私は大手ソフトウェア企業、日本サイモン株式会社の品質保証部門に勤めるマネージャー
である。ある日大手の顧客であるコメモト社からディフィカルティが上がって来る。それ
は、日々100件以上上がって来るバグリポート票の1枚に過ぎなかった。過ぎないはず
であった。
私は事業部長に呼び出される。コメモト社のディフィカルティは、恐るべきウィルスの存在
を示唆していた。やがてマイクロソフト、ノートン等の企業から発表されたそのウィルスの
名は「ワールド・ターミネーター」。だが、世界はまだこれが恐ろしいウィルスだということ
を知らない。その動作は、取り付いたアプリケーションの一部の動作を勝手に変えてしま
うというものだった。顧客から見ればアプリケーションのバグにしか見えない。事業部長
から私に下った命令は、ワールド・ターミネーター対策の優先度をトップにせよというもの
であった。
コメモト社からのバグリポートは日本サイモン社のデータベース管理ソフト、「DAIDO
Express」に対するものであったが、やがて日本サイモン社の他の製品についてもワールド・
ターミネーターが原因と思えるディフィカルティ・リポートが次々と上がってくる。
そのウィルスは次々と自分自身を改変し、未知の暗号化方式で暗号化されているため
解析は不可能。どんなウィルス対策ソフトもお手上げの状態であった。
世界中のコンピュータ・ウィルス研究者、技術者、ソフトウェアの権威が動き出す。発表
された結論は「現在の最新のコンピュータを使っても解析には天文学的な年数がかかる」
というものであった。