ある講演会で,抗精神病薬の副作用軽減のために単剤化の進め方を解説したときのことです
。初老の精神科医が「30年以上,ずっと多剤併用で(統合失調症の)患者さんの症状をうまく
コントロールしている。患者さんは皆おとなしく再燃もない。それでも多剤併用は悪いのか!
」と反論してきました。薬理学的根拠以前に治療スタンスに問題があります。薬物療法が奏効
して,状態が安定して健常な精神活動を取り戻したら,喜怒哀楽があって当然ですからそれを
,“おとなしい”とは言いません。つまり,抗精神病薬の過剰な効果によって過鎮静で“じっ
とさせられている状態”や,抗精神病薬による二次性の陰性症状を呈しているのを,“おとな
しい”と表現しているのだと思われます。このように,患者を自分の管理下に置いておくこと
を治療のゴールとする精神科医がいるのです。

すべての精神科医が薬物療法に精通しているわけではないことや,スタンダードな治療法を
無視して独自の治療法を正しいと考えている精神科医が少なくないことを,知っておく必要が
あります。