「あ、高橋くんだ!」
友人はまだ居ないはずのこのキャンパス内でボクを呼ぶのは誰だろう。
一人でベンチに座って芝生を眺めながらコンビニのホットフードを食べていた僕は振り返った。
「お、おはよう。早いね。」
入学して初めての大学のゼミが同じだった女の子だった。
脂でテカった唇で僕は、快活で整った目鼻立ちが美しいと評判の彼女の名前を口にした。
「えっと、佐藤さん」
それから二人はキャンパス内でよく話をするようになった。
キャンパスで僕を見つけたら挨拶をするでもなく、まるで食虫植物でも発見したとでもいうように小さく驚いてからボクの名前を続ける彼女。
シャイな子なんだろうな、そう思っていた。

転機は突然訪れた。

「食べたことある?」
「ないよ」
「うんこ食べたことないんだ?」
「ないよ」
「体から出たものを口に運んだことはある?」
「ないって」
「まじかー」

付き合う代わりに、彼女のウンコ遊びをすべて受け入れるという条件を僕はのんだ。
それからというもの大学ではちょっとした有名カップルとなってしまった。
容姿から何からレベルの違う彼女にはじめは気遅れしか感じなかった。
しかし二人は毎日毎日ウンコまみれになり、二人で買ったアロマキャンドルの揺れる火の中で、まるで天使が戯れているような聖域を二人で作った。
本気で結婚したいと思った。一生一緒にいてくれやと思った。
あれから十年、そんな懐かしい思い出がまるで自分のものとは思えないほど今の生活は色褪せてしまった。

「ブリリリリリ!ブリュリュ!ブチュチュチュ!プーっ!」

アウトレットで買って間もないサテン地の枕をつらつらと指先で撫でながら捻れた肢体で俺はスマートフォンを眺めていた。
彼女は卒業後、彗星のごとくスカトロAV界に現れた。
その人気はかなりのもので新規のスカトロマニアを量産したらしい。
その後、ブレインの男性と結婚し、なんとも羽振りもよく幸せそうな彼女。
派手な服装や化粧はあの頃とは別人のようだ。
もう彼女はあの頃の佐藤さんには戻らないだろう。
黒くて細い髪、小鹿のような華奢な体、彼女のヒクつく肛門から現れるウンコ。
しかし、あの子はこれで良かったんだと、十年近く経ってようやく思えるようになった。

ボクはスマートフォンの電源を落とし、枕を横に抱いて壁を見つめた
「ブリブリ!プー!って。ふふふっ」
なんだか可笑しくて笑いながらボクは枕元のアロマキャンドルの火を絶やした。