>>160
 「駆逐艦 その技術的回顧」は堀元美氏の著作で日本駆逐艦に関する基本文献ですから、一般向けとしてわかりやすく要約されてしまっている面はあるにしても基本的にはその海水補填機構は採用されていると見て良いでしょう。否定するには明確に否定する資料を探さないとなりません。
 というわけで探してみたのですが…むしろこの内容を補足するような文献が見つかってしまいまして

「昭和造船史」によると、初春型駆逐艦の復元性能改善工事後は、固定バラスト80トンの他、軽荷状態では約130トンの海水補填を必要としたとあります。

「艦艇の初期設計」八代準では、液層防御の説明の所で、重油の消費により上部に空所の出来た際は、海水を下部に注入して重油面が常に防御上端になるようにもできるとしています。

「海軍造船技術概要」の性能改善工事に関する部分で、海水バラストを搭載する場合に重油タンクを利用し重油を使用するに従って海水を搭載する方法を考案し之を海水補填タンクとする、と説明有。
 同書の駆逐艦初春型の改善工事の部分では、重油タンクの一部に海水補填装置を設く(約130トン)。
 巡洋艦最上型の部分で、軽荷状態では海水740トンを補填するようにされた。
 巡洋艦利根型でも、燃料消費後の安定性能低下防止策として、相当の海水補填が基本計画の時期から既に考慮されていた。
 航空母艦龍驤については、重油タンクに海水補填装置(650t)を設けた。
などの記述が見つかりました。

 同書別冊の「日本海軍艦艇図面集」でも、不鮮明な配置図ながら陽炎型に「駆逐艦 その技術的回顧」の説明図と同じ形をした補填重油タンクの存在が確認できます。但し吹雪型をざっと見た感じではタンク配置がかなり異なっていて確認できませんでした。

 何らかのスラッジ対策も施されていたのかも知れませんが、海水補填装置の採用は否定し難いようです。