確かにマリやニジェールにはかつてフランス軍が駐留しており、シリアでもアラウィー派支配の根にはフランス委任統治期の宗派分断政策がある。
欧米が中東やアフリカを都合よく切り分けて支配したことは否定できず、その反発が「脱西欧」や「親ロシア」の言説を生んだのも事実だろう。

しかし今この瞬間、現地の暮らしを直接破壊しているのはロシア勢力であり、その構造は20世紀の植民地主義と何も変わっていない。

マリではワグネルが進駐後、テロ鎮圧どころか民間人虐殺が相次ぎ、反政府デモも報道も封じられた。金鉱山はロシア系企業が独占し、国家収入は縮小。ニジェールでもクーデター後にロシア寄り軍政が成立し、フランス撤退の空白を埋める形でロシアが進出したが、電力と燃料は不足し、生活コストは数倍に跳ね上がった。反西欧を叫んでも生活は改善せず、結局はモスクワとワグネルが資源を持ち去るだけ。

シリアも同様で、アサド政権を延命させたロシアの空爆は学校・病院・住宅を破壊し、国民の半数が国外避難を余儀なくされた。ロシアが守ったのは民衆ではなく体制であり、対価として港湾と資源利権を得た。

確かにフランスやアメリカの介入も多くの悲劇を生んだが、いま苦しむ人々にとってそれは過去の話で、現在の圧政者はロシア側だ。独裁政権を支援し、プロパガンダで「反植民地主義」を装いながら、実際は新しい植民地構造を作っている。

マリの鉱山、シリアの港、ニジェールのウラン――いずれもロシア企業と軍事顧問が支配する現実を見れば明らかだ。

欧米の失敗を指摘することと、今のロシアの行為を擁護することはまったく別の問題。
過去を盾に現在の暴力を正当化するのは、歴史を学ぶ態度ではなく、ただの責任転嫁に過ぎない。歴史を知るほど、いま同じことを繰り返しているのが誰かが見えてくる。