そして暴漢が今まさに女性客へと斬りかかろうとしたその瞬間の事であった。
「やめたまえ」
穏やかな声色ながらはっきりしたよく通る声で、勇気ある一人の男性客が暴漢へと語りかける。
暴漢は殺意を隠そうともしない濁った瞳で声の主を見返すと、
ナタを手に、ゆらりと歩き出す。男性客もまた、その手に何かを携えて一歩歩みを進める。
男性客が手にしていたものは一本のペットボトルだった。
長旅で渇いた喉を癒す為だろうか、冷凍庫でよく冷やされたと思しきボトルは
その役目を果たす前に暴漢との争いに用いられる事となるようだ。
中身は判然としないが、膨張を考慮し凡そ三分の二程度が詰まっている塩梅だ。