さて、ここでドク・タイガー(山風忠庵)に触れないわけにはいかない。
タイガーが物語の中央に座する人物であることはすでに触れた。また、新幻魔大戦の前半「種蒔きパート」における、彼の前世に、山風忠庵が当てられたとする推理は述べた通りだ。
改めて主張しよう。彼はこの物語から外せないのだ。

私の推測する「当時の幻魔の正体」――そこに迫るエピソードがストーリー上のクライマックスに用意されたはずだ。それはもちろん未筆であるが、ここでタイガーにスポットライトが当てられたであろうことは予想に難くない。
タイガーは悪を躊躇わない、悪を疑わない、立ち止まって吟味することなく、迷わず悪の道を選ぶだろう。
それは人間存在の絶望であり、悲劇的性質だ。
当時の平井和正はそれを渇望するかのように、タイガーという悪人を熱中して書いたことだろう。
で、平井和正はここで悩むはずだ。彼をそのまま「幻魔の胎児」にしてしまうか、またはもう一度「回心」させ、別の未来を与えるか……。