カキィィィン!

ふと。
高く澄んだ金属音で気がつく。
右手になじんでいた筈の短剣の重さが、いつの間にか消えている。
どこからか歌が聞こえる……あれは聖歌。
数十人の男性と女性の聖歌隊が、声を合わせて紡ぐ、神の栄光の歌。
「すべてのものは自然の乳房から命を飲み―――」
静かに、荘厳に。
それこそが目に見えぬ障壁となって、確かに私の足を止めている。

呆然と空を見上げると、敷き詰められていた雲の中心に、超常的な力で円状の穴がぽっかりと出現した。
それは爆発的に広がり、一遍の曇りもない青が覗けた途端……
強烈な光が空から降り注いだ。
目を開けていられはいられない程まばゆく、世界の境界さえも消し去り、あたりを白く塗り潰す。

「虫けらにも平等に快楽は与えられる―――」
分かってる、私もかつて聖職者だったから知っている。
聖歌は、現実をも剥ぎ取り、新たな世界を作り上げる。
幻覚で作り出された、人の歴史を。