(社説)国の指示権拡充 自治への介入を危惧 2023年11月27日 5時00分

 感染症の蔓延(まんえん)や大災害が発生した際に、
国が自治体に必要な事務処理を指示できる制度をつくろう――。
 こんな答申を首相の諮問機関の地方制度調査会が出そうとしている。
コロナ禍を教訓に国と自治体の関係の見直しを議論してきており、最終答申は来月。
それを受けて政府が地方自治法の改正へ動く。

 だが、このままの内容で進めるのは問題が多すぎる。
 コロナ対応では施設の使用制限やワクチン接種、病床確保などをめぐり、
国と自治体間の足並みが乱れた。もっと手際のよい対応を求める発想は、わからないではない。
 だが、なぜ、それが国の一方的な指示権の拡充なのか。それに従うよう自治体に義務づける新たな制度なのか。

 国と自治体はもう「上下・主従」でなく「対等・協力」な関係のはずだ。
 分権改革で、国が自治体を下部組織のように指揮して仕事をさせた機関委任事務を廃止し、
国が本来果たすべき仕事を委ねる法定受託事務と、それ以外の自治体が担う自治事務に振り分けた。
 その際に、国による関与は「必要最小限」で、自治体の「自主性・自立性への配慮」が原則だと
地方自治法に明記された。今回の答申はこの分権改革に明らかに逆行する。

 そもそも、コロナ禍に対応した感染症法に基づく対応は法定受託事務で、国は「是正の指示」ができた。(中略)

 現場を直接見ていない国の指示が、かえって混乱を広げる懸念も大きい。
コロナ禍で安倍首相が唐突に発した休校要請がその典型例だろう。

 加えて、どんな事態を想定しての新制度なのかがあいまいなのも見過ごせない。
「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」「生命、身体または財産の保護のため」などとあるが具体性に欠ける。
 これでは自治への安易な介入を招きかねない。

 自治体側の対応も疑問だ。全国知事会は「国が一方的に指示するのでなく双方向の制度に」と主張はしている。
だが、答申通りに法改正されたら、非常時に国と対等な関係で役割分担ができるのか。
 現場を担う責任の重さを踏まえ、もっと厳しく答申の中身にクギを刺すべきだ。
asahi.com/articles/DA3S15802280.html