本書のもう1つの興味深い点は、中国経済のサイクルを独自に5つにわけているところだ。一般に、現代中国の分析は、最高指導者の交代を区切りとした「世代」別に語られることが多い。

 第1世代(1949〜1976年)毛沢東時代
 第2世代(1976〜1992年)華国鋒・搶ャ平の時代
 第3世代(1992〜2002年)江沢民の時代
 第4世代(2002〜2012年)胡耀邦の時代
 第5世代(2012〜)習近平の時代

 これに対してオーリック氏は、改革開放以降の中国には5つのサイクルがあったと指摘する。いずれも新たな改革の機運に始まり、それが大きな広がりを見せるものの、景気過熱などの問題を抱えるようになり、さらに内外の危機に直面して、新たな抜本的改革が必要になる、というサイクルだ。

 第1のサイクル(1978〜1989年)改革開放〜天安門事件
 第2のサイクル(1992〜1997年)南巡講話〜アジア通貨危機
 第3のサイクル(1998〜2008年)朱鎔基の改革〜リーマン・ショック
 第4のサイクル(2008〜2017年頃)4兆元の刺激策〜サプライサイド改革
 第5のサイクル(2017年頃〜)

 構成としては、第1章と最後で、2017年に本格的に始まったデレバレッジ(過剰債務の削減)の取り組みが紹介される。GDP比260%という莫大な債務が生じた背景と、成長を潰さずにその債務を縮小するという「不可能を可能にした」政策当局の手腕を明らかにするというかたちで、5つのサイクルが紹介されていく。各サイクルの説明に入る前に、第2章で莫大の債務の借り手はいったい誰なのか(国有企業と地方政府)、そして第3章で貸し手は誰なのか(銀行と地方融資平台)を説明する。そのうえで、第4章から、第1と第2のサイクル、そして第3のサイクルの前半が紹介される。