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参考 なぜ「公国」なのか

 キエフ=ルーシは王国ではなく「公国」といわれている。一般に「公」とは王より下の身分の皇太子や王族に対する称号であり、彼らが支配するのが「公国」である。あるいはより高い権威である「皇帝」や「王」を宗主として仰ぎ、一定の領域支配を認められている場合を「公国」ということもある。つまり「公国」は「王国」より一段と低い国家秩序とされるが、実態は「王国」と同じであることが多い。
 キエフ公国の場合はどうか。これも『物語ウクライナの歴史』を参照してみよう。
(引用)キエフ公国の君主は「クニャージ」といわれた。この語は語源からは英語の「キング」、ドイツ語の「ケーニヒ」、スウェーデン語の「コヌング」に相当する語であるといわれるものの、時がたつにつれてクニャージの息子たちやその子孫がすべてクニャージと称するようになり、その価値がプリンスまたは公爵並みに下落してしまった。そして後世になると、クニャージの治める国ということで、キエフ国も公国というランクが一段下の訳語をつけられることになった。本来はキエフ=ルーシ王国といった方が実態から見て公平であると思われる、現にウクライナの民族主義的色彩の強い史書には王国と称するものがある・・・<黒川祐次『物語ウクライナの歴史』2002 中公新書 p.23-24>
 つまり、本来王を意味した「クニャージ」が安売りされて値が下がったわけですね。実際、キエフ公国はやがてたくさんの公国に分かれて行き(その一つがモスクワ公国)、それらと区別して本家を特に「キエフ大公国」と言うようになる。
 なお、キエフ=ルーシは本来は「ルーシ」とのみ呼ばれていたので、「ルーシ公国」と呼びたいところだが、その後ルーシからは派生した「ロシア」が別の国家を指す言葉として用いられるようになり、そのロシアとの混同を避けるため、後に「キエフを都とするルーシ」という意味で「キエフ=ルーシ」と呼ぶことが慣例になった。<黒川・同上 p.24>