再び夜空に向かって咆哮。
握りしめた拳を見ると、丁寧に切り揃えられ、そのうえ鑢で形を整えられまでした爪が、電灯を反射してつやつや光っていた。お姉ちゃんが手入れした爪だ。
爪だけではない。このつるつるな歯はお姉ちゃんが磨いた歯だし、まるで地平線の向こうの音まで拾えそうなこの耳だって、お姉ちゃんがごしごし掃除した耳なのだ。
はあ。あの世話好きの姉ときたら、僕のことをペットの猫か何かと勘違いしているらしい。

「マコちゃん。マコちゃん。キレイキレイのお時間だよぅ」

ああ、また幻聴がする!
歯ブラシだの爪切りだのスポンジだのローションだのを手にして、猫撫で声でにじり寄ってくるお姉ちゃんの幻聴!
いつもお姉ちゃんは、ウサギを狩るアリゲータの動きで僕を引っ捕まえると、むずがる僕をむりやり抱き締めて動きを封じてしまう。
そして、それから、んでもって……ええと、なんだ。
首筋をふーってされたり、耳をハムハムされたり、グランドキャニオンを思わせるアメリカンなおっぱい渓谷にギュムムッと僕の顔を埋めたりする。
そんな過剰なスキンシップがすっかり日課となっている。

ああああああ!! こんな生活もーイヤだ!!

お姉ちゃんは僕の全てを管理しようとする。
だけど僕はペットじゃなくて、一人の男の子なのだ。
一人で学校行けるし、一人でお着替えできるし、その、精通だって……。
がおー。もう立派な男の子なんだぞ。戦国時代ならとっくに元服済ませて槍振り回してブイブイ言わせてる年齢なのだぞ。
それをペット扱いとはなんじゃー!
溶鉱炉じみて燃えたぎる憤怒の炎は、トルクという形で現出してペダルを回した。
ガシガシ、という擬音はジャコジャコ、という酸化鉄的サウンドに取って代わって、寝静まった街の空気を支配する。
僕はお姉ちゃんから遠ざかってなお、お姉ちゃんのことを考え続ける自分に気付き、そんな脳みそを心から呪った。