最終章 終わりなき戦塵

 その僧をみるのは、はじめてではなかった。その名が尽瞑であることも、すでに彼は知っていた。
だが記憶は曖昧で、どのような状況でいつ出会ったのか思い出せなかった。
あるいは記憶にある過去など最初から存在せず、すべては幻覚だったのかもしれない。
 このような形で死をむかえようとしているいま、それはかならずしも誇張ではないような気がした。
数十年にわたって日本が試みた行為―さけようのない敗北を回避しようとしたこころみは、連合艦隊の壊滅とともに無に帰した。
だから彼の過去は無意味なものでしかないし、最初から存在しなかったとしても不思議ではない。
―だとすると、自分はいったい何者なのか。なぜここにいるのか。
過去がないというのなら、いったいどこからきたのか。そもそも何のために、いままで生きてきたのか。
 そういえば以前に会ったとき、この僧には何か教えられたような気がする。
そのときの断片的な記憶をたどりながら、彼はたずねた。
―教えてくれないか。もしも我々が満州油田を発見していなければ、ちがう結果になったのか。
それともやはり同じように連合艦隊は壊滅し、日本は敗北したのか。どうなのだ。