海軍の日常業務に関する知識がなければ艦載艇不用論みたいな言説がでるのもまあ仕方がないかも知れないなあ。
救命艇用途以外の、とりあえず今ざっと思いつく艦載艇のお仕事を挙げると

・ブイ係留作業。艦首から垂らした錨鎖を作業隊がシャックルでブイに繋ぐ。艦隊の規模のわりに
 港湾設備が貧弱だった日本では泊地だけでなく軍港でも多用された。

・連絡、上陸。ブイに係留すると、作戦会議等で他艦を訪れる事や病人の搬送、ゴミの搬出、糧食や物資の搭載、
 そして食事、真水とともに乗員に対する最大の福利厚生である上陸には艦載艇を使うほかない。
 昭和19年のリンガ泊地からシンガポールへの第一戦隊の上陸では、大和、武蔵に長門を横付けして上陸員を
 便乗させたが、これは例外的で常時できるわけでもない。

・外舷の塗装などの整備作業

・臨検。戦艦がこれをやることはほぼ無いが、これ以外にも降伏の意思を示した敵艦に士官を送るとか
 いう事態も考えられる。

戦闘の際に戦力にならないのは確かにそうだが、柱島やトラック、リンガ湾、ブルネイ湾などの前進基地や
泊地からの出撃の場合は置いていけない。
最後の天一号作戦の時は大半を降ろして空いたスペースを増えた機銃員の居住区に充当した説もあるので、
それが本当なら結果的に艦載艇搭載設備は戦力面で無駄とはならなかったとも言える。

それと漕がされる側はたまったものでないがカッタ―訓練は水泳と同様、海の男の基本スキルと見なされ、
個艦や戦隊対抗の競技も行われた。

古代の奴隷船よろしく多数の男どもが掛け声に合わせて櫂をこぐ様は前時代的だが、今でも海自だけでなく
海上保安学校や水産高校、商船学校でも行われる。
ただし海保のはスポーツ競技用のような細長いタイプで櫂も細く軽いタイプに見える。

防大のボート部だと一年中カッター漕ぎまくってて、同校学生からも一目置かれると同時に
基地外じみてるとも言われるが、まあこれは文化的なものだろうなあ。
今はゴムボート的な搭載艇も増えたが、作業艇が艦上から消えることはないだろうね。