大規模な金融緩和を中心とした安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」の指南役として、
当時内閣官房参与を務めた浜田宏一米エール大学名誉教授(87)は本紙のインタビューで、10年に及ぶ政策の効果について
「賃金が上がらなかったのは予想外。私は上がると漠然と思っていたし、安倍首相(当時)も同じだと思う」と証言した。



アベノミクスは、安倍氏が任命し間もなく10年の任期を終える日銀の黒田東彦はるひこ総裁が、2013年4月に緩和策を始めたのが柱。
円安に誘導し、輸出関連の大企業の収益を改善させ、賃金上昇、消費拡大につなげる狙いから、
浜田氏は政策の開始当初「アベノミクスはトリクルダウン」と何度も強調していた。

しかし、大企業のもうけが下請けの中小企業に波及せず、賃金も上がらなかったことが明らかになった今、
浜田氏は「ツケが川下(の中小企業や労働者)に回った」と問題を認めた。
その上で「賃金がほとんど増えないで、雇用だけが増えることに対して、もう少し早く疑問を持つべきだった。
望ましくない方向にいっている」と懸念を口にした。

一方で「最近の私は、アベノミクスはトリクルダウンではなかったと思っている」と立場を転換。
理由として、政府が企業に賃上げを呼びかけるなどの政策を取り入れていたことを挙げた。
「これまでトリクルダウンのようなことをやっていると誤解していた。反省している」と述べた。

実質賃金が上がらないことが明らかになってきた15年ごろから、安倍氏も国会で「アベノミクスはトリクルダウンではない」と主張する場面が目立っていた。
浜田氏は、安倍氏が当初からトリクルダウン政策ではないと思っていたかを問われると、「分からない」と述べるにとどめた。



岸田文雄首相も今年1月の会見で「この30年間、想定されたトリクルダウンは起きなかった」と述べた。



日銀職員の多くは当初から、緩和で日本が一変するかのような浜田氏の考えを疑問視したが、安倍氏に抵抗できずに従った。
結局トリクルダウンは起こせず、賃金は上がらなかった。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/237764