「ちょっと自分確認してきます」俺は好奇心とほんの少しの恐怖心に駆られて表に出ようとした。
どのみち、当直なのだから異常があれば確認しなければならない。
引き戸に手をかけたときだった。
遠くで何かが聴こえる────

パカッ、パカッ、パカッ…

蹄の音だ!!
それを理解したとき、俺は恐怖した。
「ウォアアアアアアアア!」俺は反射的に引き戸を開け、銃剣突撃の時の大声をあげた。
そして警棒を振り上げ、暗闇へ飛び出した。

そのまま敷地を走って一周した。それっきり何も出てこなかった。
○崎一曹と自分が見聞きしたものについて語りながら眠れない夜を過ごし、明くる朝。
敷地の一角にある小さな祠、これに供える水を毎日替えることが当直の業務だった。
何もなければそんなことはしないはずなので、恐らく見たものはその祠由来だろうという結論に俺達二人は達した。
そして祠の扉を開けると、備えてあるはずの湯飲みが倒れ、水がこぼれきっていた。
前日に地震はなかったし、風が吹き込んで倒れるはずもない。
前の当直が杜撰なことをしたせいで馬が現れたのか、それとも馬が現れたことでお供えした湯飲みが倒れたのか。
前の当直の奴を問い詰めたところ、「俺はちゃんとやった!」と言い張った。結局どちらなのかは最後までわからなかった。

小郡の教習所の実話だ。あとで知ったが、ここは南北朝時代の古戦場だったらしい。