中国に跋扈する歴史修正主義 文化人類学者、静岡大学教授・楊海英
https://special.sankei.com/f/seiron/article/20190312/0001.html
>1912年に清朝皇帝から権力を平和裏に禅譲された漢人民族主義者たちはユニークな学説を考案して、満洲人政権を打倒した辛亥革命を賛美した。
>満洲人が中国を268年にわたって長期間支配できたのは、限りなく「漢化」つまり「中国化」したためだという。

>この言説には中国人の歪(ゆが)んだ心理が内包されている。
>中国人は古代から満洲人やモンゴル人を夷狄(いてき)と呼び、中華と異なる他者と見なしてきた。
>他者、それも中華思想の序列では下位にランクされてきた夷狄による長期政権は屈辱以外の何物でもない。

>しかし、300年間近く「野蛮人」に支配された事実は簡単に消せないので、「漢化」や「中国化」を持ち出して説明し、自身を納得させる。
>「野蛮人たる夷狄」は武力こそ優れているものの、最終的には文化力の強い中華に同化されて、中国人の文化力の方が優れている、という空想だ。
>中国ではこの種の同化論、「中国文化優越論」が主流を成してきた。

>一方、アメリカの歴史家たちは1990年代から新しい解釈を提示した。
>満洲人のシナ統治が成功したのは、彼らが最後まで征服者として「国語騎射」、即(すなわ)ち満洲語を大清帝国の国語として定め、騎馬弓射という内陸アジア遊牧民の伝統を守り通したからだという。
>満洲人の最高指導者はモンゴルやトルコ系諸民族の遊牧民に対しては「ハーン」と称して公文書を配布していたし、漢人社会に対しては「皇帝」として君臨した。

>「ハーン」と「皇帝」の二面性を同時に有していたからこそ、漢人の住む中原から、トルコ系民族が暮らすパミール高原の東麓、そしてモンゴル人の草原を凌駕(りょうが)した巨大な帝国を運営できたのだ。
>新清史の範疇(はんちゅう)に収まらない『世界史の誕生』を上梓(じょうし)した岡田英弘氏や、『大モンゴルの世界』を執筆した杉山正明氏ら内陸アジア史学者たちも同様な見方を唱えてきた。