ですが恐怖劇場 〜ジビエ〜

 これは俺が今は亡き祖父が持っていた山を相続した時の話だ。正直厄介な資産ではあるが、先祖代々受け継いできたと言われたら、長男である俺も受け継ぐしかなかった。周辺に獣害をもたらさない、静かな山であることだけが救いだ。
 そして受け継いだからには管理の義務もついてきてしまう。俺は嫌々だが、相続した山を歩いて見て回る仕事をすることとなった。まあ見て回るといっても、麓から頂上付近の謎の祠まで、ざっと歩いて回るだけなのだが。

 ある日のこと、いつも通り休日に山を見て回っているときに「それ」は起きた。突然周りがじめっとした空気に包まれ、まるでゴミ処理場のような不快なにおいが漂い始める。まだ昼間であるにも関わらず、薄暗くもなってきた。
 この先にあるのは、先に話した……いつの時代からあるのかわからない、謎の祠だ。今まではこんな、暗くじめじめとした雰囲気ではなかったが……祠に近づくにつれ、どんどん不快度が上がっていく。が、自分の山での異変は確認しておかなければならない。
 正直恐々とだが、祠に向かって足を進めていった。そして――「それ」と遭遇した。

「ジビエは生で食える……ジビエは生で食える……」

 祠の前で、何かの動物……イノシシ、だろうか。それを生のまま貪り食らう、なにかが、いた。

「部位によっては……生で食える……」

 「それ」は俺には目もくれず、イノシシだったものにかぶりついている。部位によってはとは言うがマルカジリではないだろうか。
 俺はいつでも覇王翔吼拳を打てるようコマンドを準備しながら、それを観察することにした。
 見た目は60代後半から70代はじめくらいの、この世のすべてを恨んだかのような、醜悪な老人のような姿かたちだった。着衣はなく、土気色の肌とちいさなイチモツがむき出しだ。

「具体的にどこかは言えないが、生で食えるんだ……」

 俺が観察する間も、そいつはイノシシを貪り食らう。……もしかして、こいつのおかげで周辺に獣害が出ていないのだろうか。
 であれば、覇王翔吼拳ですぐさま討伐するのは――

「生で食えるっ」