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発電施設の遅れはあるものの、ダム本体工事は相当進んできたことから、エチオピア政府は近く湛水を開始し、
当初の予定から 4 年程度遅れて2022 年の発電開始を目指したいとしている。

しかし、発電開始に至るまでには解決すべきもう一つの課題がある。それは、下流国のエジプト、スーダンとの
調整である。スーダンは安価なエネルギー(電力)が輸入できるようになるのでダム建設に賛成であるが、
古くからナイルの水に頼ってきたエジプトにとって上流での水利用は深刻な懸念材料となる。エジプトは
水資源の約 95%をナイル川に依存しており、そのうち86%はエチオピア高原に降るモンスーンを水源と
する青ナイルの水、14%はウガンダのヴィクトリア湖から流れ出る白ナイルの水である。このことから、
ナイル川の水の多くを占める青ナイルの水源国エチオピアでの水に関するプロジェクトには特に敏感に
ならざるを得ない。

2011 年のダム着工は、同年1 月からエジプトの内外で起きた大規模な反政府デモやそれに付随する
事件により当時のムバラク長期独裁政権が倒されたエジプト革命による混乱のスキを突く形で、エジ
プトに相談なしで強行されたものとエジプト側はとらえている。建設そのものは仕方ないにしても、貴重な
淡水源である青ナイルの水を安定的に確保したいことから、ルネッサンスダムの湛水に当たっては
ゆっくり 7 年かけることと、スーダン、エジプトの既存のダム群との運用調整の必要性を主張している。
これに対し、発電を急ぐエチオピアは湛水期間 3 年に固執し、エジプトの主張を無視する姿勢を
通しており、議論はデッドロックに乗り上げたままである。現時点で予定している 2022 年の発電開始に
向けて、前途はさらに多難である。