大江健三郎は好かん作家だったけどこのエピソードは好き

大江健三郎は雪が降ると気分が上がって変なことをしてみたくなるらしく、ある大雪の日の深夜二時ごろ、ランニングシャツ一枚で近所を走り回っていた。
すると前方から、歌舞伎の「助六」のように傘を振り回してヒョイヒョイ踊りながら男がこちらへやってくる。
ヤバい奴がいる、と道を反らして家に帰ったが、後日大江の妻に
「大江さんの様子に気をつけなさい。彼は雪の日の深夜にシャツイチで走り回っていた」
と武満徹が忠告してきたことであの怪人が武満だったことが分かり、その奇行を指摘し抗弁すると武満は
「僕は傘を差していたから」
と言ったという。

大江健三郎講演「時代と小説」より