「・・・どうやら今回はここまでだな。コサンジ、撤退だ。俺がしんがりを受け持つ。ジュニアとマリアを連れて部屋から出るんだ」
「わかった。・・・2人とも俺についてこい。全力で走るんだ!!」

ダダッ・・・3人の足音はしかし、遠ざかることなくぴたりと止んだ。
(どうしたんだ?)
後ろを振り返りたくとも、俺はそれどころではなかった。魔王の4つの腕から繰り出される剣撃を避けるのに精一杯だ。

休みなく続く攻撃にもびくともしない剣と盾は、さすが100年前の英雄が使っていたとされるだけある。だがそれを持つ両腕はもうずっと前からしびれて、自分の腕でないような感じ。生身の体ゆえの限界だった。3人の無事を確かめて、自分もこの場を離れなければ。

「後ろの仲間がどうなったか、気になるだろう?」
低い声だが、それだけは不思議と耳の奥に響いた。攻撃が途切れる訳でもないが、必死に奴の様子をうかがうと、その顔にはっきりと浮かぶ、不気味な笑み。

(何が言いたい?)
出かかった言葉をぐっと飲み込む。動揺を見せたらそこにつけこまれ、まんまと敵の狙い通りだ。そうは行くか。