戦前の日本政府「国債を買いませう。財政破綻の心配はありませぬ。国民が貸し手ですから。」

1941年10月、大政翼賛会は戦費調達のため隣組読本「戦費と国債」(42ページ)を出版。150万部刷って、全国の隣組や学校に配った。
現存する冊子を読んでみた。当時としてはきわめてやさしい文章だ。
とりわけQ&A方式で国債の安全性を強調するくだりは、根拠は薄くても安心感を誘う巧妙な説明になっていた。こんな具合に。

(問)国債がこんなに激増して財政が破綻(はたん)する心配はないか。
(答)国債は国家の借金、つまり国民全体の借金ですが同時に国民がその貸し手で……。
「国債が激増すると国が潰れる」という風に言われたこともありましたが……経済の基礎がゆらぐような心配は全然無いのであります――。

いまも膨れあがる国債は大問題だ。だが「国債は国民資産でもあり、問題ない」という論者も少なからずいて、国民全体の危機意識は高まっていない。
いつの時代も甘言がふりまかれ、危機感が薄れていくものなのかもしれない。

戦時国債の結末は歴史が示す通り。
敗戦直後に重い財産税が課されたり超インフレが起きたりして、国債は紙くず同然になった。
では敗戦でなければ、紙くずにならなかったのか。

「いや、どちらにしてもそれは避けられませんでした」
財政史に詳しい財務省主計官の中山光輝氏はそう言う。
氏によると、日本の歴史のなかで政府が財政破綻し、借金を踏み倒したことが敗戦時のほかに、もう1回あった。
明治維新の廃藩置県である。

明治4(1871)年、それまで各藩が発行していた藩札や藩債をすべて明治政府が引き継いだ。
政府はその多くを整理し、切り捨てた。

江戸時代も、戦前も、政府の借金が著しく膨らんだだけで財政破綻に至ったわけではなかった。
実際はひどい状態のまま何年も持ちこたえた。
そこに明治維新、敗戦という外的ショックが起きて、いよいよ財政破綻に至ったのだ。

「債務が増えると国家のリスク対応力はどんどん落ちていく。
そこに大きなショックが加わったとき、初めてリスクが顕在化し財政破綻に至るのです」と中山氏は言う。
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