銀河の壺なおし読んだ。
巽孝之がディックのメタ要素について書いた文章がカッコイイね。
新大陸を発見した事に気づかずに死んだコロンブスになぞらえて、
メタSFの開拓者としてのディックを強調して聖書のシュミラクラとして読解するやつ。
そこで言う物語内部における物語批評装置による形式解体に、
ディック自身の人生を投影した伝記批評という組み合わせの妙が、
時代を超えて読み継がれる原動力なんだろうね。
同じ胎児でもスターチャイルドに代表される形而上SF的な存在感に加えて、
壺なおしの胎児はジェーンを連想してしまう点で一味違う。
それと最後の一文に象徴されるような作者自身が物語による救済を信じない悲観的な態度。
ただ、アルベマスの後書きで参照されてる書簡集の、未来の予言書との出会いから、
それをユービックと名付けてヴァリスを執筆していく過程は娯楽小説の枠からは逸脱してるようでついていけない。
グリマングもタライ回しにされてボツになったそうだがアルベマスを送りつけられた編集者もさぞ困惑した事だろう。
リニューアル版のスタイリッシュな表紙に比べると、旧版の方がそういうディックの魅力を表現していたよね。
磔にされた無数の女性の上で、これまた無数の赤ん坊が笑っている聖なる侵入の表紙なんか見ると相当に怖い。