大河前の話の続き

「転向したのならまた転向させればいい」
改革急進派の窮地に伊藤の取った手段はこれであった。
そのための手段として目を付けたのが条約改正を目的に欧米へ派遣される事になっていた岩倉使節団である。
大久保にしろ木戸にしろこれまで一度も国の外へ行った事が無く、それが伊藤や渋沢といった洋行経験者達との大きな溝となってしまっているのが現状である。
ならばこの二人を一度海外へやって西洋の最先端を見せる事で自分達が持つビジョンという物をきちんと共有、理解してもらおうというのが、
この時の伊藤の考えであった(同じく洋行経験の無い大隈が伊藤達と同じビジョンを持って急進派になっている件についてはマジお前何なんだとしか言いようがないがここはこの際気にしない)。

かくして伊藤はヤクザにかけあってヤクザ経由で使節団の面子に入る事を希望していた大隈を外し大久保と木戸を入れる事を提案、
改革推進派にしてスタンドプレー魔の大隈を海外に出す事を不安視していた大久保は簡単にこの話に乗り、木戸と「今この二人が国を留守にして大丈夫か」と言い出した西郷と板垣が散々にごねるが最終的にはこの二人も使節団に同行する事となる。
言い出しっぺの伊藤自身はヤクザも大久保も木戸も英語が話せないのでメンタルケア込みで外務官僚の山口尚芳と一緒に行く事になり、
「始めたばかりの廃藩置県は必要であれば改善してもよい」「他の改正は使節団の了承を得てからにする」「人事面に手を入れない、どうしても必要な場合は使節団に決裁を求める」
という内容を使節団が戻って来るまでは現状維持で物事を進める約定書として提出する。

この約定書に使節団から外れる事となった大隈を含めた留守中国内を取り仕切る留守政府の面々が署名したのち使節団は出発すのだが、
出発した面々も見送った面々も完全に留守政府に残された大隈という人間を見誤っていた。
希望していた使節団から外された事で内心不満を抱いていた大隈が約定書などという物ごときでおとなしく現状維持に甘んじるようなクマもといタマな訳が無かったのである。