古典情報幾何から量子情報幾何へ 長岡浩司
ttp://www.sci.osaka-cu.ac.jp/~ohnita/2007/mini2007/nagaoka.pdf

量子情報幾何は完成した体系ではなく、色々な人が色々な方向に色々な研究を行っているところである。
しかしそれなりに蓄積があり全貌を明らかにするのは限られた時間では無理なので、今回の話の内容が量子情報幾何の全てではない事を最初に断っておく。
古典情報幾何については昨年に講義したが、ここでは確率分布の空間上にFisher計量と云われるRiemann計量とα-接続と呼ばれるアフィン接続が自然に導入され、
ある意味でこれら以外は現れない事を保障するCencovの定理により、色々な異なる設定での問題で同じ幾何構造が現れる。

見方を変えるとこれは相対エントロピーの幾何とも思える。相対エントロピーは確率論や統計学において重要であり、これともよく符合する。
古典情報幾何は非常に統一感を持って眺める事が出来、相対エントロピーを押さえておけば良いとの安心感もある。

量子情報幾何はそのような世界を量子状態の空間に拡張したときにどうなるかを問う事が主要なモチベーションである。
そこで現れる世界の特徴は先ず多様性である。 Cencovの定理に相当する一意性定理がなくなり、自然な条件のもとでさまざまな構造が導入される。
もうひとつの特徴としてはこれら多様なものを列挙した場合に閉じている感じがしない事である。

特に量子相対エントロピーを眺めていると、幾何的に見ても情報理論・統計学的な問題設定から見ても、これだけが重要という気がしない。
もっと何か大きな枠組みがあってその中の断片を見ている感じがする。
別の云い方をすれば断片を見ると相対エントロピーや幾何構造が現れているような感じである。
これらを包むものがどういう空間の幾何かも判らなければ、幾何学に収まる保障もない。