なお、後半に出てくる「なぜ周囲の人は本当のことを僕に告げてくれなかったんだ」という文章は、周囲の人全体への発言と誤解されがちなようです。
あくまでも直前に出てきたYさん、Tさん、Oさん、Nさんなど、MASAYAや守谷の正体について直接的な真実を知っていたけれど黙っていた、個々の方々を指しているのでしょう。
次兄さんのように自分の直感や考えで反対されていた方々とは違いますね。

「真実を伝える責任はとても重い」「もし自分だったら、僕も言えないかもしれない」という文章も、
当時のToshlさんが反対意見を聞き入れられる状態ではなかったことを分かっていない発言であるかのように解釈されがちです。
実際は、(周囲の人に)「多くの迷惑をかけてしまっていた」という文章と同じく、分かっていたからこその言葉ではないでしょうか。
私も含めてですが、助けを必要としている人がいても、巻き込まれる恐れを考えたら見て見ぬ振りをしてしまう人が少なくありません。
そういう意味でも、「真実を伝える責任はとても重い」というのは真実かと思われます。

Toshlさんの件で言えば、家族の強硬な反対が逆効果になってしまったわけですし、ひとまず手出しすべきではない場合もあるでしょう。
とはいえ、本人が聞く耳を持たなかった(持てなかった)のだから何もしなくても良かった、助けて貰えなかったのは当然であったとは言えません。
なお、Toshlさんも2000年頃は100%、MASAYAを信じていたけれど、他の時期は何度も疑っていたそうです。
被害者のためにできるだけのことをやっても上手くいかないのと、最初から何もしないのとでは異なります。
たとえ成功しなくても、何らかの行動自体は起こすべきなのでしょう。

それから、Toshlさんを洗脳したHOHは宗教団体であると勘違いされがちですが、自己啓発セミナーです。
仮に宗教だったとしても、決して他人事ではありません。
洗脳やマインドコントロールの手法には、ブラック労働による搾取とも共通点が多いです。
カルトだけでなく、モラハラや虐待、DV、ブラック労働、詐欺など、被害者が被害者であるという認識を持てず、逃げられない事例は数多くあります。

私がこの本から特に強く学んだのは、「真実を知っているなら、なるべく本人に伝える。それができないなら専門家に相談する」「苦しめられている人に対しては、
頭から否定せずに苦痛を汲み取ろうと試みる」「陰で反対していただけなのに、後で責める資格はない」「本人が聞き入れられる状態ではなくても、助けないことを正当化はできない」等々といった事柄です。
その一環として、このレビューを書くことにしました。

今はYOSHIKIさんが、Toshlさんの洗脳経験を「洗脳星に行っていた」「洗脳の専門家」という風にネタにされていて、ファンやそうでない人も乗っかってしまっています。
「過去があって今がある」という具合に、今のXJAPANのためにはToshlさんの洗脳にも意義があったかのように言ってしまう人もいます。
こうした状況は非常に良くないと考えています。

幾ら立ち直ったとはいえ、Toshlさんの洗脳経験は過労死してもおかしくなかったような劣悪なものであり、失われた年月も返ってはきません。
HOHに限らず、今も苦しんでいるカルト被害者の方々もおられます。
元々カルト被害者は性犯罪被害者と同じように二次加害を受けやすく、自責感情を抱いたり、泣き寝入りしてしまったりするケースが少なくありません。
そんな中、Toshlさんがこの本を出版されたのには、相当の勇気がいったことでしょう。

たとえフォローのつもりだったとしても、カルト被害は決して肯定的に見たり、笑いのネタにしたりしても良い事柄ではありません。
Toshlさんも気を使ってか、強く嫌がる様子は見せていませんが、「笑い話にはしないでほしいな」と口にしていますし、内心では喜んでいないのが分かります。
「洗脳」という言葉・概念に軽いイメージが付いてしまうことで、被害者が茶化されるなどの二次加害を受ける、
被害の深刻さが伝わりにくくなる、カルトが野放しになりやすくなるなどといった問題もあります。