昭和41年から43年までサイゴンに駐在しベトナム戦争の取材を続けた、
NHKの斎藤カメラマン。
当時、北爆の報復として解放戦線の南ベトナム反攻が勢いを増し、
昼はにぎわうサイゴン市内にも夜は解放戦線からの砲撃があり、
NHKサイゴン支局にも土嚢が積まれていたほどだった。

着任してすぐ、斎藤カメラマンが先輩記者に連れていかれたのは南ベトナム政府軍の基地だった。
ここで斎藤カメラマンは解放戦線側が使っているAK47や政府軍側のM16など、
さまざまな武器を見せられ、その発射音まで聞かされることになる。

バァーンバァーンという音は米軍や政府軍のM16、
キィーンキィーンと金属性のきつい音は解放戦線側のAK47、のほか、
耳元でシューッとかすめる音がしたら顔を上げてはいけない、
ピシャッという音がしたら至近距離から撃ったものだから、などレクチャーされ、

のちに斎藤氏が市街戦の取材に従軍した折、
「市街戦の場合は接近戦で、戦闘が始まったときは双方が狙い撃ちできますから、
銃声には敏感にならざるを得ません、音だけは大変神経質になりました」
「シューッ、シューッと耳元をかすめるのは完全に狙い撃ちと見なければならない」
「これらがサイゴン駐在中に、わたしが身を守るために覚えた戦場の知恵です」。