潜水艦、それは外界と隔絶された男だけの世界。
一度任に着けば数日は陸に戻ることができない。それはおよそ人間の節理とは異なる環境に身を置くことを余儀なくされることを意味するが
過酷な環境においてこそ潜水艦乗りの矜持は研鑽される。

しかし彼らもヒトという種族の雄である以上、闘争の宿命からは逃れられない。閉鎖空間におけるそれは
通常以上に増幅され、果たして序列の決定として機能していた。
しかし規律において私闘は禁じられている。故に男たちは己の雄を誇示することで力関係の証明をする。
それはある意味、既定路線と言ってもいいだろう。

今日もまた、船内では男比べが繰り広げていた。
己のプライドを纏わせ、そそり立った二本の男根は、まるでマッコウクジラの縄張り争いの様相を彷彿とさせる。
やがてぶつかり合う雄と雄。鞭のように空を斬り、鈍器のように相手を殴打するそのうちに
クジラを操る男たちの呼吸も荒くなる。勝負を決する瞬間(とき)は近い。

それから間もなく、一頭のクジラが潮を噴き、戦いは幕を下ろした。

栄光は勝者にのみ与えられ、敗者は全てを失う。男の世界とは常にそういうものなのだ。
だが勝利の甘美に酔いしれるのは僅かな間だけに過ぎない。仄暗い海の底で次に喰われるのは自分なのかもしれないのだから。