リレー小説(その一)

 とある高級住宅街の一角に、一際豪奢な造りの邸宅があった。
重厚なあつらえの門構え、そこから奥へと続く木々に守られた小道、さらにその奥に仄見える洋館がその本命の住居であった。
都会であるのに、鬱蒼とした樹木に覆われ、周囲とは隔絶した別世界を形造っている。
憧れると言うよりは、足を踏み入れるのも憚られるような、凛とした空気がそこにはあった。

 その前に、ふと一台の黒色のタクシーが停まった。
中から一人のスーツ姿の男が姿をあらわし、門前の石畳の上に降り立った。
歳の頃は三十手前ぐらいであろうか?
スラリとした長躯と、整った顔立ちが印象的な好男子であった。
男は手に土産物のような袋を下げていた。
そして、躊躇うことなく呼び出しの鈴を押した。

 話は通っていたのか、それに呼応するかの如くすぐに門は静かにその口を開いた。
男はそこから中へ入り、木々の小道へと消えて行った。
その後再び門は何ごともなかったかのように、またその厳めしい口を閉じた。
ありふれた日の午後の出来事であった。