ところで『アイドル』の楽曲的特徴について今更だが改めて書いてみると、中々工夫の多い曲だと言える。

まず調性としてはマイナーなのだが音色やフレーズの使い方によって大部分の場面ではむしろ極めて明るい印象を持たせており、
それと要点の抑鬱的場面を対比させることでリスナーの意識を意図的にあちこちに振り回す構成が取られているのが一つで、
これによって作詞上の視点が複数である事を明示している面もあり、
複雑な構成でありながら作曲上の意図を聴手に対してかなり明確に見せてきているのが分かる。

続いて鍵盤楽器で演奏した際に黒鍵を使う場面と白鍵を使う場面を明確に区別して構成されており、
作中の舞台設定におけるシーンの明暗を暗示した音階構造となっている。

韻の踏み方は極めて技巧的で、後に発表した英語版の歌詞も考慮した作詞が為されており
母音子音共に活用した作為的な音声学的技工が随所に見られる。

何度も繰り返される転調や終盤直前のSE的フレーズにも明確な意図があり、
その全てが最終フレーズの「これは絶対嘘じゃない──」への導線として意図的に構築されている。
七音で構成されたこのSEはアイの本音へと繋がる作中の事件を示す音であり、アイの半生のゴールを明確に象徴するフレーズとなっている。

こうした楽曲的特徴が非常に印象的な楽曲であった。おわり