ロシアの現状を冷静に見れば、残された選択肢は限られている。戦線はほぼ膠着し、経済制裁と人材流出で国家基盤は痩せ細り、兵力の質も落ちている。全面勝利はもはや不可能で、プーチン政権が生き残るために取れる現実的な道は、ウクライナに対する軍事的圧力を強め、「有利な停戦」を引き出すことだけだ。つまり、戦争を終わらせるための“交渉材料”として軍事力を使う段階に入っている。

この状況で、ロシア側に「死者数や損耗比率」を誇張する強い動機がある。実際の戦果よりも「優勢に見える物語」を作り、国内外に流布することが政権維持のための政治的装置になっているからだ。死者数を操作して「ウクライナ軍は壊滅した」と宣伝すれば、国内向けには“勝利の幻想”を保ち、国外には「停戦はロシアの善意による譲歩」という印象を与えられる。つまり、死者数の報告は戦場情報ではなく、外交と内政を操作するためのプロパガンダ装置になっている。

実際の戦場では、国際的な分析ではロシア側の損耗のほうが大きいとされる。囚人兵や地方動員で穴埋めしているが、兵の練度や指揮統制力は急速に低下している。米国防総省や英国防省、IISS、RUSIなどの推計では、ロシアの死傷者は数十万に達し、装備の損失でも優位を失っている。衛星写真や墓地拡張の調査からも、ロシア国内での死者埋葬数の増加が確認されており、ロシアが発表する「ウクライナ損耗180万」といった数字は政治的演出の域を出ない。

この「損耗プロパガンダ」は、国内での戦争批判を抑えつつ、国外に「もう勝負はついた」という印象を与えるための心理戦である。数字を操作して交渉の雰囲気をつくり、停戦を有利に見せかけることが目的だ。

ウクライナ側もこれを理解しており、士気維持のために損害報告を控えるが、根本的な違いは、ウクライナが自国防衛のための情報統制であるのに対し、ロシアは政権維持のための虚偽宣伝に依存している点だ。したがって、両者の発表を数字として比較すること自体が意味を持たない。

結局のところ、ロシアの狙いは戦争の勝利ではなく、“停戦を勝利のように見せる物語”の構築にある。死者数の操