筒井康隆編『70年代日本SFベスト集成2』ちくま文庫
徳間文庫版解説より

 山野浩一はまた、一方で競馬評論家としても名をなしている。
彼の競馬予想は「ウマは血で走る」という血統重視の観点から
なされていて、この独断的予想法は彼のSF評論の独自性を思
わせ、なかなかに彼らしくて面白い。つまり彼にとっては、
勝つと予想した馬がいかに惨敗しようと、それを認めることは
自分の思想の変容を強いることになるため、頑として予想の観
点を変えないというわけだ。彼のSF評論がしばしばSF作家
たちの神経を逆なでして彼らを怒らせるのは、SF作家たちが
それぞれ自身の持つ価値観で創造した世界を、まったく別の価
値観、SF作家たちがまったく思ってもいなかったような観点
から攻撃してくるからであって、これが作家たちに「無いもの
ねだりだ」「言いがかりである」果ては「書きかたがにくにく
しい」と感じさせ、反撥させるのである。ともあれ、そういった
自己の主義主張を大切にして、日本SF作家クラブ入会の誘い
を拒み続けている山野浩一の態度は、なかなかに立派であると
いえよう。