>>454
「彼」は多くの福祉団体や難病患者の支援基金に多額の出資をしている。
謎の包まれていたが取材を通して「彼」がふいに語ったことによりベールの一部が垣間見えた。

ドンみずからささやかなと(といっても充分に豪勢な)歓迎の宴を催してくれたときのことである。
酒が程よくまわり口が軽くなったのであろう、
財布から小さなくたびれた写真を出して悲しげな目をしながらポツポツと語り始めた。
「匿名で資金援助をしてるあれわな、ワシのささやかな贖罪や。
あれは25〜6の頃やろか、結婚したいと思った娘がおったんよ。
お好み焼き屋の娘でな、最初は地上げして立ち退きさせるつもりやった。
それがなかなかしぶといという報告があがってきた。
どんな店なのか気になってな、お忍びで食事に行ったんや。
そしたら気が強くてなぁ…(涙声)カネじゃ動かんねん。ほんまもんの商人というのを学ばせてもろた。
あの頃天狗になってたワシの鼻をへし折られたわ。
最初はケンカばかりしてたがいつの間にか仲良くなってなぁ…どちらからともなく結婚しようかと話が出た。
その頃アイツは…(涙声)…アイツが倒れてな…難病やった。
ワシは系列の製薬会社や研究機関に懸賞金を出して研究に発破をかけたが間に合わなかった。
カネの力だけではどうにもならんのや!!(涙声)
…取り乱してごめんな、にーちゃん。
その後も縁談はぎょうさん来たがの、ワシはアイツのために独身を通すつもりでおるねん。」

民名書房刊「ナニワの商人(あきんど)一代記〜ドンと呼ばれた男〜」より