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北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記＝2021年6月29日、AP

　新型コロナウイルス対策に伴う国境封鎖や農作物の不作の影響を受け、北朝鮮で厳しい食糧事情が続いている。当局は今夏ごろから「国家食糧販売所」を各地に設け、市場価格より1〜2割安く米やトウモロコシを供給している。食糧価格の値上がりを抑制し、住民の不満を抑える狙いだが、今後も十分に食糧を供給できるかどうかは不明だ。

　北朝鮮関係者によると、北朝鮮では5〜6月、国内産の米やトウモロコシ価格が急上昇したほか、中国からの輸入に頼っていた砂糖や食料油などは価格が10倍以上に高騰し、「食料が市場にあっても高くて買えない」との悲鳴が住民から出た。そのため、北朝鮮当局は6月末に市場価格安定化に関する「布告文」を公表。その後、当初は試験的に設けていた「国家食糧販売所」を全国に拡大した。その結果、1キロ5000北朝鮮ウォン（約130円）を超えていた米価が4000北朝鮮ウォン台前半に下がるなど、価格は徐々に安定したという。



　食糧事情が厳しい中での米の出所については、金正恩（キムジョンウン）朝鮮労働党総書記の指示で、軍が保管している軍用米を放出したものだ、といったうわさが北朝鮮国内で出ている。ある中朝貿易関係者は「古い軍用米を住民向けに放出し、その代わりに防疫のため国内搬入に時間がかかる中国からの支援米を、軍用米の倉庫に入れていると聞いた」と語った。直近の中国の税関統計では中国から北朝鮮への穀物輸出は確認できないが、支援の場合は統計に反映されない可能性もあり、実態は不明だ。

　もともと北朝鮮各地には「食糧供給所」があり、市場価格より極端に安い国定価格で販売していた。しかし1990年代以降の経済の混乱で、こうした配給・供給システムの大半が崩壊。過去20年近く市場を通じた流通が主流となっていた。



　国家食糧販売所の設置については、食糧価格高騰を防ぐための緊急措置であると同時に、食糧流通の主導権を市場から国家のもとに引き戻す狙いがあるとの見方もある。【北京・米村耕一】