男は限界だった。ワイシャツは酷使された雑巾のようになっていたし、下垂体前葉はエンドルフィンを出尽くし、筋組織には乳酸が溜まっていた。
あまつさえ、腹具合もよろしくない。腸がぐぷぐぷと下品な調べを奏で、主人に危険信号を報せていた。
散歩が快楽だって? 冗談も休み休み言え、くそったれ。放流地はどこだ。俺のリビドーを放流できる所は!
そのとき、男の目にオアシスが映った。公園だ。それも県有数の大きな公園だ。
公園の中央部は、美しい湖水を湛えていた。アリスを見守る小人たちを思わせる大木が湖を囲む。重く湿った空気もあって、青々とした深緑の匂いが、深い年輪を刻む木々の香りが、一層深く感じられた。亡きブローディガンならここで鱒釣りをしただろうか。
沿道の脇には深い繁みがあった。雑草は鬱蒼と茂り、蚊がパーティを開いてそう。だが人目にはつかなさそうだ。
男は服を脱ぎ捨てた。ここだ。ここしかない。ここに穴を掘って、抑圧された者たちを解放しよう。奪われた精神を取り戻し、人間らしさを手に入れよう。
全てを受け入れる、母なる大地。男は静かに頷くと、じっとり湿った沃土に指を突き立て、解放区の開拓を始めた。