【大内清の中東見聞録】シリア化学兵器疑惑で再び現れた「父の亡霊」

 内戦下のシリアで4月、猛毒サリンとみられる化学兵器が使用された問題で、「アサド政権犯行説」が固まりつつある。
成分などを調査したフランスのエロー外相は4月26日、「使用されたサリンの製造方法などの分析により、
シリア政権の責任についても何ら疑いがない」と断じた。
 アサド政権は昨年末、北部の要衝アレッポを反体制派から完全奪還するなど優勢を確立し、内戦の勝利をほぼ決定づけていた。
にもかかわらず、なぜ国際社会を刺激するのが必至である化学兵器の使用に踏み切ったのだろう。
 愚考するに、もっとも大きな理由は、(1)化学兵器の戦術的な効果の検証と、(2)内戦後を見据えた周辺国への武力誇示だろう。
 シリアは2013年の首都ダマスカス近郊での化学兵器使用疑惑を受け、化学兵器全廃に向けた
化学兵器禁止機関(OPCW)の計画を受け入れた。今となってみればこれは、国際社会からの非難をかわすための方便だった。
当時は反体制派の勢力が強く、万が一にも米国などの本格的な軍事介入を招けば、政権が一気に崩壊する恐れもあったからだ。
 しかし、後ろ盾であるロシアの本格的な空爆支援を受ける現在では、反体制派に対する軍事的優位は明白。
ロシアとの衝突を避けたい米国が本気で政権打倒に動くことはない。また、アサド大統領を排除すれば「イスラム国(IS)」など
イスラム過激派のさらなる伸長も招きかねないことから、米国は結局、政権存続を容認せざるを得なくなるだろう。
シリアに軍事権益を確保したいロシアがアサド政権を見限ることもない。
 そう読んだ上で、化学兵器を使用した場合の殺傷力や攻撃範囲を実戦で試したのではないか。
さらに、隣接する敵国イスラエルなどに向け、「化学兵器の使用をためらいはしない」とのメッセージを送り、抑止力とすることもできる。
 ところで、化学兵器が使用された北部イドリブ県は、アサド政権に敵対的なイスラム教スンニ派が優勢な地域だ。
中でも今回の攻撃の標的となった町ハーン・シェイフーンは、反政府機運の強い中部ハマに近く、
主要な街道の一つでつながってもいる。