>>180
ICJの判決を正しく理解するには、判決文の射程とその文言を冷静に読む必要がある。相手が言うような「ジェノサイド条約とは関係ないから問題なし」というのは、まさに逆解釈。実際の判決は「仮にロシアの行為が違法だとしても、それはジェノサイド条約の範囲ではなく、武力行使を規律する一般国際法の問題だ」と明言している。これはつまり、ロシアが侵攻の根拠とした「ウクライナによるジェノサイドを阻止するため」という主張が条約の適用範囲外=法的根拠にならないと退けられたことを意味する。関係ないのではなく「根拠にならない」のだ。

さらに重要なのは2022年の暫定措置命令だ。ICJは「ロシアは直ちに軍事行動を停止せよ」と命じた。もし本当にロシアの主張する集団的自衛権が認められるなら、この命令は出ない。国連憲章第51条の自衛権は「武力攻撃を受けた国家」にのみ適用されるが、ロシアが持ち出したDPRやLPRは国際社会で国家として承認されていない。したがって、彼らを口実にした「集団的自衛権」は成立しない。この点をスルーして「承認不要」論を持ち出すのは詭弁にすぎない。

加えて、ロシアは現在もドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソンの一部を占領し「併合」を宣言している。撤退済みどころか、ICJの命令を無視して軍事占領を拡大しているのが現実だ。クルスクへの「緩衝地帯」構築という主張もロシア側の一方的な発表であり、国際的には一切承認されていない。

結局、ICJはロシアの「ジェノサイド阻止」論を法的根拠として否定し、自衛権の主張も国際法の要件を満たしていないことを示した。判決と命令を合わせれば、ロシアの武力行使には国際法上の正当性は存在しない。つまり、「仮定文だから無関係」や「承認不要だから正当」などという反論は、判決の文脈を無視した暴論であり、国際法的には全く通用しないのである。