フランソワ・トリュフォー 語録


●ロベルト・ロッセリーニ

 ロッセリーニは、アメリカ映画を毛嫌いしていました。メイン・タイトルが出る前に、
唐突にシーンが始まる、所謂、アヴァン・タイトルなど
「ハリウッドの人種しか考えない下品な発想だ」と罵っていたものです。
ヒッチコックの映画も大嫌いでした。私がロッセリーニの助監督として働いた二年間というもの、
アメリカ映画についての悪口を聞かされっ放しでした。 ロッセリーニのアメリカ映画嫌いには、
もう一つ理由があって、それはイングリッド・バーグマンがハリウッドを捨てて
ロッセリーニのもとへ走って以来、アメリカ人が一斉にロッセリーニ攻撃の
キャンペーンを行ったからです。それに対して、ロッセリーニも徹底的な
アンチ・アメリカニズムで押し通したのです。
全て「アメリカ的な物は、悪である」というところまで行ってしまった。
だから、「アメリカ映画に良い物がある訳が無い」という訳です。
(中略)しかし、私は反面、アメリカ映画が大好きだったし、アメリカ映画で育って来たので、
アメリカ映画への思いを捨て切れなかった。ロッセリーニのアメリカ映画嫌いに押え付けられて、
私は欲求不満でした。
(中略)後に、ヒッチコックにインタビューをして一冊の本
(『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』)を作ったのも、思えば、多分、
少なからずロッセリーニに反撥して、アメリカ映画を礼讃しようとしたというところがあったのです。
これは友人のシナリオライターのジャン・グリュオーから聞いたのですが、
ある時、ロッセリーニが電話をして来て、沈んだ声で悲しげにこう言っていたそうです。
「トリュフォーの奴、ヒッチコックの本なんか作ったらしい」と。
ヒッチコックもロッセリーニが大嫌いでした。
ハリウッドとネオレアリズモ、フィクションとドキュメンタリズムという対立以上に、
実はイングリッド・バーグマンを巡るライバル意識があったのです。
(1985〜88年『季刊リュミエール』第2〜13号「フランソワ・トリュフォー/最後のインタビュー」
山田宏一・蓮實重彦=訳/筑摩書房より)
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