VIC州のコアラ射殺のニュースが背景情報無しに拡散されているっぽいので長いやつ書く。

そもそもの発端はビクトリア州にあるバジ・ビム国立公園が大規模な山火事被害に遭ったことから始まってる。日本でいうところの地震みたいに、オーストラリアの定期的な天災といえば山火事である。今回はこの国立公園が2200ha焼けてしまった。東京ドーム指数で言うとこれは「東京ドーム470個分」。品川区が丸ごと焼失した感じ。「公園」って聞いて日本人が想像する規模じゃないのよ。

で、山火事になるとコアラを含む野生動物には2つの問題が生じます。一つは直接的な火傷などの外傷被害で激しい苦痛と二次的な感染症で死に至ります。もう一つは後の食糧難問題で、コアラの主食であり住処であるユーカリは焼失してしまっているので森が再生するまでは食糧が無くなり飢餓がジワジワと襲ってくる。

「安楽死そのものの是非」については話がズレやすいのでここでは深く書くつもりはないんだけど、基本的に安楽死とはQoLの尊重と動物福祉的観点から行われる処置。今回みたいな場合だと、高確率で近々死んでしまう動物に対し、苦痛を長引かせず死に至らせるという行為は獣医療学的に適切です。安楽死そのものを否定する意見があることも理解はしてるけど、残念ながら命の前線に立っているとその判断は「苦痛を長引かせる見殺し」になることが多い。

なのでとりあえずここは「死にかけている動物には安楽死が必要なんだ」という前提で折れてほしい。そうしないと話がズレて進まんのだ。「野生に戻せないなら飼育すれば良いじゃないか」論に関しても話がズレるので勘弁してください。そこもめっちゃ長く語れる問題なのだ。

でもコアラって保護されてるんじゃないの?そうだね、QLD州やNSW州では数が減っていて保護の対象です。でも今回のVIC州やSA州では逆に生息地に対して個体数が増えすぎていて問題になっている。なので今回は「どれだけリソースをぶち込んででも守る」ではなく「適切なリソースで最善を尽くす」が選択されます。

さて重症を負って苦痛にもがきつつもそれでも木にしがみついて苦しむコアラをどう安楽死するのか。相手は逃げるし樹上にいるし東京ドーム470個分の道もない広域に散らばっている。処置が遅れれば遅れるほど苦痛は増す。そこで現実的かつ迅速に安楽死を決行する案としてのヘリからの射殺が決定された。