>>868
この乖離は複数の構造的・運用的要因によって生じているものであり、表面上の数値の落ち着きとは異なる実態を示唆している。

まず、死傷者数に関する定義の差異は顕著である。ウクライナ国防省は報告において「死傷者」(Killed and Wounded in Action)を一括で提示しており、1日の戦闘で1000人以上の損耗を記録していると発表している。一方で、MediazonaおよびBBCロシア語版による集計は、氏名・出身地・死亡日時などが確認された「戦死者」に限定しており、負傷者や行方不明者を含んでいない。したがって、両者の数値を単純比較することは、定義上誤解を生む。

また、地理的要因と戦術の変化により、遺体の回収率そのものが変動している。2025年に入って以降、ロシア軍は局地的防御戦に移行し、損耗の分散と前線固定化が進んだことで、死亡の発生位置が後方化し、回収作業や報告へのアクセスが制限されている。これにより、現場での遺体確認と情報発信が困難化している。

さらに、ロシア国内における情報統制の強化も大きな要因である。2024年末以降、国防省や地方自治体による死亡通知の公開頻度が明らかに減少しており、SNS上の訃報や遺族投稿も検閲対象となっている。これにより、Mediazonaらの集計チームが依拠する情報源の数と質が低下しており、実際の死者数が記録に反映されにくい構造が生じている。

以上の観点から、2025年の死者数の「減少」は、実質的損耗の縮小を示すものではなく、統計的集計能力の制約による沈静化であると判断すべきである。現場実態との乖離は、定義の非対称性、地理・戦術的制約、情報封鎖の三要素が複合的に作用している。