>>843
久しぶり。元気だった?
俺は……まあ、元気とは言いがたいところかな

喉が痛いし、鼻水が止まらなくてな
というのも先週、俺はフレンチトーストになりたい気分だったので、
バスタブいっぱいに牛乳と卵と砂糖を張って、肩まで浸かることにしたんだ
コストの問題があったので、嵩の半分はただのお湯ではあったがね。
風呂じゅうにシナモンの甘ったるい香りが満ちて、ああ、俺は今からバターで焼かれてしまうんだ、とのぼせそうな思いだった

一気に空気を吸い込んで、頭をミルクの海に沈める。
すると、卵白のねばねばが顔じゅうに絡みついた
粘液質の雫がずるずると鼻腔に入り込み、口にねっとり覆い被さり、まぶたをマスキングする
気付けば、俺は息が出来なくなっていた。
慌てて新鮮な空気を得ようとしても、口に入るのは泡立った粘液ばかり。唇はぱくぱくと宙を泳ぐばかりで、まるで酸素を肺に送ってくれなかった
手足をばたつかせながら、このまま気を失うんじゃないかと思ったね

中世スペインでは、異端審問でよく水責めを用いたというけれど、それを思い出したよ。
あらぬ嫌疑をかけられた哀れな被告人たちは、こうして命を落としていったんだな、と実感した

そうだ、俺にはシャワーがある。洗い流せばいいじゃないか。
そう思立ち上がろうとすると、つるっと足が滑って、頭をバスタブの角へしたたかに打ち付けてしまう
今度こそ俺は気を失い、二時間後に目を覚ましたときには、すっかり風邪を引いていたよ

そういうわけで、みんなもフレンチトーストになるのはやめような