かのせいにしたいってのか。本当、スペックだけは無駄にあるくせに人を護れない奴だな、僕は)

響の雰囲気というか性格に、変化が見られた。
瑞鳳曰くこれが元々の素だそうで、つまりは気持ちを制限していた仮面とやらが外れた状態なのだろう。それだけ心身共に受けたダメージが大きく、折れて、瓦解してしまったということだ。
瑞鳳を姉さんと呼んでいたのは昔の名残か、心の防衛反応か。
無防備に露出した彼女の有り様は、痛ましかった。いっそ泣いてる顔も綺麗だと見蕩れてしまうぐらい、悲惨そのものだった。
出逢った時から既に仮面をつけていて、それでも尚感じられた彼女の脆さと罪悪感が剥きだしになっている。瑞鳳が望んだ優しいカタチとはまったく逆の、酷く乱暴なカタチでだ。
なんでも自分のせいだって思ってるような彼女の心は、危ういを通り越し、今や自壊寸前の薄氷である。


それこそが、己が守りたいと、救いたいと、支えたいと思った少女の現実だ。


こんな酷い現実ってない。本来ならこんなことにならないようにするのが、自分の役目だったのに。
一言で言えば、最低の男なのだろう。グーンなんかに苦戦して護れず、未熟な腕で事後処理だけをして胸を撫下ろしているこの自分は。
己が想像するよりもずっと辛いだろうに、あえて明るく振舞ってくれている瑞鳳と夕立の強さに甘えている、この自分は。
つくづく痛感する。
フレイ・アルスターに正統に詰られた頃から全然変わっていないと。己という存在は誰かの心を救うのに向いていないと。こんな体たらくでよく人様を守るだの救うだの支えるだの言えたものだ。
何度同じような過ちを繰り返すつもりだ。
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2019/04/22(月) 19:40:26.51ID:3fhSH5Hu0
彼女を守ろうと思ったのは本心。救おうと思ったのは本心。支えようと思ったのも、紛れもなく本心。恩義として望みとしてそれを成そうと決めて、彼女達と共に在ることを決めた。その為の努力を惜しまなかった。
しかしこの世は結果こそが全て。
瑞鳳は助けてくれてありがとうと言ってくれた。でも自分には少女達に感謝される権利なんて一欠片もないのだ。
傷ついた少女達の支えになりたいと未だ薄っぺらい微笑みを貼りつけているだけの薄っぺらい男に、何も知らない彼女の感謝は重たすぎる。
不甲斐ない。
運命がどうこう因子がどうこうなんてのは所詮言葉遊びで、つまるところ、この現実にキラは打ちのめされていた。
打ちのめされ、理由をとってつけて廃墟の庭へと逃げて、ぼんやり焚火を眺めている自分の姿に、失望する。

(・・・・・・わかってるよそれぐらい・・・・・・今更自嘲したって自己満足にしかならないってのもわかってる。でも、それでも、まだ生きている僕はこれから何ができるのかを考えて、前へ進まなくちゃいけないんだ・・・・・・)

この持ち前の傲慢さだけが頼りだった。
良心の呵責を、理想論を、押し殺す。そんなものにいちいち囚われていたら生き残れないと、生きなくてはならないと問題を先送りにする。
兎にも角にも、ここからみんなと一緒に生還しなくては。
一刻も早く彼女達を治療して元に戻してあげたいし、なにより休息と安心を与えてあげたい。それを最低限として、もっと彼女達にしてあげたいことが沢山ある。
それに佐世保の仲間達にも心配をかけているはずなのだ。おそらく自分達四人はMIAと、死んだと見なされているだろうから、どうにか健在であることを伝えなければ。
あの気の良い仲間達は響達が死んでしまったと深く悲しんでいるに違いない。
基地に帰れれば、きっと大丈夫。
そういえばキラとしては他人に死んだと思われるのはこれで三度目、もしかしたら四度目になるが・・・・・・こんな変な経験ばかり豊富でなんになるのだろうと虚しくなった。
なんて徒然考えていると、いつの間にか雨音が随分と大きくなっていることに気付いた。轟々と降りしきる大粒の雫が、屋根代わりにしたデュエルのシールドを容赦なく打ち据えている。

「っと、ホントもう。なんでこんなタイミングで嵐かなぁ」

天を仰いで、泣きたいのはこっちだよと愚痴りたい。
追い打ちのように昨夜から降り出した雨は弱まることを知らず、これでもかとキラ達を孤立させる。身動きを封じて、しばらくここでの生活を強要してくる。
本当になんてタイミングの悪い。神様なんか信じていないけど、完全に見捨てられたかのよう。
つまり。


精神的にも肉体的にも物資的にも問題を抱えたままのサバイバルが、キラ達四人にして三人を待ち受けていた。
0336ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:43:13.67ID:3fhSH5Hu0
帰れない。
頼みの綱だったデュエルの稼働時間はあと5分ぐらいしか残されておらず、そしてその5分では基地に帰れない事実が、既に判明している。
昨日のうちに夕立が町名を調べてくれて、所持していた地図と照らし合わせた結果だ。ここから基地まではどうやっても届かないぐらいの距離があるので、デュエルはこの町に一時放置することにした。
しかし代用にできそうな車両等は見つからず、自力で基地へ帰ろうとすれば響と夕立を背負って歩くという非現実的な選択肢しかなく。嵐の最中にそれはあまりにもリスクが高く、下手すれば遭難してしまうかもしれない。
かといっておおっぴらに救難信号なんか出したら深海棲艦に見つかりそうで、嵐が去った直後に砲撃されかねない。
現実的に考えると基地に放置されているであろうストライク宛てにレーザー通信を送るしかなく、定期的に試みているとはいえ誰かに気付いてもらえるかは運だ。ついさっきもやってみたが応答はなかった。
お膳立てされたかのように、この廃墟に閉じこもるしか道がないのである。
幸い手元にデュエルに積んでいたサバイバルキットがあるので、約二日ぐらいなら食糧に困ることはないが、
逆に言えばたった二日分だけだ。いざとなったら周辺の廃墟に押入ってでも食物を探すつもりだが、言うまでも無く望み薄だろう。
問題と不安しかない。

「けど、だからって食べないわけには・・・・・・嵐がさっさといなくなるのを祈るしかない、のかな」

ここでピピピッというアラーム音。
視線を下げれば目前の小さな鍋から湯気がもうもう上がっていて、お粥なるレトルト食糧が食べ時であることを告げていた。もうそんな時間だったかとタイマーを止める。
人間は常にお腹が減るもので、どんな危機的状況であってもそれは変わらない。腹が減っては戦は出来ぬ。軍隊は胃袋で動く。世界は美味いご飯で廻っている。
個人も組織も状況も古今東西も問わず、気力体力共に充実してなければ良い仕事なぞ到底不可能。
とってつけた理由であったが、臨時主計課だけど動けなくなった響と瑞鳳に代わって唯一キラにしかできない、かつ絶対必要な役割を熟すべく煮えたぎったお湯からパウチを取り出す。

「ぅアッつ!? ・・・・・・そ、そうか。この時代のはまだ・・・・・・コストの問題なのかな」

C.E.のレトルトパウチは取っ手が断熱仕様だったのになんてどうでもいいことを愚痴りながら、おっかなびっくり中身をマグカップへ。
ついでビスケットタイプの固形食糧入りパック、ミネラルウォーター入りボトル三本と一緒にお盆に載せて、ちっとも美味しくなさそうな食事ができた。
はやくも瑞鳳達が作ってくれた美味しい食事が恋しくなったが、それらは破壊された艤装と共に海の藻屑である。
こんなんで気力体力が充実するわけないが、しかし、無いよりマシだ。14日の朝食以来の食べ物に、今更思い出したように腹の虫がぐぅと鳴いた。
そうだ。
ものは考えようで、展望はないけど、たった二日分で美味しくなさそうだけど食糧はある、命運が尽きたわけじゃない。自分達が置かれた状況は所詮一時的なもので、嵐さえ去ってしまえば、基地との連絡手段だってきっと色々見つかる。なんなら本当に歩いて帰ってもいい。
0337通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイW 12ad-PDN5)
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2019/04/22(月) 19:43:57.11ID:3fhSH5Hu0
回避
0338ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:44:41.84ID:3fhSH5Hu0
絶望には程遠い。それにシンもアスランもカガリも遭難経験があるんだからきっと大丈夫! と空元気で心の内にある濁りを隠すキラだった。
あの少女らが一緒にいるのに弱音なんてありえない、唯一怪我をしてない己が不安でいてどうする。
焚火を始末してから右手にお盆、左手にタオルを投入した鍋を掴み、響達のいる部屋へと戻ろうと立ち上がる。

(・・・・・・それに、希望的観測だってあるにはあるんだ。夕立ちゃんが言ったことを本気で考察するなら、この状況はまだ、どっちつかずなはずだから)

そうあって欲しい、そうだったら良いなと思えるだけの根拠ならあると、土足のまま廃墟に上がり込みながら考える。昨夜の夕立との会話は実に興味深かった。
何事も、ものは考えよう。サバイバルを強いられている今こそが、希望的観測の根拠になる。無理矢理にでも希望を見出すことが、可能なのだ。
話がまた随分と戻るが。
正直なところ自分でも意味不明と思ってしまう話だが。いっそ無意味な言葉遊びのようなものかもしれないが。

(我ながら突飛すぎる発想だけど・・・・・・もしも本当に運命ってやつがあるのなら、僕達の因子がこの状況を呼び寄せたのなら。
・・・・・・つまり新しい因子が、運命が生まれてるかもしれないこの状況なら、未来は誰にもわからないってこと、だよね)

その身の由来、過去、因子、運命といったものを再現してしまうかもしれない、艦娘の性質。
其の性質は、生還する為の希望へと転じることもあるのではないか。
無理矢理見出した希望は、瑞鳳の意志総体を取り込んだ響そのもの。
ニコイチ修理して、二人の魂を崩さぬよう、そういう存在としてこの世につなぎ止めた少女は。別の見方をすれば、窺知のものに当て嵌まらない新しい存在であると言える。
便宜上、航空駆逐艦・響鳳(きょうほう)とでも名付けようか。
瑞鳳を内に宿した響という一人の少女であり、響鳳という一人の少女であり。
シュレデンガーの猫のように、数多の可能性が同時に重なりあった非確定的量子存在。量子力学的に、そういう風に観測して確定させることが、できる。なにせそう仕上げたのはキラ本人だから。


例えば。響鳳という未知の因子が生まれたから、自分達が無事にこの廃墟に辿り着けたと考えることはできないだろうか?


海中で既に融合しかかっていた彼女(因子)だから、これからの運命(因果)すら超えて生還できると考えることは?
発想を180度逆転させた、結果ありきで身勝手で他人任せの馬鹿らしい、響達の心を一切合切無視する残酷な、しかしこの上なくバカらしいポジティブな仮定である。
そう、このクオリアを以て可能性を収束させれば、彼女こそがこの八方塞がりを打開する光になるかもしれないのなら、そんな突飛な仮定だって信じられる。
いっそ開き直って、傲慢の極地たる人間原理のように信じたいものを信じればいいのだ。
0339ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:47:13.51ID:3fhSH5Hu0
この以上なく不誠実なダブルスタンダード。でも他に展望がないのだから。

「・・・・・・なんてね。こんな妄想、僕のキャラじゃないでしょ」

肩を竦めて苦笑を一つ。
こういう気分の人が怪しい宗教とかにコロッと騙されちゃうのかもしれない。
いつだったか「未来を創るのは運命じゃない」と語った口で、ありもしない運命に綴って。とんでもない仮定をでっちあげてちょっとポジティブな可能性を幻視して。思ってたより参ってるんだなと自己分析。
一蹴。ちょっと小難しいコト考えて現実逃避したかっただけだ。
しかし益体ない妄想も気分転換にはなったようで、なんだかスッキリした気分なものだから反省会は終いにしようと踏ん切りがついた。
どん底まで落ちたのなら、あとはひたすら這い上がるのみ。どうしようのない日々ならせめて、いつか笑い話に変えられるように。
よし! と小さく呟いて気合い充填、改めて全力で少女達の助けになることを心に誓う。さっき確認した通り、自分達が置かれた状況は所詮一時的なものなのだから、なんとでもなれるのだ。
さしあたっては、まず響と夕立に食事を。瑞鳳には・・・・・・どうしよう? 自慢の爆笑ネタでも披露しようか。
キラはいつもの笑みを浮かべて、ようやっと少女らの待つ寝室へと戻る。

「お待たせ、とりあえずだけどご飯できたよ。食べれそう?」
<え、っあ!? キラさん今入っちゃダメぇ!?>
「へ?」

そうして出迎えてくれたものは、素っ頓狂な瑞鳳の悲鳴と、素っ裸な夕立の姿だった。
0340ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:52:21.78ID:3fhSH5Hu0
以上です。
キラ達を徹底的に隔離するまでこんなに掛かってしまったのはかなりの誤算でした。

>>319
そのまさかでした。いっそ深海堕ちさせようかとも悩みましたが、こんな感じになりました。
0341通常の名無しさんの3倍 (アウアウクー MM39-/PfY)
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2019/04/23(火) 03:50:01.67ID:v6YzFfcaM
てす
0343通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイW 12ad-PDN5)
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2019/04/24(水) 00:03:33.42ID:SdR8R+lh0
ガンダム界で死神といえばそのバーバリー中尉と08小隊サンダース軍曹とデュオがパッと出てきますね
他にも沢山いそうですけど、まぁ史実創作問わずしぶとく生き残る人が死神呼ばわりされるのはよくあることですね

そういえば史実に【幸運艦】【奇跡の駆逐艦】【超機敏艦】と呼ばれた陽炎型駆逐艦八番艦の雪風という、
主要の激戦のほとんどに参加して戦果を挙げつつも最後までほぼ無傷で生き残ったリアル異能生存体な艦がいるのですけど、この雪風すらも味方から疫病神呼ばわりされてたことも(成否は別として)ありました
0344ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:11:27.46ID:7hYZcA4L0
半年ぶりに。誰もいないのだとしても投下です


――艦これSEED 響応の星海――


『Bitte entschuldigen mich――っじゃなくて、ごめんくださいっ! マスターさんはいらっしゃいますか!?』
『あ、プリンツちゃんいらっしゃい・・・・・・、どうしたの? さっき出前に行っちゃったとこだけど』
『そんな・・・・・・、・・・・・・あのっ! その、突然ごめんなさい、実は私達マスターさんにお願いしたいことがあって・・・・・・すっごく身勝手なのはわかってます。今度お店の手伝いでもなんでもやりますっ。だから・・・・・・!』
『うん、わかった。とっても大変な、大事なこと、なんだね? 今呼んでみるからちょっと待っててね』
『・・・・・・Besten Dank』



0345ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:13:42.98ID:7hYZcA4L0
なんということでしょう。

「お待たせ、とりあえずだけどご飯できたよ。食べれそう?」
<え、っあ!? キラさん今入っちゃダメぇ!?>
「へ?」

いつもの笑みを浮かべて、ようやっと少女らの待つ寝室へと戻ったキラを出迎えてくれたものは、素っ頓狂な瑞鳳の悲鳴と、素っ裸な夕立だった。
薄暗い部屋の中、傷だらけだけれども尚美しい白い肢体、戸惑いに揺れる紅い瞳が浮かび上がっている。
夕立は全駆逐艦娘の中でも上位に食い込むほどの、スタイルの良い少女だ。推定14歳相当と熟成には程遠いものの、神懸かったバランスでスレンダーとグラマラスを両立しているような、
もう少し背が高ければモデルとして紙面を飾れそうな、つまるところ男受けの良さそうな躰の持ち主なのである。
そんな少女が、局部を一切隠すことなく無防備に、そこにいた。
元々包帯をぐるぐる巻いただけでほぼ裸みたいな恰好だった彼女だが、何故にこんな。
Why? 意味がわからないデース。

「・・・・・・え、ちょ、なん・・・・・・?」

間の抜けた声で大気を震わせ、ついで「ごめん」と言いかけ、しかして男の悲しい性か思わず剥きだしの大きな乳房に目を奪われて。右手にお盆、左手に鍋を持っている男はそこでフリーズ、それ以上のリアクションを起こせず。
彼だって歴とした、同性愛者でなければ童貞でもない20代前半の男なのだ。
不能となり性的欲求が失せて久しいものの元来女体への興味は人並ぐらいにある。またこの世界に来てからは努めて異性というものを意識しないよう、意識させないよう生きていた男が、
油断していたところに突如襲撃してきた艶姿を注目してしまうのも致し方ないことだと思いたい。思わせてほしい。自称非ロリコンだとしてもだ。
そんなキラと目と目がバッチリ合ってしまった夕立も、戦場での機敏俊敏な雄姿から程遠く、時が止まったかのようにピッタリ停止して。
そんな二人を呆然と交互に見やる響と、絶句する瑞鳳。
凍った空気。
あまりに古典的、いやもはや神話的ですらあるハプニングシチュエーション。アツアツなはずのレトルト食糧と鍋から冷気が立ちのぼっているような気さえして、青年はゴクリと喉を鳴らす。
感じたものはほんの少しの昂ぶりと、身を引き裂かんばかりの悪寒。
走馬燈のようにある事件が脳裏を過ぎる。
実は以前、福江基地で生活した頃、鈴谷がキラと衝突してちょっとオトナな下着を晒してしまった事案があったのだ。
あの時でさえ、天に誓ってキラは何も視ていなかったにも関わらず大きな騒動になりかけたというのに、今回は完全無欠な直視、満場一致でアウト以外の判定は有り得ない。
これは非常に、マズいのでは?
0346通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:16:05.14ID:7hYZcA4L0
新地球統合政府直属宇宙軍第一機動部隊隊長、C.E.の英雄【蒼天の翼】キラ・ヒビキ、覗きの容疑で逮捕。


世が世ならそういった見出しのニュースが速報として、面白おかしくあるいは悪意をたっぷり上乗せして全人類に周知されることだろう。
不条理。
理不尽。
いつの世どの世においても、男が女の裸を見ることを起因とする騒動では、男の立場は著しく低くなるものだ。またそれがたとえ誤解、冤罪だとしても一度貼られた悪いイメージを払拭するには大変な苦労を要するもので。
ましてや相手が艦娘ともなれば。
艦娘達はその特殊な出自故に、羞恥心の程は人それぞれなれど、裸を見る見られることの意味をちゃんと教育されている。
そしてキラは異世界からの客人であり強力貴重な戦力であり、かつ艦娘達の信頼を勝ち取って素行にも問題がないと判断されたからこそ、提督同様の制限付きで共同生活を「許されている」立場なのだ。
即座に直接的な沙汰になることはないが、事と次第によっては居場所を失ってしまう可能性も充分ある。
四面楚歌。
裸の夕立とのエンゲージによって始まったこの状況、もしもけんもほろろで取り付く島なく問題視され悪い方向へ転がれば、最悪のエンディングを迎えることも覚悟せねばならなくなるだろう。
そんな危惧が一瞬で駆け巡り、あまりの急展開に頭がパニックになりそうだった。
おかしい、こういうラッキースケベ展開はシン・アスカの専売特許だったはずなのに――

(――・・・・・・、・・・・・・いや裸の子を前にして思い浮かべるのがシンとか嫌すぎるでしょ!?)

しかしどんな幸運か因果か、えらく風評被害な偏見のおかげですっごいテンション下がって若干の冷静さを取り戻せたキラである。
キラ・ヤマトの宿敵兼相棒なだけあって、アンタにラッキースケベなんかさせねーぜとばかりに脳裏に出没してきやがった。
まぁシンは夕立とそっくりな紅い瞳だしわりと子どもっぽいし、おまけに実は戦闘スタイルも結構似通っているものだから、咄嗟に連想するものとして妥当なのだが。
そう、シンの存在そのものが希望だ。現に彼はこれまで数多のラッキースケベに遭遇しながらも生き残っているし、聞けば天津風とのファーストコンタクトもお互い全裸だったらしいじゃないか。
あの男にできて自分にできないはずがない!
よし落ち着くんだ。考えろ、まずどうすればいい。
そうだ! 冷静に、理由を訊こう!


Q.夕立さん。見たところ裸のようなのですが、何故なのでせう。
A.ごはんの匂いがして立ち上がったらなんか解けちゃった。


時が動き出し、暴かれるは不幸な真相。
そっか。不慮の事故だネ、うん、不慮の事故。
0347通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:18:25.98ID:7hYZcA4L0
よくよく見てみれば足下に包帯が落ちている。結びが甘かったのか立ち上がった途端にとのことで、そのタイミングに帰ってきてしまったのだ。あぁ、これは全面的に僕に非があるね?

「ごめんね」

頭を下げて心から謝れば、耳まで真っ赤にして立ちすくんでいた夕立が小さくコクリと頷いて、なんとか事なきを得たと確信する。
よかった、これで解決ですね。
取り付く島はありそうで、これからの交渉次第で和解可能だと内心胸を撫下ろし――

<って、いやいやいや。キラさん!? なんでずっとガン見してるのよぉ!? そこしっかり目を逸らさなきゃダメなとこ!! 夕立もいい加減隠しなさいッ!?>

この瞬間、遂に、これまで沈黙を貫いていた瑞鳳が噴火した。古ぼけた折畳み式携帯端末が飛び跳ねんばかりの怒濤のツッコミ。
なんということでしょう。男キラ、まさかの裸をガン見しっぱなしである。
全然そんな気はなかった。っていうか無自覚だった。なるべく真摯的かつ紳士的たらんと心掛けたつもりが、目を逸らすことさえ忘れていたとか不覚・・・・・・ッ!! いやこれ弁明の余地ないわマジで。
あれ、これホントにヤバくない?
嗚呼。
遠い記憶、いつだったかマリュー・ラミアス艦長に銃殺刑を告げられたことがあったが、それと同じかそれ以上のプレッシャーを彼女からありありと感じられる。結果的に不問にしてくれたとはいえ、
あの時は本気で死を覚悟したものだ。

<ッ!! ・・・・・・キラさんの、すけべぇー!!!!>
「うぐ!!」

そして瑞鳳がいつもよりずっとずっと甲高い声で叫んだ、その正統な糾弾に人生初のジャパニーズ・ドゲザでもって誠心誠意お詫び申し上げるキラ。
敗走後のサバイバル中とはまったく思えない、実に平和的なやりとりだった。



《第19話:おはなしをするおはなし》



『へぇ・・・・・・北上、これが?』
『そうだよ〜夕張、シンの世界で使われてたってゆーモビルスーツと装備一式。霊子金属化したこの子達の研究と修理と複製が、天津風から託された私らの仕事だねぇ。これ、明石センセの報告書』
『キラ・ヒビキによる通常兵器からのコンバート、霊子金属化かぁ。私達が血眼になっても届かなかったモンがこうもポンっと実現されるなんてね。・・・・・・、・・・・・・ねぇ北上、一つ疑問なんだけど』
0348通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:21:34.63ID:7hYZcA4L0
『んー?』
『元はフツーの人間なんでしょ、キラって人? コンバートとか同化とか、ましてや戦闘とか、どうしてそんなことできるのかしら』
『ああ、それねー。みんなスルーしちゃってるけど、なんでだろね?』
『そういうものだからって思考停止してるからよ。元々わかりっこないものを考える必要ないから、当たり前なんだけどさ。それに佐世保には考えてる余裕なんて無いだろうし』
『だね。球磨ねぇ達もよく持ちこたえてくれるけど・・・・・・ま、あのキラって人が本当に謎だらけなのは間違いないね〜。一回挨拶したことあるけど、正直不気味だったし』
『ふぅん?』
『完全な異物の筈なのに、あまりに自然体で馴染み過ぎててさ、本当に異世界からやってきた普通の人間なのかと疑ったわけよ。それにこの世界で偽名使い続けてる意味もわかんないしさー』
『アンタにそこまで言わせるとなると相当ね』
『佐世保のキラ・ヒビキって、本当にC.E.のキラ・ヤマト本人なの? なんて、思わず問い質したくなるぐらいには変な人だったわー。・・・・・・それに』
『それに?』
『コンバートとか同化とかってさぁ、まるで――みたいだよねぇ?』







「・・・・・・なんか複雑な気持ちっていうか、割とショックっぽい・・・・・・」
<げ、元気出して夕立。そう、犬に噛まれたようなものだと思えば良いのよっ>
「瑞鳳姉さん、流石に失礼じゃ・・・・・・それによくよく考えればわたし達ってもう見られちゃってるんだよ、裸。治療したり包帯巻いたりしたのってキラなんだし・・・・・・」
<いやいやいや、そういう問題じゃないでしょ響? 現に夕立は裸見られて傷ついて――>
「すッッッッごい恥ずかしかったのに、キラさん割とノーリアクションってなんか悔しい!!」
<――え、そっちなの?>

濡れタオルで全身を拭い、しっかり包帯を巻き直して、毛布にくるまって。キラが用意したレトルト食糧をモリモリ食べながらの夕立の発言が、この廃墟にまた新たなるカオスを生みだそうとしていた。

「夕立、これでも躰にはケッコー自信あったの。白露型で一番ないすばでぃかもって由良が褒めてくれたし、密かな自慢だったっぽい。でも・・・・・・でも!
由良以外の誰にも見せる気なかったけどっ!! もっとこう、見たからには派手なリアクションとってくれないとって思うっぽいッ!!!!」
「えぇ・・・・・・」

フクザツな乙女心、というやつだろうか。
0350通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:24:24.76ID:7hYZcA4L0
なにやら由良なる人物とただならぬ、懇ろな関係を匂わせる訴えに、黙々と動けない響の口におかゆを運ぶだけの作業を続けていたキラはなんとも微妙な顔になった。これは、それこそどんな反応をすれば良いのだろう? 
どうリアクションしても地雷にしかならない気がする。
っていうか由良って誰だっけと内心首を傾げるキラ。ゆら、その名前は確かに聞き覚えがあるのだが、どうしても双子のきょうだいであるカガリ・ユラ・アスハを連想してしまう。
すると、

「座礁したわたし達を救助してくれた人だよ。防衛戦の最後で、ポニーテールの」
「あ、あぁ・・・・・・あの人。ありがとう響」

助け船は響より。察してくれたのかボソリと小さな声で教えてくれた少女にお礼を伝えると、そんなこともあったなぁと懐かしい気分になった。呉所属の軽巡艦娘だったか。
後に聞いた話だが、半年前までは佐世保の第一艦隊所属で、夕立ととても仲良しだったらしく何かと一緒に行動していたとか。・・・・・・いや、仲良しってレベルじゃないと思うよそれ絶対。
艦娘も恋をする。
話には聞いていた。唯一の対深海棲艦戦力であり国の所有物である彼女らも人間と同じように恋愛するし、軍令部による厳しい審査付きとはいえ交際の自由は保証されていて、
なんなら艦娘同士でカップルになることもそう珍しくないと。たとえば鈴谷は熊野とお付き合いをされているそうで、例の件で鈴谷が激怒したのはやはり熊野への愛が所以なのかもと榛名が言っていた。
だからこそなのだろう。

「師匠的にはガン見ってノーカウントなの?」
「驚いてフリーズしてただけだもん。真顔だったし。ぜったいに別のこと考えてて上の空だっただけだもん!!」
<あの状況でなんでそんな冷静に観察できてるのよぅ・・・・・・。てか派手なリアクションされたらされたでもっと恥ずかしくなったと思うわよ?>
「それはそれ、これはこれっぽい!」

恥ずかしさは別として、その由良に認められた躰をただの裸としてしか認識されなかったというのは、彼女的には我慢ならないことのようだった。羞恥と怒りに加え、己に魅力がないのかもという不安が綯い交ぜになった貌で夕立がプイとそっぽを向く。
藪から棒にまったく意外な一面に面食らうが、つまりこの普段ぽいぽい言ってる天真爛漫でうっかり屋な娘かと思えば、戦場では無敵と謳われ無類の格闘センスを発揮する夕立は、実は恋する乙女でもあったらしい。
本当に、どうリアクションしても地雷にしかならない気がする。が、ここでスルーすると更に厄介なことになる予感に襲われて、一応のフォローをいれるべくキラは覚悟を固めた。

「えっと、大丈夫(?)だよ夕立ちゃん。その・・・・・・すっごく魅力的だと思う。ホントにビックリするぐらい・・・・・・ってか本当にビックリしちゃったから僕は・・・・・・」
<・・・・・・>
「ほんと?」
「う、うん。本当に。誓って。きっとモデルとしても働けると思うよ、うん。いや由良さんって人は見る目あるなぁ」
0351通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:25:57.39ID:7hYZcA4L0
沈黙と目線が痛かったが思ったことを正直に、どもりながらも早口に告白。普段だったら絶対に口にしない歯の浮くような台詞っていうか恋人持ち相手には不適切すぎる口説き文句に顔から火が出る思いになったが、
背に腹は代えられない。
そもそも全面的に悪いのはキラなのだし。えぇいなんて罰ゲームだ。
だがその甲斐あってか、

「よかったぁ」

ふわりと花開くような笑顔を見せてくれたものだから、現金にも言って良かったなどと思ってしまうのであった。
ご立腹な少女の機嫌を良くできたから、予想していた地雷によるダメージが最小限だったから、ではなく。

「・・・・・・大好きなんだね、そのヒトのこと」
「うん。大好き」

紛うことなく、愛だったから。

<あーはいはい、ごちそうさま。ってか単純すぎない?>
「愛の為せる所業っぽい! んふふ、やっぱり夕立がナンバーワン!」
「白露が聞いたら悔しがるんじゃないかな、それって」

コロコロ表情を変える少女がなんだか本当に魅力的に思えてきて、それ以上に羨ましく思えてキラは参ったな頬を掻いた。
こんな風に無邪気で一途な気持ちを目の当たりにしたのは、生涯で初めてで。好きだ好かれた惚れた腫れたの恋バナは端から聞いていて気恥ずかしくすらあったけど、存外心地よいもので。

「・・・・・・いいな」
「? キラ?」

振り返ってみれば、キラという男は、先天的な遺伝子改造を施された人工子宮生まれの自分は、それでも他の誰とも変わらないただの人間だと信じている自分は、ついぞ誰かを本気で好きになったことがなかった。
確かに、かつて憧れを抱いたフレイと肉体を重ねたことはある。己の心を解してくれたカガリに親愛の情を感じたこともある。でもあれは愛でなく、己の弱さに起因する依存に他ならなかった。
彼女達には自分なりの愛情をもって接したのは確かだが、その彼女達を護る自分という構図によって己の精神を安定させていた側面も確かにあったのだから。
唯一自分と対等であるシンを除き、他の誰にもそれらと同等並の感情を持てたことすらなく・・・・・・、・・・・・・? なんだろう、何か大事なものを忘れている気がする。まったくこれだから記憶喪失は。
ともあれ。
己という人間はまともに人を愛したことがないばかりか、好きになったことがないのだ。ただの人間と自認しているというのに聞いて呆れる。
だから素直に愛を表現できる夕立がとても眩しかった。その点で言えば瑞鳳にも同種のものを感じていたが、こう改まって熱烈にストレートに伝わってくるとむしろ尊敬の念さえ沸いてきて。
0352通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:27:40.27ID:7hYZcA4L0
「どうしたの、キラ?」
「突然シリアスな顔して、どうかしたっぽい?」
「え、あ・・・・・・や、できれば聞かせてほしいなって思って。夕立達のこと」
<興味あるの? 意外・・・・・・>

だからか、ついついこんな提案をしてしまった。

「まぁね。夕立みたいに誰かに恋したことなんてなかったからさ、いいなって思って」

それは本音混じりだったが夕立へのフォローの、最後の一押しのつもりの希求だった。元々が彼女の裸を見てしまってから始まったこの状況で、これで全てを水に流してくれるだろうと期待しての言葉だった。
後悔した。

「キラさん、恋したことないっぽい!?」
<嘘!? だってすっごくモテそうなのに>
「姉さん、モテるのと好きになるのって違うんじゃ・・・・・・? ・・・・・・え、キラってモテそうなの?」
<そりゃそうでしょ。間違いなく優良物件だし、私だって・・・・・・げふんげふん! とにかく! キラさんみたいな人なら恋人の一人や二人いるほうが当たり前だと思うわよ>
「勿体ないっぽい! 好きな人がいるってとっても素敵なことで、すっごく力と元気が沸いてくるっぽい。それに命短し恋せよ乙女――命短しって由良も言ってたし!」
「強調する所そっちなんだ」
<あ。もしかして女の人の裸を見たのってさっきが初めてだったの? それであんなマジマジと・・・・・・>
「むむ、なら夕立のカラダは毒だったっぽい? えぇと、なんだっけ・・・・・・そう! そーいう人って、どーてーさんって言うんだっけ?」
「Что это?」
<それはちょっと意味が違うわよぅ夕立ってか誰から聞いたのそんなの。えっとね、ど、どーてーさんってのは・・・・・・えー、まぁうん。でもキラさんは、そう、なのかな・・・・・・?>
「ねぇ、どーてーさんってなに?」

迂闊だった。好きだ好かれた惚れた腫れたの恋バナは女性の栄養素である。
艦娘も例外でなく、しかも普段女の園である鎮守府で生活している彼女達には、劇物にも等しい話題だった。
なによりこれまで誰もが聞こうとして聞けなかったキラの「その手の話」が遂に解禁され、
それも漫然と「恋の経験があるだろう」と思っていたのになんと経験なしと発覚したのだから、普通に男女間の恋愛に理解がある瑞鳳と恋人持ちの夕立が爆発した。
それにね、今ってばめっちゃ暇だしね、時間だけならタップリあるのに他にやれることがないなら、そこに食いつくのも当たり前だよね。気持ちはわかる。
なお響は置いてきぼりの模様。
故に嵐のような、外の本物の嵐にも負けない唐突怒濤なマシンガンガールズトークで恋愛を勧められ、誤解され、童貞扱いされかけ、

「ちがっ・・・・・・! 童貞違うし!」
<ほう>
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