全ての始まりは、人々が救いを求めて接種したワクチンだった。未知のウイルスから人類を守るはずだったそのワクチンは、逆に人間の体を蝕み、彼らを理性を失った化け物へと変えてしまった。彼らがうめき声を上げながら闇の中を彷徨う様子は、かつての人間社会が完全に失われたことを痛感させた。
 廃墟となった都市の片隅を、一人の少女が歩いている。彼女の名はカノン。まだ10歳と若いが、その目には深い悲しみと決意が宿っていた。彼女は亡き母親から一つの警告を受けていた――「絶対に歌ってはいけない」と。