1944年のクリスマスの夜、午後9時にワルシャワの北東のモドリンにいた「ヴィーキング」師団司令部に電話がかかってきた。
作戦参謀のギュンター・ヤーンケSS中尉が電話に出ると、交換手が告げた。
「SS中尉。軍団司令部がお呼びです」
軍団参謀長マンフレート・シェーンフェルダーSS中佐からの電話だった。
「シェーンフェルダーだ。師団長はそこにいるか?」
 カール・ウルリッヒSS准将はいなかった。
「いいえSS中佐。SS准将は将兵とクリスマスを過ごすため前線に出ておられます」
指揮官が暇を見て前線に出ることは好ましい行動である。
「非常によろしい。SS大将と替わるぞ!」
替わって第4SS装甲軍団長ヘルベルト・オットー・ギレSS大将が電話に出た。
「ウルリッヒはいないと聞いたぞ」
ガミガミ屋のSS大将は、師団長が留守なのが気に入らないらしかった。
「注意して聞け」
「我々はドーピュミューラーでユリシュカに行く」
しばらく間を置いてギレが聞いた。
「分かったか?」
 75歳の工学博士ユリウス・ドーピュミューラーは帝国運輸相である。動詞として使うと鉄道移動を意味する。
 第4SS装甲軍団は鉄道移動でハンガリーに行くという隠語なのである。
「ところでいつですか?SS大将」
 ヤーンケSS中尉は尋ねた。
「直ちにだ!ドルは今晩で、君たちは明日だ!」
そう言うとギレは電話を切った。