「え、あ、おあようざいやす」
「帰るわ。鍵、どうしておけばいい?」
「そのままにしておいてくらさい」
 眠そうな声で答える。
「大丈夫か? 不用心じゃないのか?」
「え、大丈夫しょ。オートロックだし」
「さとみとやれたのか?」
「ええ、かげさまで。ありやとざいやす」
「良かったな。どうだった?」
「え? そりゃ、良かったっすよ。ありやとやいやす」
 山崎の声からは早く電話を終わらせたい気持ちと苛立ちががひしひしと伝わってきた。
「さとみは処女だったか?」
「え? 違いやすけど」
「柔らかかったか?」
「え? 知らないですけど。もういいでしょ? また今度、話しますよ。今は寝かせて下さいよ」
 私はただ独り、朝の中に放り出された恨みを簡単に手放したくは無かった。仲間が欲しかった。
「なあ、聞こえるだろ? ホーホホ、ホホーって。知ってたか? あれ朝の鳩の鳴き声なんだって。やつら、クルックー、クルックー鳴いているだけじゃなく、ちゃんと色々使い分けて……」
「知らないですよ! キショいって! 朝から! もう切りますよ! ホント、勘弁して下さいよ! マジで!」
「なあ、ヨウコってさ、実はさ……」
 ツー、ツー、という音がした。通話を切られたようだ。
 また、朝の中に、独り。溜め息を吐く。タバコを吸おうと思い、吸えないことを思い出し諦めた。
 ヨウコを見ると相変わらずスースーと寝息を立てて勝手に気持ち良さそうに眠っている。呑気なものだ。溜め息混じりに、帰ったとて、と、独り言をいってみる。
「おい」
 彼女に声を掛けるが。返事はない。また、溜め息を吐く。つまらない。
 タオルケットをめくり、ヨウコの形の良い胸を眺めた。柔らかい記憶が思い起こされる。なんとなしに乳房を触ったり揉んでみたりしながら、ああ、今日はバイトか、行きたくねえな、そんな事を考えていた。
 指が乳首の辺りに触れた時、あっ、という声が聞こえて手を止めた。なんだ? ヨウコか? 起きているのか?