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満鉄には満州国皇帝用のお召客車「トク1」があった。
満鉄が誇る特急「あじあ」の予備編成と組む展望車で、
世にこともなければ”お召列車”の牽引には満鉄パシハ型蒸気機関車があたっていたはずであった。

・・・満州国最期のお召列車、こと「満州国宮内府関係者専用特別疎開列車」は、
昭和20年8月13日午前0時、新京駅を発車との決定が満鉄本社から下り、
大混乱の中、「トク1」を含む列車編成に手間取ったがため、憲兵隊が駅長室に怒鳴り込むハプニングもあったが、
かろうじて新京駅で、旧宮内府要人やその家族が乗車できた。

満州国皇帝が「トク1」に乗車できたのはその次の駅、東新京駅からであったが、
この列車について証言を残している、満鉄新京鉄道管理部の職員いわく、
「ご乗車の間もなく、お召車内の大鏡が大きく破損し、今にして思えば不吉な予感がした」。

当初、この疎開列車は、吉林経由、鴨緑江上流の臨江まで行く予定で、
事実、翌8月14日未明、吉林に到着してはいるけれど、
8月14日正午着の梅河口駅で、すでに下車する乗客はいなかった・・・と、いう証言が残るばかりで、
皇帝のその直後については各種の文献や証言があるが、
「トク1」のその後については、確たる記録がない。

今のところ「トク1」の写真が掲載されている文献は「大陸の鉄輪」だけだが、
それによると、中国共産党要人用の貴賓車として使われたのち、放置、解体されたという・・・。