オデッサ住民が親ロシア的かという点については、歴史的経緯を踏まえれば「一部にはありうるが、今の主流ではない」というのが現実的な評価である。

確かにオデッサは帝政ロシア時代から黒海交易の要港であり、旧ソ連期にはロシア語話者が多数を占めた都市だった。2014年のマイダン革命以降も、ロシア語文化やロシアとの結びつきを重視する層は残っていた。

しかし、ロシアの軍事侵攻が始まって以降、その空気は大きく変化した。侵攻初期にロシア軍がオデッサ港へのミサイル攻撃を行い、民間人死傷者を出したことが転機となった。以降、街には反ロシアのムードが広がり、従来ロシア語を話していた人々も「言葉と忠誠は別」としてウクライナ支持を明確にする例が増えた。

2022年以降の複数の世論調査では、オデッサ住民の約7~8割が「自らをウクライナ人として誇りに思う」と答え、ロシアに好意を示す回答は急減している。戦前には親露系の地方政党や団体も存在したが、現在は活動を禁止されるか地下化しており、組織的な親露運動は確認されていない。

ロシア側が「オデッサには解放を望む住民が多い」と喧伝するのは、プロパガンダとしての意味合いが強い。実際には、ロシア軍の攻撃を受けた地域では避難や徴兵への反発があっても、露軍の侵入を歓迎する動きはほとんど見られない。

オデッサは国際港として多民族が共存する都市であり、戦争によって「どちらの国か」を迫られた結果、むしろウクライナ国家への帰属意識が強まっている。歴史的に親ロシア的文化を持つ地域であっても、戦火の現実を前に人々の感情は変化した。

いま「親露の街オデッサ」というイメージは、過去の記憶を引きずった幻想に近く、実際の世論はウクライナ側に収束しているとみるのが妥当だ。