「N/A」の感想。
・ときおり出てくる独特な表現がつまらない。軽すべり。
・一人称的な書き方をした三人称。意図があるのだろうが、あまり効果的ではない。普通に一人称でよかった。
・股から血が出るのが嫌なだけ、という理由でダイエットに励み、生理をとめているという設定はおもしろかった。
・まどかを中心とする友人関係の描き方が自然でよかった。
・主人公自身もかなり他者をカテゴライズしているにもかかわらず、そのことへの言及や葛藤が作中にないので読んでいてかなり苛々した。
・最後には成長できてよかったねめでたしめでたし的なラストが、安易といえば安易だが、読後感は爽やか。コスパ最強なラストって感じ。
・選評を読んで思ったのは、どの選考委員も大げさってこと。「カテゴリー化の暴力への違和感を主題」と東浩紀は書いているが、「暴力」なんて言葉がふさわしいような事柄はなにも書かれていない。そもそもカテゴリー化は思考やコミュニケーションに欠かすことができないものであって、問題なのはいきすぎたカテゴリー化だ。しかし作中にそういったものは描かれていない。だから主人公に怒りはない。主人公が自分の考えを相手に伝えればいいだけの話がいくつも出てくるだけ。母親にも保健室の先生にも「血が嫌なだけ」とダイエットの理由を説明すればいいのに、それをしない主人公。うみちゃんにたいしてもそうだ。別れ話のときも自分の考えを述べずにただ「別れて」と迫るだけ。それなのに、自分を理解してくれる人がいないことに不満を抱くのだから、主人公はただの我が儘だ。けっこう枚数をかけて語られているのに選考委員が全員スルーした「かけがえのない他人」という存在も、はっきりいって「自分に都合のいい存在」でしかない。
・美点もある作品だったが、まるで「帯の文句コンクール」でもやっているかのような大げさな選評にげんなり。