石田健

現代アメリカを代表する哲学者のリチャード・ローティ(1998年時点ですでに)は、60年代以降の知識人が「お金」の問題から「侮辱」の問題に関心を移したことで、労働組合や福祉、雇用の問題に向き合うのではなく、「大学のカリキュラムに多文化主義が適用される」ことを目的とするようになったと指摘する。

ローティが「文化左翼」と呼ぶ知識人たちは、従来のマルクス主義者がおこなってきたように経済的に苦境に陥っている人々を代弁するのではなく、性的・人種的・民族的マイノリティの立場から見えない不正義を告発し、「政治的な正しさ」を広めることを自らの新たな使命とした。

文化左翼の登場によって、アメリカは以前よりも「はるかによいところ」になったものの、彼らは経済的不平等に目を向けることはなかった。